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理術士の天秤~調律院の業務は平穏であるべきです~  作者: 一枝 唯
第七章

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01 嫌な気付き


 前回の無許可理術事件は、少女タマラが妹マキを助けるため、理術士だった祖母の遺した式盤を使った、というものだ。

 構文内容を理解しないまま理術を使う危険について知るミアンナは、当初は術者を正式に罰するべきだと考えた。

 しかしルカが「子供であっても罰するのか」と難色を示し、結局はミアンナも、タマラが十二分に反省していたこと、危険だったと本人が理解したこと、罪責歴がつけばタマラの人生に関わるかもしれないことを考慮し、二国揃って「無許可ではなく申請が遅れただけ」という形にして済ませた。

 その結果としてタマラはミアンナらに懐き、また遊びにきてほしいと話した。ミアンナはそれに「仕事で近くに来るかことがあれば顔を出す」と約束していた。


 自治領庁舎からそのタマラ宅まで、足早に歩いて十数(ティム)

 今日の用件は、タマラの父タックに、十年ほど前に起きた魔術事故の事件について話を聞くことだ。

 大工であるタックは仕事に出ていることも考えられたが、幸い、在宅していた。ちょうど現場が終わったところだったらしい。


「その節はどうも、家内と娘がたいへん世話になりまして」


 ミアンナはタックと面識があるが、ルカが顔を合わせるのは初めてだった。娘を犯罪者にしないでくれた恩人のひとりだと知り、タックは笑顔で彼らを迎え入れた。


「わあ、ミアンナさん!」


 タマラ嬢はミアンナが本当に訪れてくれたとはしゃいだ。ミアンナは丁寧に、仕事でやってきたので少しだけだと説明し、リーネがタマラをなだめる役に回る。

 するとリーネはそのままタマラに連れられて隣室へ行き、妹のマキと一緒に話したり、手遊びをしたりすることになった。


「ええと、十年前の事故のことでしたか」


 奥方が不在のためか、タックは慣れない手つきで彼女らに茶を入れ、話をはじめた。


「生憎、あっしはそんなに深く関わった訳ではないんですが」

「当時の空気感を知りたいんです」


 ルカが説明した。


「当初、犯人だと言われた人物……テオザ氏について、何かご存知のことはありますか。何でもいいです、どんな小さなことでも」

「そうですなあ……」


 タックは、彼女たちに恩を返すべく何とか思い出そうと首をひねった。


「評判のいい職人だったはずですよ。細工は丁寧で、仕上げはもちろん、その後の調整までも怠らない。職人なんてのは気難しい連中も多いですが、そいつはわりと交流もあって、かばう奴らもいたって聞きました」

「ほう」


 これまでの「孤独な男」という印象から逸れる話が出た。同時に、事件のせいで家族も仲間も失った、という悲哀の大きさも増した。テオザは孤独だったのではなく、「孤独になった」のだ。


「ただ、でかい現場でしたんでね。本人を知らずに噂を鵜呑みにする奴も多かった。かく言うあっしも、最初は『ひでぇ奴がいるもんだ』と思いましたっけ」


 正直に大工は告白して苦笑した。


「とは言え、そいつがやった訳じゃなかったと判って……あとのことは知りませんや」


 だいたいここまで聞いた話とそう変わらなかった。無駄足だったかとルカは退出の言葉を探し、何と素直に大人しくしていたツァフェンも早々に退屈しはじめた。


「……お母上、確かサテラ殿だったか。彼女にはそうした話をされたろうか」


 ミアンナが尋ねた。タックもルカも目をぱちくりとさせる、ツァフェンは興味を取り戻したようにミアンナを見た。

 タックの母にしてタマラの祖母であるサテラは元理術士で、質量構文を式盤に遺した女性だ。報告書を書く過程でミアンナもその名を知った。


「それは、うちの子の無許可理術に関する件ですか? ほじくるのは勘弁してもらえませんかね」


 和やかな調子だった男の声が少し警戒する響きを帯びた。


「あの件は、ただうっかり申請が遅れただけのことだったと、私も彼もそう記憶している」


 ルカに水を向けると、彼も大きくうなずいた。


「あのときの出来事について、タマラさんやご家族にどんな問題も起きることはないはずです」


 きっぱりとルカは言った。意を汲んでくれたことにミアンナはそっと感謝をする。


「そう、ですか……すいやせんね、つい」


 タックはもぞもぞと謝った。


「お袋ですか、事故の話はしましたね。無事でよかったと泣いてましたっけ。あっしがいたのは事故の地点から遠かったんで、他人事みたいな感覚だったんですが、それを見て『一歩間違えばやばかった』と気づきましたよ」

