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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
14/95

シンジテタノ二……

「良かったな、こんなにたくさん土産までもらっちまって!」

 サクが歩きながら嬉しそうに背中の革袋を揺らすと、ヤツハが言った。

「土産じゃなくて、これからの食料! あんな小さな村なのに、きっと必死に集めてくれたのよ! 大事に食べるの!」

 と言われている先で、そうっと革袋に手を入れようとするサク。 カイルのげんこつが飛んだ。

「お前、分かっててやってないか?」

「いってー……」

「しかし、本当に良い村でしたね。 皆さん良い人たちばかりでしたし……ですが……ふあぁ~……」

 四人は同時にあくびをした。

「やはり疲れた体に徹夜というのは辛いですね……」

 シリウは眼鏡を外して目をこすった。 他の三人も、急に元気を無くしていた。

「少し、はしゃぎ過ぎたかもな……」

 カイルがこめかみを軽く押さえた。

 折りしも、朝から快晴。 穏やかな日差しが四人を麗らかに暖めていた。

「やべぇ……」

 サクはふらつき、ついに道端に立つ木の根にぺたんと座りこんだ。

「もう歩けねえよ、眠くて……」

 泣きそうに悲痛な表情で、サクが大あくびをした。 体に力が入らない……。

「……あたしもダメかも……」

 ヤツハも同じように、木陰に座り込んだ。 シリウとカイルも長いため息を吐いた。 二人も同じように睡魔に襲われ、体中を疲労感が支配している。 シリウは白くなっていく視界のなか、辺りを見回した。

「本当なら、もっと安全そうな場所を見つけるべきなんですが……限界のようですね……」

「見張り役、してやるよ」

 カイルが力なく言うと、シリウもつらそうに微笑んだ。

「とりあえず十分だけ……すぐに起こしてくださ……」

 言い終わらないうちに、シリウの体は崩れ落ちた。

「! シリウ……」

 カイルもまた、助けようと膝を付いたあと、そのまま倒れこんでしまった。 サクとヤツハも、すでに木陰で目を閉じていた。 四人は、突然襲ってきた睡魔に抗うヒマもなく、深い眠りに落ちていった。

 しばらくして、寝息をたてるサクたちを、複数の影が囲んだ。

 

 

「ん……」

 一番最初に目が覚めたのは、カイルだった。 目の前に地面が横たわっているのを見て、慌てて起き上がると、反射的に自分の体を探った。

「! しまった!」

 カイルは急いで、まだ寝息を立てているサクたちを揺り起こした。

「まずい! 皆、起きろ!」

 目を覚ましたシリウも、すぐに事の大きさを理解したようだった。 自身の両頬を叩くと、首を振った。

「不覚でした! 所持品を奪われるとは!」

「オレの食料もねぇ!」

 サクが叫んだ。 タニヤ村でもらった、食料の入った大きな革袋も姿を消していた。

「一体誰だ、このやろう!」

 その体は怒りに打ち震えている。

 その時、ヤツハはふと足元にキラリと光るものを見つけた。

「これ……ってまさか……」

 シリウはヤツハからソレを受け取ると、丁寧に見た。

「……金箔……ですね……」

「もしかして!」

 シリウはヤツハの言葉に頷いた。

「「タニヤ村か!」」

 カイルとサクが同時に言った。

「何て奴らだ! 戻るぞ!」

 サクは震える手で拳を握った。 シリウも眼鏡を上げて背筋を伸ばした。

「そうですね。 武器も取られてしまっては、この先一歩も進めません。 それに……」

 シリウの表情が曇り、それを察知したヤツハが言った。

「まさかハミウカ紙も?」

「ええ、しっかり盗られてしまいました」

「奴ら、ハミウカ紙を狙って?」

 カイルの眼光が鋭くなっていた。 怒りに満ちている証拠だ。 シリウは静かに首を横に振った。

「いえ、校長が僕たちのために近隣の村や町に手紙を送ったとはいえ、旅の目的までは書いていないハズです。 ハミウカ紙は、世界でも手に入れにくい貴重な物。 そう軽々と口外することはないでしょう」

「それって、売ったら高いのか?」

 サクが体をほぐしながら聞いた。 ぐっすり睡眠も取ったので、頭はすっきりしている。 暴れる準備をするには、充分すぎる体調だった。 シリウは頷いた。

「知っている人が見れば、かなりの高額になると思います。 ただ、あの村の人たちがそれを知っているかどうかは分かりませんが……」

「そうか!」

 サクは充分に体をほぐした。

「じゃあ、そろそろ行くか!」

 三人も、大きく頷いた。

 

