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赤坂主殿からの手紙

〈唐辛子食ふて記憶はすつからかん 涙次〉



永田です。今回は前シリーズ第169話で、カンテラ・じろさんが連續放火【魔】・蓮田右馬之進捕縛を競つた、元【魔】、元・火盗改メ方である赤坂主殿からのカンテラへの手紙、と云ふ趣向でお送りします。原文は七面倒臭い(さうらふ)文なので、私が適当に嚙み砕いて書き直して置きました。()入りの注釈も永田に依るものです。ではだうぞ。



【ⅰ】


カンテラ殿、柳生新陰流免許皆傅の拙者が、貴殿に斬られてもう半年が經つ。お蔭で拙者、念願の成佛を果たし、今では冥府と云ふところにゐる。拙者の隣りの或る女性(によしやう)(* 木場惠都巳の事と思はれる)から貴殿についての興味深い事を様々に訊いた。この赤坂を喫驚させるやうな事だらけであつたので、その感想を述べたいと思ふ。



* 当該シリーズ第98話、前シリーズ第200話參照。



【ⅱ】


まずは貴殿の仲間、配下の事。此井(うぢ)は柔術(詳しくは柔術ではない。が、赤坂の時代、格闘技は押しなべて柔術と呼ばれてゐた)の達人だと云ふ。拙者貴殿に斬られながらも薄目を開けて見てをつたのだが、蓮田捕縛の手際達者なものであつた。彼は遠山左衛門尉のように肩に彫り物を入れてゐると云ふ。そんな者が蔭日向のやうに寄り沿つてゐる貴殿は、恐らく彼よりもアクの強い人物に違ひない。何せ左構へで剣を操る剣士には初めて會つた。立てついた拙者が莫迦だつた。否、例へ左利きでなかつたとしても、拙者勝てたかだうか。



【ⅱ】


更に貴殿には、人語を理解し、戲作などものにする猫又擬きの猫やら、體内に龍を飼ふ男、四神の内から靈獸白虎、鎌鼬の仔、()()()()の番犬などが配下にをり、この江戸- 東京か、の不可思議な事件を片付けて収入を得る「事務所」があると云ふ。元はと云へば人を使ふ身である拙者、感服致した。奥方も大變美しいと訊いた。剣士たるもの、斯くありたいものだ。



【ⅲ】


この令和のご時世、着物をきちんと着、大小差して町を闊歩する貴殿は、稀代の剣士だと人の認める人格者であらう。(こゝでカンテラ、咳拂ひ- うおつほん)-



※※※※


〈やあやあと愛想ばかりな秋の人隣りの客はよく柿を食ふ 平手みき〉



【ⅳ】


拙者が現役であつた頃追つてゐた* 伊達剣先も左利き、その絡みで** 内藤主馬・蓮田右馬之進主従に貴殿、付け狙はれた事もあつたと云ふ。その苦勞、察するに余りある。結局貴殿が主馬を斬り、此井氏が蓮田を奉行所、基ゐ警察に付き出したと云ふ。天晴な事である。



* 前シリーズ第80話・他參照。

** 前シリーズ第167話參照。



【ⅴ】


更には貴殿、佛教への帰依篤く、密教の「修法」を自在に操り、また本家「易經」に沿つた八卦も立てると云ふ。心服せずして、何あらんと云つたところだ。



【ⅵ】


【魔】に囲まれた貴殿の半生であつたらうが、これからもたゆまず、斬つて斬つて斬り捲つて慾しい。赤坂主殿草葉の陰より應援致す所存。草々。追伸: これも冥府の近所の話だが、* ルシフェル氏なる人物も興味深い。拙者こんなに心の清しい人に會つた事がない。貴殿ご存じだらうか。



* 前シリーズ第62・200話參照。



※※※※


〈洗濯のレギンス秋は深まりつ 涙次〉



手紙はこゝで終はつてゐる。だうやら惠都巳、びつくりさせ過ぎると云ふ配慮より、カンテラが人造人間、火焔のスピリットである事は話さなかつた模様。この手紙、冥府より「シュー・シャイン」とごきぶり仲間が、よいせこらせと運んで來たものだ。こんな使ひ魔がゐるとは、赤坂には考へ及びもしなかつたゞらう。冥府には夏も秋もないが、人戀しい時もあるんだらうね。ではでは、お仕舞ひ。

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