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ヴァンドル・バード  作者: 天猫紅楼
11/95

ザ☆ピクニック!

 翌朝の集会には、何事もなかったかのようにカイルの姿があった。

「カイル! もう身体はいいのか? 飯食ったか?」

 サクが駆け寄り、心配そうな顔をしてカイルを覗き込んだ。

「サク、しつこく追い回したのが良くなかったんじゃないかって、悩んでましたよ?」

 シリウも静かに近寄った。

「サクの性じゃないよ……」

 カイルが言うと、ヤツハも駆け寄ってきた。

「カイル! よかった、元気になったのね? いきなり倒れるんだもの、びっくりしたわ」

「あの……」

 カイルは、三人を前にして少し体を揺らしながら言葉を選んでいた。

「皆、心配してくれて……ごめん」

 すると三人は顔を見合わせて微笑んだ。 サクがカイルの肩を叩いた。

「当たり前じゃんか! オレたち仲間だぜ!」

 傷だらけの顔が笑顔で溢れている。

「心配して当然です!」

 背筋を伸ばしたシリウが、眼鏡を上げながら言った。

「ね、昨夜考えてたんだけど、皆でピクニックに行かない?」

 ヤツハが突然な事を提案した。

「ピクニック?」

 カイルが怪訝な表情をして言った。 ヤツハは人差し指を立て、飛び上がるように迫った。

「そう! 皆せっかく協力して試験を合格したんだしさ、あたしたちだけでお祝いしてもいいんじゃないかなって! カイルだって、あの料理もろくに食べてないんでしょ?」

「それいいな! 弁当持ってなっ!」

 サクはすっかり乗り気だ。 そもそも彼は楽しそうなことには目がない。 すでに瞳が輝いている。

「一日くらい授業を捨てても良いじゃないですか。 夕方の集会に間に合えばいいですしね。 お互いを知るいい機会かも知れませんよ、カイル」

 シリウが微笑んで言うと、カイルはあまり嬉しそうな顔をしていなかった。

「いや、俺は……いいよ」

 少し後退りをしながら断る態勢をカイルから感じたサクは、しっかりと両肩をつかんで迫った。

「絶対楽しいって! オレが保証する! な! 決まり、なっ!」

 カイルはサクの押しに勝てず、思わず頷いてしまったことで、サク、ヤツハ、シリウ、そしてカイルの四人によるピクニックが決定した。

 

 

 

 その日は快晴だった。

 澄み渡る青空が、山道を歩く四人の心を晴れやかにしていた。

 朝の集会のあと、学校を出て歩く山の中は、つい数日前に凄惨な試験があった同じ場所だとはまったく感じさせず、木々の間を穏やかな風が流れていた。 山の裏側に向かって何分か歩くと、急に目の前が開けた。

「こんなところが……?」

 カイルは思わず目を疑った。

 目の前には、木々が囲むように草原が広がっていたのだ。 はるかかなたに、山々が浮かんでいる。

「素敵なところでしょう? サクが見つけたのよ」

「たまにこうして遊びに来るんですよ」

 ヤツハとシリウが楽しそうに言う。 一足先に草原で気持ちよさそうに転げ回っていたサクが勢い良く立ち上がり、カイルを呼んだ。

「お相手願おう!」

「たまには幻獣以外の相手も、いいんじゃないですか?」

 シリウが背中を押すので、カイルは仕方なく荷物を下ろした。 それでも

「ここなら、思い切り暴れられそうだな」

 と静かに言うその口元には、かすかに微笑みが浮かんでいた。

 草原の真ん中で手合わせをしているサクとカイルから少し離れて、ヤツハは周りを散策しながら薬草を摘み、シリウは木陰で涼みながら読書をしている。 皆それぞれにのんびりと時間を過ごしている。

