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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

落ちた花。

作者: らーむ
掲載日:2026/05/28

春は、出会いの季節だと言われています。


けれど同じくらい、

別れの季節でもあるのかもしれません。


これは、桜が散る頃に終わってしまった、

ある少女たちの、小さな日常の話です。


これは、どこにも存在しなかった春の記録です。

登場する人物、団体、出来事はすべてフィクションです。

さくらが散る日、冬紅が落ちた。


「おーか!元気してた?」


勢いよく背中に飛びつくとおーかは「重いって」と笑った。


「つばきぃ!手ぇ冷たいよ?大丈夫?」


この子は朝霧(あさぎり) 桜華(おうか)。コートの中では誰よりも自由に跳び回るのに、勉強の話になるとすぐ顔をしかめる。


同じバスケ部のキャプテン。

私のライバルで、最高の親友だ。


「おーかが温めてくれてもいいんだよ?笑」


私は冗談っぽく言ってみた。


「しょうがないなぁ」


おーかが両手で私の片手を包んだ。


「おーか手温かい…。」


じんわりと熱が移ってくる。

その瞬間、視界がぼやけて揺れた。


「大丈夫?」


おーかの声が、少しだけ遠い。


「ごめ〜ん、最近ちょっと貧血気味でさぁ。」


そう言って笑うと、胸の奥がわずかに軋んだ気がした。


「そっか、無理しないでね?つばき。」


おーかの声が優しかった。


「無理なんかしないよぉ!じゃあ。行こっか。おーか!」


そう言って、私は一歩踏み出した。

ほんの少しだけ、足元が頼りなかったけど、気づかれないように歩幅を合わせた。


「うん!行こっか。」


おーかの笑顔が、ぱっと咲いた。

その明るさが、少しだけ眩しくて、私は目を細めた。

目的地は目と鼻の先だった。


「着いた!」


コートには桜が舞い落ちていた。

私は素早く準備をし、バスケットボールを取り出しおーかに投げつけた。


「ちょっ!まだ準備してないってぇ!笑」


おーかは楽しそうに笑った。


「ごめんごめん。笑ヘイ!パス!」


おーかはいつも通りパスしてきた。


「あッ……いったぁぁ…」


ボールで指をついてしまった。


「ごめん!気にしないで!1on1しよ!」


おーかは少し心配そうだったが笑ってみせた。


「いいよ!指大丈夫なんだね!?」


私はボールを突き始めた。


「今日こそは勝つ!」


ドリブルしボールをネットに叩きつけようと高く跳ね上がった。


「うわッ!」


膝が崩れた。


「ごめん!なんか力が抜けちゃった!」


おーかが駆け寄ってきた。


「ほんとに大丈夫なの?」


「バスケすれば治る!」


だがその後すぐ息が上がってしまった。


「つばき。今日はやめよぉ?」


正直バスケができないのは残念だったけど。おーかに従うことにした。なんだかそうしたほうがいい気がした。


「つばき。大丈夫?今日変だよ?」


帰り道。おーかが顔を覗き込んできた。


「うぅん、最近疲れやすくなっちゃって。」


軽くおーかに寄りかかりながらあるく。


「つばき。バスケがしたいのは分かるけど。無理は禁物だよ?」


私はおーかと別れ、家の玄関に着くと私はそっと靴を脱いだ。


「ただいまぁ…まだ…お母さん居ないのか…」


自分の部屋に行こうと、階段を登ろうとすると足がほつれてしまった。小さなため息が溢れた。


私はリビングに向かって廊下を歩いた。


ソファに深く座り、手を膝に置き、深く息を吸う。外はまだ明るいのに、心臓の鼓動がどきどきと大きく響く。


少し休めばきっと大丈夫だと自分に言い聞かせて、横になった。


「んぁ……、」


1時間たったかな…体調の変化はない……


「直んないなぁ。」


溜め込んでいた不安が蓋をこじ開け押し寄せてくる。いや、きっと明日には治る。きっと……私は布団にくるまり再び眠りについた。


「…………」


目が覚めると朝日が昇っていた。布団がきれいに掛けられていた。お母さんが掛け直してくれたのだろう。だが体調には変化がなかった。


「どぉして…そんなわけッ………」


目線を上げるとお母さんがみていた。


「つばきちゃん、どうしたの?体調でも悪い?」


私は少しでも、心配をかけまいと笑顔になり言った。


「全然…?大丈夫だよ。」


お母さんは少し考え込んでいった。


「お母さんの長年の勘が言っている。つばきちゃん体調悪いね?病院行くぞ!」


うちのお母さんはこうなると止めようがない……諦めよう……


「はぁ〜い。」


きっと、ただの貧血だ。風邪だ。そう信じたい。


私は流れるように車に乗せられ、病院に連れて行かれた。


その後は早かった。1時間もかからなかっただろう。

お医者さんは少し優しい顔をして言った。


「少し様子を見るから、入院しようか。」


「へ?私、どうかしたんですか?」


「様子を見るだけですので安心してください。」


安心出来るはずがない。だがお医者さんには、逆らいたくない。お母さんは目をそらし、お医者さんは話をそらした。


「つばきさんのお部屋はこちらですね。」


「あ…はい!」


どこへ行っても薬の匂いしかしない。早く直して帰りたい。


「あーあ。」


なんだかため息が出た。

布団にくるまったが眠りにつくことはできなかった。


月が人を見下す時、痛みに目を覚ました。


「はッ。いだ……」


私はナースコールを連打した。


脈が、早まっているのを感じた。


ナースさんが来るまでがどんなものよりも長く感じた。


「どうしましたか?」


声が出てこない。私は胸のあたりを掴んだ。


「お医者さん呼んできます。」


私はよくない病気になってしまったっぽい。


悪い病気じゃない。本当はそうじゃない。冗談って否定したかった。あーあ。なんか。こんなあっさり終わるんだなって。なんだかおーかの笑い声が聞こえた気がした。まだまだおーかといろんなとこに行って、いろんな話したかったな。


私に奇跡が起きることはなかった。


「ねぇねぇ、つばき」


おーかは私に話しかけてきた。


「…………なーに?」


今までみたいに元気な声は出せないけど。


「バスケ…………する?」


少しでも元気づけようと冗談を言ってみた。


「あはは……つばきはいつまでたっても変わらないね。」


おーかが笑ってくれるだけで少し元気になれた気がした。その日の夜誰一人として病室に入れないと誓った。一人は辛い……けど周りの人が集まるのに耐えれなくなってしまった。


「ピッピッピッ」と機械の無機質な音が部屋に響いていた。私は時計から目をそらした。今になって何でお母さんが目をそらしたのかが分かったよ。


不在着信。

不在着信。

不在着信。

不在着信。

不在着信。


――着信。


「もしもし!椿!大丈夫だった?本当に心配したじゃん!」


帰ってきたのは椿の声ではなかった。


「おうかちゃん?」


咽び泣く声が聞こえた。


「うちの椿は………。……。…。」


私は電話を切ってしまった。認めたくなかった。そんなわけがないと否定したかった。


「つばき……?そんなッ!嘘って、嘘って言ってよッ!またいつもみたいに…冗談って…………言ってよ…………お願い…………」


手からスマホが抜け落ちた。


音が遠く聞こえた。


目の前が真っ暗になった。


全身の力が抜け崩れた。


私は………私は……。


抑えつけていた、はずだった。


涙があふれ出してきた。


さくらが散る日、人知れず椿が落ちた。

















読んでくださり、ありがとうございました。


この春の記憶が、

あなたのどこかに残りますように。

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