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花物語  作者: 浅見カフカ


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第三章 椿⑱

二次会は新郎新婦の遅刻というアクシデントから始まった。

新郎新婦は、披露宴が終わって即解散という訳にはいかない。

当然、起こり得るアクシデントだ。

想定の範囲内だったのかもしれないけれど、やっぱり藤さんは客商売のプロだと思った。

最近は、この人畜無害な朴念仁に翻弄されているけれど——

私は隣でシャッターを切る真一さんに視線を送った。


藤さんは遅刻の報せを四葩さんから受けると、すぐにウェルカムサインを店内に入れた。

そして馴染みの花屋に電話を入れると「京ちゃん、悪いけど百均でラタンっぽい編み籠を五個くらい買ってきて」と私に言った。



五個か——

なるほど、四人にひと籠ね。

きっと藤さんはフラワーシャワーで、遅刻した新郎新婦を迎えるつもりだろう。

そうすれば先に来ているゲストにも役割が出来る。


あの人はこれを想定していたのだろうか?

それとも咄嗟に?

前者ならプロフェッショナル。

でも後者なら——


きっと藤さんなら後者だろうな。

私には真似が出来ない。

花屋さんも藤さんの為になら無理をするだろうし、融通も効かすだろう。

こういった関係の構築は、一朝一夕の物ではない。


私も将来的には——と思う。

その為には、もっと此処で勉強しなくちゃと改めて思った。


自転車の前カゴに編み籠を入れるとお店にハンドルを向けた。

絶対に新郎新婦より先に着かなくてはいけない。

ブレーキを掛ける度に、けたたましくキーと鳴る。

まるでサイレンのようだ。

こうして私の緊急自転車は、心許こころもとない明かりで前を照らしながら夜を急いだ。



店のドアが閉まるのが見えた。

間に合わなかったのだろうか。

ペダルに力を込めて幾度か押し込むと、前照灯の光の中に花屋の車が入った。


間に合った——

きっと新郎新婦よりは花屋が先に着くはずだ。

そうは思いつつ、自転車を降りた私は編み籠が入ったレジ袋を乱暴に掴むとドアを開けた。


最初に高砂席を見た。

——居ない。

藤さんは......カウンターに居た。

花屋の店主に何度も頭を下げていた。

店主の馬場さんが手のひらを向けている様子から、きっと「いいから、いいから」と言っているのだろう。


私が藤さんの元に駆け寄ると「今度、チャージはサービスしますね」と馬場さんに言ってる所だった。

「そして、しこたま飲んでチャージも今日の代金も回収されちまうんだよなぁ」

馬場さんが頭の後ろを掻いてボヤいた。

「やだ、バレちゃったわ」

藤さんが手のひらを口に当てて、目を大きく開いた。

「おっかねぇなぁ。またカミさんに怒られちまうよ」

そう言って豪快に笑ったが、それも店内の喧騒にすぐに消えていった。


藤さん涼やかな声は、実によく通った。

ゲストたちに呼びかけると雑談はすぐに静まり、皆が藤さんを見た。

藤さんは花びらが入った編み籠を掲げると、フラワーシャワーの呼び掛けをした。

そして籠を配ると新郎新婦がドアを開ける瞬間を待った。


ゲストのワクワクが伝わってくる。

この空気をアクシデントを逆手に作ってしまった藤さん。

皆がドアを見る中、私だけが藤さんを見ていた。


この人の背中を、私は追いたい。



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