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花物語  作者: 浅見カフカ


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第三章 椿⑧

今夜は少し酒が進んでしまったみたいだ。

つい余計なことを申し出てしまった。

再来月の十八日——

私は三年ぶりにカメラを構える。



藤さんの割り込むような言葉に、気遣いを感じた。

この人は普段、こんな乱暴な入り方をしない。

きっと四葩さんが過去かカメラか、或いはその両方に触れないようにしてくれたのだろう。


ああ、ペンダント。

私はまた無意識に触れていた。

きっとこれを見たのかもしれない。

なんとなく罪悪感が頭をもたげた。

いや——もしかすると久しぶりにレンズを通した世界を見たくなったのかもしれない。


「撮りましょうか?」

言葉が口をついた。

「え?」

ふたり同時だった。

そして「いいんですか!?」と四葩さんだけが言った。

藤さんはまだ驚いた表情だった。

「ええ、ここでの写真だけになりますけど」

「写真集まで出してらっしゃるカメラマンさんに撮っていただけるなら、もう十分ですよ!」

四葩さんは興奮気味にそう言った。

そしてふと我に返ったように「下世話な話ですが、謝礼はおいくら程を包むのが相場でしょうか?」と、急に不安げに尋ねた。


「実は人物の写真を仕事として撮ったことが無いので、二次会の飲食自由でどうでしょうか」

「いや、流石にそんな訳には......」

四葩さんの逡巡は、彼女の誠実さの表れだと思った。

私は藤さんを見た。

まるでそうするのが当然のように。

そしてまた藤さんは、そんな私の視線を敏感に拾ってくれた。

私を見遣ると、右の眉が上がった。

私は藤さんに向かって頷いて見せた。

藤さんはほんの僅か、目を細めた。


「四葩、せっかくだからお願いしたら?」

「そうだ!」

藤さんは手のひらを合わせるように叩くと「二次会の予算を増やして、真一さんに美味しいものをご馳走するってのはどう?」と言った。

「それは秀美が儲けたいだけでしょ」

四葩さんは口を尖らせた。

「バレたかぁ」

藤さんが額に手を当てて言った。

そして四葩さんは楽しげに笑うと「上田さんはそれで良いですか?」とグラスを差し出した。

「契約成立です」

カチン。

グラスのぶつかる音がカウンターに響いた。



四葩さんを藤さんが見送った。

店内には藤さんと京ちゃん、そして私が残った。

「真一さん、プロのカメラマンだったんですね。よし、当日は私も美容院に」

京ちゃんが、そう言いかけたところで「行かなくていいから」と、藤さんが制して三人で笑った。

「いやいや、当日は京ちゃんも藤さんもいっぱい取りますから」

私は指でファインダーを作って、二人に向けた。

ポーズを取るふたりに、微笑みかける和美の姿が重なった。

一瞬の硬直。

これがカメラから離れた理由だった。

つい彼女の姿を記憶に追ってしまう。

私は笑って誤魔化すと、手を彷徨わせカウンターに置いた。


グラスに僅かに残ったジャックダニエルを飲み干した。

もう、水の味がした。




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