03 多いだろう
ミアンナとジェズルはすぐさま執務室に戻り、ゾランに伝えて続報を待った。
その間、ふたりの理術士のどちらに要請があってもすぐ動けるよう、リーネとレオニスが支度をはじめる。イストとマグリタは、統理官たるミアンナが少なくとも数日は支部を出ることを鑑み、ミアンナでなくてはならない署名などがないかを確認していた。セフィーヌもやってきて、ふたりの式盤の最新調整を行う。
前回の緊急報は夜遅くに届き、翌早朝に発つという流れになったため、支部員たちからすると「朝やってきたら主理術士と理報補官がいなかった」という状況だった。それは彼らにとって不服だったようだ。
何も「自分に断りもなしで」などと思った訳ではないだろう。ただ、自分にも何かできることがあったんじゃないかという引っかかりがあったのだ。だから今度こそは全力で、自分たちの役割を果たそうとしている。
「続報が入った。今回も、無許可の理術検知」
一階にある共有の執務室で、ゾランが全員に状況を説明した。
「前回同様、主理術士と理報補官が出向く。出立は翌朝。早めに休んでいただく故、依頼は半刻以内に」
「了解っす! いまんとこ大丈夫そうですよね、マギーさん」
「絶対に統理官でなければならない、というものは現状、ないね」
「何でも私に回してくれ。そのための副統理官だ」
ゾラン上級連衛官兼副統理官は、鷹揚に言った。そもそも去年までは彼が行っていたことで、まだミアンナに教えることも多いくらいだが、それでも自分が副官だという態度は崩さない。
支部員たちのなかに、ミアンナを年下と見て軽んじるような人間はいない。しかしそれでも、ミアンナが着任したあの日、ゾランが誰より早く明確に、彼女を上官として扱ったことは大きかっただろう。
「悪いけど、あたしも早く上がるよ」
「お、ミアンナ嬢たちに弁当作るもんな!」
ちょうど降りてきたレオニスがマグリタの言葉を耳にし、はやすように言った。マグリタは彼を睨む。
「そんなのはパトフがやるだろ」
それは料理人の仕事だ、前回はたまたま出立を知った自分が握り飯を提供しただけだ、とマグリタは主張した。
「ん? じゃあ何か用事?」
「……持ち運べる焼き菓子を作るだけだよ」
「ひゅー!」
「うるさいね!」
緊急報の詳細はまだ判らない。前回が子供の行いだったからと言って、今回もそうした重大性のない出来事とはもちろん限らない。
だが、支部で緊張していたところで無意味だ。彼らはただ、普段の延長としてふたりを送り出す支度を続けた。
「――緊急報って、こんな頻繁に鳴るものですか?」
仕事を片付け、私物の支度を済ませたら早く寝る、という大事な任務を請け負ったミアンナとリーネは、浴槽に浸かりながら話をした。
「その、数月で二回って多いような」
「多いだろう」
ミアンナはうなずいた。
「前回のゾラン殿とジェズル殿の反応からすれば、そうあることではない。ジェズル殿とレオニス殿がサレント自治領を訪れたことがある、というのも出動要請ではなく、年に一度の定期訪問のためと聞いた」
「じゃあ、たまたまですかねえ」
「前回の件については、二度目につながるような要素はない」
あのときは少女タマラが妹マキを助けるために祖母の遺した式盤を使った。そしてその式盤はほとんど力を失わせてある。たとえタマラが再び無許可使用をしたのだもしても、それなら発動元は理術士でなくても特定できる。ラズトに連絡はくるまい。
「たまたまであるといいが」
きゅっと目を細めて、ミアンナは呟くように言った。
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