第三章 椿⑳
西陽が差し込む教室の窓を開けた。
新緑の香りを孕んだ風が、カーテンと切りそろえた髪の毛を揺らした。
高校一年生。
皆が様子を探り合う時期を過ぎて、仲の良いグループを作り出す四月の半ば。
私は四葩たちと共に過ごす時間が増えていった。
そんなある日の放課後——
「四葩って名前、最初は読めなかったよ」
ひとつの机を囲んで、私たちは授業が終わった開放感を楽しんでいた。
「うん、皆そう言うよ」
四葩は楽しそうに頷いた。
今思えばこの頃の私たちは、何が楽しいのか分からない日常を笑って過ごしていた。
「でもさ、現国のザー先が紫陽花って言ってたの本当?」
これは佳子....
いや、理恵子が言ったんだっけな。
「うん。ウチの両親って身寄りが無くってさ、紫陽花の花みたいな家族になりたいってママが」
「わぁ、ステキじゃない」
「でも、私が六歳の時に死んじゃった」
空気が冷えた。
私は自分の軽率さと、親が死ぬという現実感の無さに口を噤んだ。
どれだけ探しても、次に話す言葉を見つけられずにいた。
それは、あの場に居た四葩以外は同じだった。
「なんかゴメン、空気悪くしちゃったね。だから私は子供バンバン産んでママの夢を叶えるの」
四葩の言葉に救われたように、皆が笑った。
「なによ、バンバンって」
「ホント、四葩ったら」
「彼氏もいないくせに」
「それはアンタたちも同じじゃない」
西陽に染まったセピアの記憶。
私たちは共に学び、笑い、別れ、そしてまたこうして共に居た。
「——覚えているよ。四葩の名前に込められた想い」
「ありがとう、秀美」
私は私たちを隔てる境界のカウンターを出て、四葩の隣に腰をおろした。
「美禰子ちゃん、キレイね」
「お母さんにそっくりよ」
「もうママって言わないんだ」
しんみりした空気は今に合わない。
少しだけ茶化した。
「二児の母ですから」
「二児?バンバン作るんじゃ無かったっけ」
そう言った私の肩を叩いた四葩は「そんな事も言ったねぇ」と、懐かしむように笑った。