 静かな草原では、二人の気迫のこもった声が空に吸い込まれるだけだった。

 やがて一時間ほど経った後

「ヤツハ、飯――!」

 という声と共に、サクがカイルと共にシリウのもとに駆けてきた。 シリウの近くには、皆の荷物が無造作に置かれている。 カイルはその中から自分の荷物を取り出すと、タオルで顔を拭きはじめた。 気持ち良さそうに、風に頬をあてている。

「お疲れさまでした」

 シリウは自分の水筒を差し出した。

「いや、自分のがあるから」

 断る口調も以前のような刺々しさが少し無くなっている。 シリウが

「そうですか」

 と素直に水筒を下げると、自分が持ってきた水筒から水分補給するカイルをじっと見た。

「なんだよ?」

 シリウに気付いたカイルは、迷惑そうに眉をひそめた。 シリウは軽く微笑んだ。

「いえ、カイル、楽しそうだなぁって思って」

 するとカイルは、動揺したように水筒の蓋を慌ただしく閉め、顔を背けた。 その様子をただ嬉しそうに見つめるシリウの後方から、ヤツハと言い争いをしながらサクが戻ってきた。

「だからまだ昼食には早いんだってば!」

「だって腹減ったんだもん! なんかあるだろ? おやつ的なものが!」

「あんたは食べることしか頭に無いのね!」

 ヤツハは文句を言いながらも、自分の荷物の中から小さな箱を取り出した。

「わお! 焼き菓子じゃん!」

 蓋を開けるヤツハに待ちきれず、瞳を輝かせながらいち早く手を出すサク。 一口食べて雄叫びをあげた。

「うんめぇー!」

 その様子にあきれながら、ヤツハはシリウとカイルには微笑みを見せて勧めた。

「今朝作ったの。 お口に合うか分からないけど……」

 少しはにかみながら言うヤツハから焼き菓子を受け取りながら、シリウはカイルに言った。

「ヤツハの手作り料理は、とても美味しいんですよ」

 と、一口食べて微笑んだ。 カイルも習って一口頬張った。

「……美味しい」

 正直な感想がカイルの口から漏れ、ヤツハは嬉しそうに微笑んだ。

「よかった! たくさんあるから、遠慮しないでね」

「おう!遠慮なんてしねーよ」

 とサクがヤツハの肩ごしに手を出し、一掴み取っていった。

「あんたは遠慮しなさいっ!」

 ヤツハとサクが追いかけっこをしている様子をバックに、カイルは自分の手にあるヤツハの手作り菓子を見つめていた。

「どうしました?」

 シリウが覗き込むと、カイルは我に返って背中を伸ばした。

「あ、ああ、女の子なんだなあって……」

 感心したように言うカイルに、ヤツハから逃れようとするサクが声をかけた。

「こいつの取り柄は、料理だけだぜ!」

「サクっ!」

 ヤツハが襲い掛かるのを器用に避けながら逃げていくサク。 その様子を見ながら笑うシリウ。

「あの二人は、本当に仲が良いですねえ。 さて、今から何をしますか?」

 尋ねられたカイルは、手に残っている焼き菓子を頬張った。

「しばらく休憩」

「そうですか、では僕も読書の続きをしましょう」

 タオルで顔を隠して寝そべるカイルの頭近くにシリウが座り、二人は木陰で涼みながら静かな時間を過ごした。 しばらくして、ヤツハが戻ってきた。

「アイツ、逃げ足だけは早いんだから……」

 そして、カイルの足元に座ると息をついた。

「いい運動でしたね」

 笑いながら言うシリウ。 カイルも体を起こした。 タオルがフワリと胸に落ちた。

「あ、起こしちゃった?」

「いや」

 ヤツハはじっとカイルの顔を見ている。

「なに?」

「あたし、カイルって不思議な人だなぁって、いつも思うの」

「どうしてそう思うんです?」

 シリウは興味深そうに本を閉じた。

「なんて言ったら良いのか分からないけど、いつも一人で、誰とも仲良くしてないみたいだったから、きっと怖くて冷たい人だろうって印象だったのに、こうして一緒に過ごすようになって、思ってた人じゃないって気がしてきたのよね……」

