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花物語  作者: 浅見カフカ


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第三章 椿⑩

「藤さんさぁ」

「ん」

閉店作業、バッシング中の京ちゃんの声に顔を上げた。

「真一さんと寝たでしょ」

「はぁ!?」

洗っていたグラスを滑らせた。

シンクの中、溜めていたお湯の中に落ちた。

グラスはコポコポと音を立てて、沈んでいった。


「いや、だって妙に気安いっていうか、偽ってないっていうか」

「機微が変わった?」

「そうそれ!ああもう、頑張れ私の語彙力」

的外れだけど、鋭い京ちゃんの指摘は侮れない。

他のお客さんが誤解する前に律しよう。

「いや、それはきっと——」

その前に、京ちゃんの誤解を解かなくては気まずい。


「大将の店でラーメンねぇ。そこはせめてファミレスでしょ。ああ、ある意味攻めたのか」

「あるじゃないの、語彙力」

「いやぁ、でも藤さんらしいわ」

京ちゃんはケラケラ笑いながら、次のテーブルを拭き始めた。


——しばらくの沈黙。


「好きでしょ、真一さんのこと」

「今日は妙に絡むわね」

「中学生の片想いを見てるみたいで、ホッコリしつつヤキモキしてるのよ。コッチは」

京ちゃんに一気に捲し立てられた。


「中学生ならきっと簡単だったんだろうけどね」

「告白した?」

「ううん。気持ちに気付かれないようにして卒業する」

私の言葉に京ちゃんがよろけた。

吉本新喜劇みたいだと思って、小さく笑った。


「まぁ、好きだってことよね」

「......はい」

白状した。

咲かせてはいけないと思っていた花。

京ちゃんに、草むしりしてもらった気がする。

「でも......」

「ペンダントよね」

ああ、やっぱりこの子は聡い。

面接をした時に 、そう感じて採用した。


「あれはね、メモリアルペンダント」

「え?」

そう思った私に「アッシュペンダントとも言うわ。遺灰を入れるの」と教えてくれた。

「誰の?」

「それは知らないわよ。聞いたわけじゃないもの」

京ちゃんは顔の前で手を振った。

当たり前だ、我ながら間の抜けた質問だった。


「真一さん、時折触れるじゃない」

京ちゃんも気になっていたようだ。

「無意識な感じで触れるのよね」

「そう。例えば藤さんなんかは口許を指先で触れるの」

「嘘だぁ」

そんな記憶はさらさら無い。

「考え事する時は指先。それを思いついて話す時は鈎折りね」

京ちゃんの指摘に言葉が出ない。

記憶に全く無いが、ここまで具体的だと事実なのだろう。


「話が逸れたけど、気になって調べたの」

「ググるってやつ?」

「そう、それ。覚えてる特徴でググッたら出て来たの」

そう言うと京ちゃんは、スマホを印籠のように取り出した。


「同じでしょ」

少し眩しい画面の明かりに目を細めた。

そこにあった画像は、確かに真一さんのペンダントと同じものだった。

「身内の方......よね」

「あとは恋人?」

京ちゃんの言葉に射抜かれたように、心臓が縮んだ。

(亡くなった人には勝てないわ)

「藤さん、それ」

京ちゃんが人差し指を口許に当てていた。

視線を落とすと私の指先は口許にあった。


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