第三章 椿㉒
眠れなくて——
あれから店の片付けをしていた。
心配する京ちゃんを帰したのは、ありきたりだけど一人になりたかったから。
店内が綺麗になっていくにつれて、心の中も晴れていく。
背中に冷たい風を感じて振り向いた。
眩しい外の光の中に人影が見えた。
誰ぞ彼——なんて思わない。
私にはそれが誰のものか分かるもの。
「おはようございます。夕べは...」
言いかけた真一さんを、首を振って制した。
「まだ散らかってますけど、カウンターなら」
私はカウンターを指し示すと先に歩いて、席に座った。
真一さんも隣に腰を降ろすと、額装の写真とアルバムを置いた。
額縁の中、降り注ぐフラワーシャワーの中を歩く新郎新婦が居た。
製本されたアルバムは、夕べの二次会の写真で埋め尽くされていた。
「馴染みの印刷屋さんにデータを送って、一冊だけお願いしました」
「こんなの昨日の今日......いや、今日の今日で作ってもらえるんですか?」
驚いて尋ねた私に、真一さんはとても難しい顔をした。
「実はかなり無茶な頼みだったので、条件を付けられました」
「ああ、やっぱりお高いんですよね。大丈夫、なんとかします」
そう言った私に、真一さんは首を振った。
「こんな素敵な店を独り占めしないで、俺も連れて行けと言われました」
見つめ合ったまま少しの沈黙の後。
そして堪えきれずに私が吹き出したのを合図に、ふたりで笑いあった。
「ちょっと。なんですか、その条件」
「非常に厳しい条件でした」
「中ジョッキ一杯、サービスしますとお伝えください」
そんな軽口のあと、真一さんは再び真顔になって封筒を取り出して置いた。
「今度は何の写真?」
そう言う私に前に封筒から写真は、全て私だった。
「藤さん。いえ、秀美さん」
「はい」
少し低い声に背筋が伸びた。
「ファインダーは、気が付けば秀美さんを捉えていました。シャッターを切る度に、次の貴女の表情を、仕草を、魅力を追っていました」
そう言って真一さんはペンダントに触れた。
「彼女の前で貴女に告げます。私も貴女が、秀美さんが好きです」
多分——
最後まで聞く前だったと思う。
私は真一さんの胸に飛び込んでいた。
そして、和美さんごと思いっきり抱きしめた。