「買い被りすぎだ。俺は多分……最初の印象そのままだ」

 カイルは少し不機嫌そうに言った。 そしてヤツハを見ると、冷たく言った。

「俺に深く関わらないほうが良い」

 シリウはそれを見ながら微笑み、カイルの肩を軽く叩いた。

「まぁそんなに固くならなくても。 僕たちは厳しい学校生活を楽しむために一緒にいるだけですから。 お互いの気を悪くする集まりなんかじゃないんですよ?」

 カイルは何も言わずに、シリウのなすがままになっていた。

 

 そのうち、どこを走り回っていたのか、汗だくのサクも戻ってきた。

「ヤツハ~、腹減ったぁ~」

 気の抜けた声に、場の空気が和んだ。

「サク、あんたはホントにそればっかりよね……でも、もうそんな時間か。 昼食にしましょう!」

 ヤツハは手早くシートを広げると、カバンから三段重弁当を取り出した。 蓋を開けると、センスよく色とりどりに散りばめられた弁当が現れた。

「うまそ~!」

 サクは目を輝かせながら食べはじめた。

「うんめぇ~!」

 シリウもパンを二つ手に取り、一つをカイルに手渡した。

「ヤツハの手作りパンは、本当に美味しいんですよ」

 微笑むシリウを前に、カイルは一口かじった。 ふわふわの生地から立ち上った甘い香りが鼻をくすぐる。

「本当だ……」

 カイルの一言に、ヤツハもとびきりの笑顔を見せた。

「そう言ってもらえると、作った甲斐があったってものだわ! たくさんあるから、どんどん食べてね!」

 そう言って勧めるヤツハに、カイルは言った。

「さっきはきついこと言ってごめん」

 するとヤツハは、気にしてない、と首を横に振り

「この学校の生徒は皆、何か思うところがあって来てる人ばかり。 仲間って、そういう痛みを和ませたり、励まし合ったりするものだと思ってる。 カイルの心が少しでも和らぐことは、あたしも嬉しいと思うの。 今のカイルの言葉は、その証だって思っていいよね?」

 首をかしげて覗き込むように微笑む笑顔は、いたずらっ子のようだ。 カイルは恥ずかしそうに目を背けた。

「よし、次はシリウだ! 手合わせ願おう!」

 腹ごしらえも済み、体力も回復したサクは、勢いよく立ち上がって構えた。 シリウはゆっくり立ち上がり、眼鏡を上げた。

「では、少し汗をかいてきますか」

 少し嬉しそうな表情で、シリウはサクへと歩を進めた。

 

「ホントに、皆全然違うでしょ?」

 弁当の片付けを終えたヤツハが、カイルの横に座った。

「そうだな」

 並んで座った二人は、草原の真ん中で戦い合うサクとシリウを見つめていた。 二人が動くたびに草と土埃が舞い、風に流れる。

「どんな夢であれ、皆、それを叶えるために一生懸命になってる。 卒業したらバラバラになっちゃうのに、こうして集まってる。 これって、とても不思議じゃない?」

 ヤツハは微笑んだ。 カイルはそれを視野の端に見て、また前を向いた。

「そうだな」

 一言呟いてうつむくカイルの何か思いつめた様な表情に、ヤツハはただならぬ雰囲気を感じた。 それを気にしない風に装って、静かに言った。

「仲間になったからって、最初から自分の事を全部言うことはないわ。 気が向いたらでいいのよ」

「ヤツハは……」

 カイルはうつむいたままで改めて言った。

「女の子なんだな」

「な、なによ、また急に? 当たり前でしょ? 胸だってちゃんとあるわよ! 小さいけど……」

 頬を赤らめて言うヤツハを見て、カイルは少しだけ微笑んだ。

「それでいいと、思うよ」

 ヤツハには何のことか分からなかったが、カイルが微笑んだ顔を見られたことが嬉しくて、それでよしとした。 ヤツハの心が希望で温かくなるのを感じた。

 その時、静かに時が流れていた草原に怒号が響いた。


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