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理術士の天秤~調律院の業務は平穏であるべきです~  作者: 一枝 唯
第六章

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04 妬けちゃうね

 町憲兵(レドキア)たちは当初、「この見慣れない制服の少女は何者なんだ」と戸惑う様子を見せたが、ミアンナがカーセスタの、ツァフェンがヴァンディルガの印の入った指示書をそれぞれ取り出すと、ただごとではないと泡を食って行動した。

 そうこうする内にリーネとルカも合流し、情報を共有する。ミアンナがひとりで異臭のもとを探ってきたと聞いてリーネは顔を青くしていた。


「どうも翻弄されている気がする」


 ミアンナは呟くように言った。


「調査を開始し、一段落したところで構文を検知、こうしてサレントの町外れまできてみれば、向こうは目的を達成したあとだ」

「目的を達成したと言えるのは何故だ? 三日前のように破裂させるつもりでいたのかも」


 ルカが問うた。


「倉庫の空間全体が熱されていた」

「弱い構文で倉庫内部の温度をそこまで……破裂させるまで上げるのは難しい?」

その通り(アレイス)


 ルカの言葉にミアンナはうなずいた。


「前回の、塗料缶という一点に向けられたものと異なり、今回は倉庫の壁に対して熱量構文が使われていた。おそらく内壁の一辺だと思う。酷暑の夏に壁が熱されて内部が暑くなるように、倉庫内の温度がこの付近では有り得ないほど上がり、近くの塗料が変質して異臭を発したと推測」


 サレント自治領の気候では、そこまで気温が上がることはない。商会の管理には問題ないと思われた。


「毒性は低いと思うが、私もそこは専門じゃない。商会のほうで確認してもらおう」

「どうしてこんなことを。騒ぎを起こしたいんでしょうか」


 リーネが不安そうに言う。目的が判らないというのは気味の悪いものだ。


「ダリオス宅も塗料、〈ハザ商会〉も塗料。偶然の可能性も皆無ではないが低い。術者は左官関係か、そう見せかけているのか」

「やはり庁舎で調べよう。ダリオス氏の言っていた事故に、この〈ハザ商会〉が関係していないか」

「いい案」

「庁舎やだー」

「ちょっとだけですから」


 ルカの提案にミアンナはうなずき、ツァフェンのわがままを何とリーネがなだめた。


(もしやルカ殿からツァフェン殿の操縦法を教わってきたのだろうか)


 ちらりとリーネを見ると、理報補官は誇らしげに笑んだ。推測はあっていそうだ。


―*―


 町憲兵の仕事を疑う訳ではないが、ミアンナは「これから庁舎へ行くので報告も行う」という旨を伝え、彼らを引き締めてから詰所をあとにした。本格的な閉鎖になるとしたら、サレント自治領の警備隊である自治領防備隊にも出てもらう必要がある。早めの連絡は有用だ。

 そうして彼女らが再度ヴァンディルガの馬車に乗って自治領庁に向かっている間、少しずつ日は陰ろうとしていた。


「庁舎が閉まるまでに、過去の事件の担当者が見つかるといいが」

「えー、サレントのこと調べてやってんのに協力しないとかあるぅ?」

「向こうも我々に依頼したくてしている訳ではないからな」

「政治ぃ」


 やだやだ、とツァフェンは空を仰いだ。


「ミアンナと僕がまず行こう。リーネさんは少しツァフェンと残ってもらっても……?」

「大丈夫です!」


 リーネは大きくうなずいた。ツァフェンが胡乱そうにルカとリーネを見る。


「ルカくんとリーネくん、ふたりきりの間にいろいろ内緒話してきたなー? なぁーんか仲良いねぇ、妬けちゃうねミアンナくん!」

「そうだな」

「えっ……」

「すなおー」

「あ、何もそんな深い話は」


 ミアンナがさらっと同意すればリーネは赤くなり、ツァフェンは茶化してルカは少し焦った。


「ん? この場合、ミアンナくんはどっちに妬いてるのかな?」

「む……」

「もうその辺にしろ」


 リーネは不満そうな顔をし、ルカはツァフェンを強めに睨んだ。


(意外にルカ殿の反応が顕著。もしやルカ殿は、本当にリーネに好意を?)


 それを見てミアンナはふと思った。

 リーネは打てば響く少女だ。ふたりきりで話せば、どういう形であれ、その明るさや反応のよさを好ましく思うことは想像に難くない。


(……今後リーネと話すときは、私を通してもらうか)


 まるで保護者のようにミアンナは考えた。


 幸か不幸か、新しく構文の稼働が検知されることのないまま、彼女たちは自治領庁舎にたどり着く。ルカは御者を労って連絡室へ帰した。

 ヴァンディルガの馬車が横付けされたためだろう、庁舎から役人が飛び出してきた。そしてカーセスタの使者であるミアンナたちもいるのを認め、混乱した顔を見せる。


「無許可理術の件だ。過去の事故について調べたい。都市開発課のアダワロ殿はおいでだろうか」


 ルカがダリオスから聞いた名を出すと、役人は少し首をひねって、こちらでお待ちくださいと彼女らを案内した。


「おい、ツァフェン」


 ツァフェンが距離を取っているのでルカが咎めるように呼ぶ。


「此方は行ーかない。それでいいって言ったじゃん」

「調べものにはついてこなくていい、と言ったんだよ。中で大人しく待つくらい」

「やーだよ、呼ばれてないし」

「何言ってるんだ。かまってほしいなら僕が呼んでやるから」

「ルカくんじゃ駄目ー」


 ケラケラと笑ってツァフェンはその場に座り込んでしまった。


「どうしても此方の力が必要なら役人くんに呼んでもらってね」

「全く……」


 ルカは首を振り、ツァフェンを諦めた。


「すまない、リーネさん。外でもいいだろうか」

「リーネ、何かあれば魔術札を使ってかまわないから」


 念のためにミアンナはルカとリーネの間にすっと入って提案をかぶせた。ルカは「え?」という顔をする。


「有難うございます、ミアンナさん!」


 もとよりリーネはミアンナしか見ていない。


「……あの、ミアンナ。何か誤解がないだろうか」

「誤解であればいいと私も思っている」

「ええと……」


 その返答をどう取ったものか、鋼嶺徒は落ち着かなさそうに剣の柄をいじった。


「リーネさんとは本当に何も」

「お待たせいたしました、ご使者方、こちらへどうぞ」


 サレントの役人が戻ってきた。ルカはかすかにうなって、さっと歩き出すミアンナに続いた。


―*―


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