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狩人の隠れ家

午前1時。車に揺られ、生真は合歓らと共に海岸沿いを移動していた。月を写した海を見つめる生真と、寝ている合歓。まるで小一時間前の戦闘が無かったかのように、平然と振舞っていた。


「合歓さんはまだしも...俺は少しズレてるのかもしれないな...。」


それは生真自身も感じていたようで、寂しさとほんの少しの優越感を感じていた。


「...あの、寝かせてもらいます。」


「...。」


運転席の女性、リューカは一言も発さなかった。だが、生真はそれを了承と捉えた。

シートを合歓と同じ位まで倒し、瞳を閉じて考えるのをやめた。次第に感覚はぼやけていき、いずれ眠りについた。


「...合歓にはガソリン代をたんまり請求してやるんだから......。」


合歓への小声を言いながら、リューカは運転を続けた。



「...きろ...しょう.........起きろ......生真。」


「...ぅあ......えぇ?」


合歓の声で生真は目を覚ました。

時刻は午前6時。神社での戦闘から5時間が経過していた。


「着いたぞ。ここの先に"樫狩衆"本部がある。」


指を刺す先は一面の森。道もあるにはあるが、ほぼ獣道に近かった。


「...この先にですか?」


生真は少し不安そうに尋ねる。


「そうだな...。廃墟とかじゃないから安心しろよな。」


「お話中悪いけど合歓、ガソリン代は払ってよね。」


リューカが合歓に突っかかる。


「......。」


「いや、寝たフリが通用するわけないでしょ!?」


リューカは合歓の頭を軽く叩くと、足早に歩いていった。


「はぁ......。生真、着いてこい。あぁ、ガソリン代は後でキッチリ払うよ。」


「は、はい...」


一抹の不安を抱えながら、2人は森の奥へ進んでいった。



10分ほど歩き続け、2人は巨大な日本家屋へ辿り着いた。その風貌はまるで江戸時代の武家屋敷のようであり、周りは塀で囲まれていた。瓦屋根にいくつもの木漏れ日が当たり、輝く。生真はその幻想的な光景に見とれていた。するとその時、合歓が叫ぶ。


「まずい、今日は朝の定例会議があるんだった。ほら生真走れ!」


「え?あ、はい!」


訳も分からぬまま促された生真は門をくぐり抜け、玄関口に上がった。その内装も、正しく由緒ある日本の屋敷といった印象を受けた。


「すまん急ごう!」


「は、はい!」


合歓に急かされながら、生真は廊下を駆け抜ける。


「はいそこ右、左。...次真っ直ぐ!あ、やっぱ右のが近い!」


曖昧な指示に戸惑いながらも、どこに向かっているかも分からない。ストレスで思わず叫びそうになったその時、合歓が叫ぶ。


「その襖の先!」


スパァン!!!


生真は勢い良く襖を開けた。その先には広々とした畳の間が広がっており、中にいた100人を優に超えるであろう人々が、一斉にこちらに振り向いた。

その中から1人の少女が立ち上がる。


「コラーーーーーーッ!! 定例会議に遅刻した上、襖を思い切り開いてうるさくするなんて!! 寝坊助の合歓! それに...あんた誰?」


中学生程度であろう彼女は、メイド服に身を包み、メガネとカチューシャを着用していた。物静かな風体とは裏腹に、その怒声には並々ならぬ気迫がこもっており、生真は思わずたじろいだ。

群衆からのヤジが飛び交う中、その先から1人、明らかに他とは違う雰囲気をまとった男が近づいてくる。

髭を生やし、髪はオールバック。そしてジョッキを片手に持った大柄な男。


「...名前は?」


「卯月、生真です。」


「何のために来た?」


「俺を仲間に入れてください。」


徐々に辺りが静まり返る。


「...ふむ、そうか......。それは何故?」


「...分かりません。」


「...。」


10秒以上、無音が続く。


「...OK。君を迎え入れよう。」


「...え?」


予想外の返事に、生真は驚きを隠せなかった。


「な...!おじいちゃ...ッ鳴瀬さん!!なんでこんなやつを!? 定例会議を邪魔して、しかも加入理由さえ曖昧じゃない!!」


メイド服の少女が声を上げる。


「まぁまぁキキョウ。いいじゃないか。襖を思い切り開けるのは良く無かったが...あくまでも合歓君の監督不行き届だからな。」


「...え?」


後方で油断し切って寝かけていた合歓は、驚いたような声を出す。


「何故こんなにも遅れたのかと、生真君の事、会議の後でじっくり聞かせてもらおうか?」


「いやぁ...はい...。」


合歓は肩を落とし、みんなに軽く謝罪をした。


「...まぁとりあえず、合歓君。いつもの席に座って。生真君は...キキョウの隣が空いてるかな?」


「嫌がらせ?」


不満気な顔でキキョウは言う。


「我慢しなさい。」


鳴瀬はそう言うと、生真をキキョウの隣へ案内した。


「あはは......どう...も。」


「...。」


キキョウに睨まれながら座布団へ座る。


そこから20分、定例会議は続いた。理解し難い専門用語が飛び交い、周囲からは好奇の目を浴びせられ、隣のキキョウからは明らかに嫌悪感が滲み出ている中、生真は何もすることなく、ただただその居心地の悪さを耐え延びたのだった。



「...ねぇアンタ。」


「え?」


定例会議終了直後、生真はキキョウに話しかけられる。


「何ですか...? キキョウ...さん。」


「アンタ、アラカシ狩り舐めない方がいいわよ。あと合歓なんか信用しない方がいいわ。見栄はってるだけよ。」


キキョウは立て続けにそう言い放った。


「でも...合歓さん、助けに来てくれた時は格好良かった、ですよ?」


「だから見栄はってんだって。」


キキョウは生真を軽く小突くと、廊下を歩いていった。


「なんなんだよ...」


突然の出来事に生真が戸惑っていると、誰かが肩に手を置いた。

「お疲れ様。生真君。私の孫がすまない。」


振り返るとそこには朗らかな顔の鳴瀬が居た。


「あぁいえ...お孫さん?なぜメイド服を着てらっしゃるのですか?」


「いや...分からん。趣味だろう。...あぁそうだ。合歓くんから粗方の話は聞いたよ。8年前、君のお姉さんがアラカシの犠牲になったそうだね。」


「正直...それは僕がここに来た訳とはあまり関係ないんです。」


「...というと?」


「僕は...姉を失ってからの8年間、姉だけを想い、姉だけの為に生きたと思っています。だけど...それは昨日で終わったんです。俺は、生きる理由を無くしてしまったんです。」


「...だからそれをここで見つけたい、という訳かな?」


しばらく間を置いて、鳴瀬はこう言った。


「樫狩衆がどんな組織か、まず話す必要があるね。合歓君からも、詳しくは教わってないだろう。」


「はい。」


「なら着いてきなさい。頭領室で話そう。」




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