「事故が人為的なものだったかもしれない、とは?」

「確か、話したと思いますね。もちろんあとで訂正もしましたよ」


 出鱈目を広めたなどと思われてはたまらない、とばかりにタックは付け加えた。

 「国の人間は隙あらば自分たちを罰する」という感覚はいくら説明しても抜けないのだろうな、などとミアンナは少し思った。もっとも仕方のないことだ。彼女たちにはそうしたことができてしまうのだから。


「サテラ殿が息子であるあなたを案じて構文を残したことは、ほぼ間違いないと考えている。その上で、正直に言えば過剰にも感じていた」

「ミア……クネル殿」


 ルカが人前である考慮をした形で諌めた。ミアンナは首を振る。


「何も『母の愛』を否定する訳じゃない。他人には過剰に見えても当人にはまだ不足に思えるというのは珍しくないし、親と子は幾つになっても親と子だとも聞く」

「ミアンナくん、人の子じゃないみたいな言い方。ウケる」


 ツァフェンの茶々が入ったが、意外にも人様の家だという認識があるのか、普段よりは控えめな調子だった。


「『現場での事故』というただでさえ防ぎにくい災害に、『人為的』という可能性が加わる。そこで過剰ではないと考えた。そこがお母上には耐えがたかったのではないか」


 「次」が有り得るとタックの母親は考え、元理術士として備えた。そう解釈すると、理術士としてはしっくりくる、とミアンナは考えた。もちろん自分自身の感覚に過ぎないとも思ったが。


(ラズトで調べたが、サテラ殿は元汎理術士の女性で、特に目立った功績はなかった。無論、長年問題なく勤め上げたという点は立派な功績であるが、少なくとも際だって能力が優れていたと判断できる記録はなかった)

(だがあの構文は隙がなく、制限を課された式盤で驚くほどの効果を発揮していた。これは愛情という「気持ち」の力だ、と言えばきれいだが、そうはいかないかもしれない)


 「サテラが愛情によって高効率な手法を編み出した」とするには、気にかかることがあった。


「タマラ殿、よろしいだろうか」


 隣室で静かにリーネと喋っていたタマラが、呼ばれて顔を上げた。


「式盤を見せていただけないか」


 そう、ミアンナには確認したいことがあった。そのためにここを訪ねたのだ。


「いいよ!」


 何か自分が役に立てると思ったのだろう、女の子は嬉しそうに式盤を取り出した。普段から持ち歩いているのか、はたまたミアンナがやってきたからわざわざ持ってきたのかもしれない。


「はい!」

「有難う」


 受け取ってミアンナは構文を確認した。

 先日の件で一部機構を壊し、ほとんど力を失わせたものの、構文の構成はそのままだ。


(……制限の課された式盤の能力を限界まで引き出しているとは感じていたが)

(これは――)


「ミアンナ?」


 ルカがそっと呼びかけた。


「何か判るのか?」


 ツァフェンも聞き耳を立てる。


「……この質量構文を熱量構文に置き換えたら、今回の事例と似たことが可能になるかもしれない」


 ミアンナが小声で言えば、ルカは眉根を寄せた。


「どういうことだ? その式盤の持ち主は五年ほど前に亡くなっているんだよな?」

「構文は一定の効果を生み出すというのが理術の利点のひとつ。同じ構文を書けば同じ術が発動する。つまり同じ人物が書いたとは限らない。ただ――」


 特別な功績のない人物。活躍の機会がなかっただけで、専理術士級の能力を秘めていたのか。

 それとも。


「……この質量構文からして、サテラ殿ではない、別人の作である可能性も考えられる」


 苦い顔で彼女は言った。

 それは、嫌な気付きだった。


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