 

 その頃タニヤ村では、ガラムの屋敷に数人の男たちが集まっていた。 その中にはガラムもバカラも居る。

「ボス、今回の得物はこれだけですよ。 相手が子供ばかりってのが、よくなかったんじゃないですか?」

 床に無造作に置かれたサクたちの武器や所持品を見下ろし、不満そうなため息をついた。 ガラムもまた、剣やナイフを蹴りながら横に避け、金めの物がほとんどないことを確認すると

「フンッ!」

 と鼻で笑った。

「こんなもんじゃあ、昨夜の宴の分にもなりゃしねぇ。 いっそあいつらの体を売るか、人質にして学校を脅迫するかした方が良かったかもな!」

 と悪態を付きながら物品を蹴飛ばし

「売り物にならねえもんは捨てちまえ!」

 そう仲間たちに言ってその場を離れようとしたその時、ガラムは何かに気付いて足を止めた。

「ちょっと待て」

 そう言って仲間の足元にあった一枚の封筒を拾った。 宛名も差出人も書かれていない、白紙の封筒だが、封はしっかりとしてある。 中身がある証拠だ。

「こりゃぁ……」

 いちべつしたガラムは、ニヤリと顔を歪めた。

「大物だぜ、こりゃ……」

 バカラたちは何のことか分からず、ただ途端に嬉しそうな顔をしたガラムをきょとんとした表情で見るだけだった。

 

 その時、何かが破壊される大きな音と共に、大きなものが倒れる音がした。

「な、何だ!」

 慌てて様子を見に行ったバカラたちの前には、粉々に砕け散った門が崩れ落ちていた。

「一体誰が?」

 呆然としているバカラたちに、立ち上る砂煙の中から声が届いた。

「オレたちだよ!」

「おっ! お前らか!」

 サクの声に、バカラたちは一斉に彼らを見据えた。 シリウは眼鏡を指で上げながら悠然と言った。

「預けていたものを、返してもらいに来ました」

「おとなしく返しなさい!」

 ヤツハも怒り心頭だ。 カイルも鋭い眼光を放って睨んでいる。 バカラはそんな彼らを見て、高笑いをした。

「わははは! やめておけ! 俺たちは戦いなれた流族だぜ。 目的の為なら女子供だろうと容赦はしない。 だが、子供の命を無造作に取るのも気が引けるのでな、今あきらめて引き返せば、命だけは見逃してやるぞ!」

 シッシッとまるで小動物でも追い払うかのような仕草をするバカラ。 完全に見下しているバカラに

「それが、あきらめられないんですよ。 とても大切なものをあなたたちに奪われてしまったのでね」

 とシリウが静かに言った。 そうは言っても、彼の心の中は燃えるように怒りに震えていただろう。 他の三人も同様だ。 立ち姿から、怒りの気が放たれていた。

「ご託はいいから、早くあたしたちから奪ったものを返しなさい!」

 ヤツハも苛立った口調で言った。

 バカラは一層笑い飛ばしたあと、大きな斧を構えた。 他の仲間たちもそれぞれに剣や鎌などを構えた。 臨戦態勢だ。

「やるってんなら、遠慮なく行くぜ、おっさん!」

 サクが飛び出すと、他の三人も同時に地面を蹴った。

 

 訓練で身に付けた技術を駆使して、四人は戦った。 サクはまだしも、シリウ、ヤツハ、カイルにとって一つ難点だったのは、丸腰だったことだ。 それぞれ得意とする戦いを伸ばしてきた彼らにとって、いつも使っている武器が無いのは、心もとない事だった。 だがその心配も、やがてそれぞれが倒した男たちから奪った武器ですぐに解決した。

 屋敷の外は、戦いで生まれた土煙に包まれた。

 村のあちこちから仲間が出てきて襲いかかる。 こんな小さな村に、こんなに屈強な男たちが何十人も居たのかと不思議に思うほどの団体に囲まれながらも、四人はその身軽さを武器にその壁を崩していった。 ガラムの屋敷までもう少しの距離まで近づいた。

「クソッ! ちょこまかとうるさい奴らだ!」

 バカラが大きな斧を振り回すが、サクたちにはかすりもしない。

 苛立って力任せに叩きつけた地面に深々と刺さった斧を引き抜こうとするバカラの後頭部をサクの足が蹴りおとし、もんどりうったその太い腕をシリウが背中にねじり上げ、うめき声を上げる首元にカイルがナイフを付きつけ、動けなくなった汗だくの顔を見下ろしたヤツハが余裕の表情で尋ねた。

「お頭さまは、どこ?」

 残党たちは、リーダーであるバカラがねじ伏せられている様子に愕然とし、動きが止まった。

「っ……奥の……部屋だ……」

「行くぞ!」

 サクの声でシリウはその手を離し、一同はガラムの家へと歩を進めた。

 山のように詰まれた流族たち。 そこに、ゆっくりと起き上がる影。

「このガキっ!」

 バカラは懲りてなどいなかった。 勢いよく地面を蹴り、サクたちに再び襲い掛かろうとしたが、すぐにその体が止まった。 冷静にカイルが放ったナイフが、バカラの喉元を貫いたのだった。

「な……」

 血しぶきを上げ、大きな砂煙を巻きあげて倒れたバカラを振り返ることも無く、サクたちはガラムの屋敷へと入って行った。

 御用聞きと偽っていた下っ端たちもなぎ倒し、わき目も振らずに奥の部屋へと歩を進め、やがてその扉はサクの足によって無造作に開け放たれた。

 

 部屋の奥では、驚いた顔をしたガラムが追い詰められたように、サクたちを震えながら見ていた。

「オレたちの荷物、返せよ!」

 迫るサクの前で、ガラムはハミウカ紙の入った封筒を破る格好をした。

「これだろ? こいつは土地を浄化するというハミウカ紙。 どこでこれを手に入れたのかは知らないが、こいつが無くなると、お前らは困ることになるんだろう?」

 ガラムの目が見開かれ、その顔は憎らしげに歪んだ。

「てめぇ! 卑怯なことすんな!」

 サクが動けずに怒ると、ガラムの顔は一層ひどく歪んだ。 確証を得た証拠だ。

「それ以上近づくな! こいつを破るぞ!」

 だがシリウはかまわずに足を進めた。

「く、来るなと言っているだろう!」

 ガラムは慌てふためきながら後ずさりをし、封筒を顔の前に持ってくると、今にも破り捨てる素振りを見せた。

 だがシリウは冷静な顔で、ゆっくりと眼鏡を指で上げた。

「破るのが先か、あなたが命を落とすのが先か……」

 そして不敵に微笑んだ。

「! 何っ!」

 動きが止まったガラムの首元に、ナイフが突きつけられていた。

「い……いつの間に……」

 ガラムの冷や汗が、その頬を流れ落ちた。 震えながら目玉だけを向けたガラムの目の前には、冷たい視線を向けたカイルの顔があった。

「その封筒を離せ」

 抑揚も無く冷たく言い放つカイルの前で、ガラムの震える指から封筒が静かに落ちた。 軽い音を立てて床に落ちた封筒をシリウが悠然と拾い、ホッとしたように微笑んだ。

「このやろーっ!」

 サクが怒りの表情でガラムに殴りかかろうとしたが、その腕はシリウにつかまれた。

「何するんだよ! 一発殴らせろよっ!」

 もがくサクに、シリウは静かに

「もう、終わりました。 無駄に手を汚すことは無いですよ」

 と微笑んだ。 サクは悔しそうに、ちっ!と舌打ちをして

「お前、命拾いしたな!」

 と捨て台詞を吐いた。 シリウもサクの腕をそっと離し、カイルに頷いた。

 カイルのナイフが離れ、ガラムが力なく座り込む前で、サクたちは自分の荷物を拾ってほこりを叩き落した。

 

 

「ここ最近、この辺りで強盗が頻繁に起きているという噂は聞いていました。 ここまで来る途中で襲ってきた流族たちがそうなのかと思っていましたが……まさか居を構え、普通の民を装っているとは思ってもみませんでした」

 シリウは冷たい目でガラムを見下ろした。 ガラムは全てを失ったことを理解し、すっかり意欲を無くしてうつむいていた。

「確かに、外を歩き回る流族よりは、安全で確実な方法かもしれませんけどね。 人様に迷惑を掛けるようなことをする流族を、僕は絶対に許せません!」

 シリウの冷たい視線に小さくなったガラムを置いて、サクたちは荒れ果てた廊下をすり抜けて、屋敷を出た。

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