表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

04 発信元は

 ふたりがそんな話をしていたのは、支部全体をざっと見て回った頃だった。

 着任の挨拶をしたのが、一階の共有執務室。そこから二階の私室――ミアンナとリーネ、それぞれ個室がある――と一階の浴室を行き来し、さっぱりしてから二階の理術士専用執務室で王都へ連絡。それから通信記録室、調整室を眺めて三度(みたび)階下へ行き、食堂や談話室、備品庫、通用口などがあることが確認できた。


「すれ違った人や執務室の感じからすると、常駐しているのは五人くらいですかねえ」

「上級連衛官、副理術士、副理術士付の理報官、あとは裏手の設備保全管理棟に技術官がいるはず。座席から判断すると、事務官も二名ほど。おそらく資料塔にも担当官がいる。先ほど通った厨房を見たところ、専門の器具が多く、手入れも行き届いてた。通いの料理人もいる」

「そんなところまで見てたんですか!」


 さらさらと挙げ続けるミアンナに、リーネは口を開けた。


「私室っぽいお部屋もありましたよね。ここに私室があるのは、わたしたちと副理術士さんとその理報官さん?」

「どうかな。規程では、上級連衛官と理報官は外に部屋を借りられる。その場合は調律院で借りる形になるから、いい部屋があったらリーネも通いにしていい」

「ええ!? ひとりはちょっと、その……怖い、です」


 少し恥ずかしそうにリーネはもごもごと言った。それを見て、ミアンナは首をかしげる。


「……『自由』と、言うのでは?」

「え?」

「――いや、何でもない。女のひとり暮らしは危険なのも確か。ラズトの治安は良いと聞いているけれど、少なくともしばらくは調律院で暮らす方が無難」

「は、はいっ」


 「出て行け」と言われた訳でなかった、とでも思ったのかリーネは胸をなで下ろし、ミアンナのかすかな呟きを聞き逃したままでいた。


「通信記録室の符の管理については、実際にどういった使い方をしているか副理術士が戻ったら確認を」


 変わらぬ口調でミアンナは言い、そこでふと言葉をとめた。


「ミアンナさん?」


 これにはリーネも問いかける。


「位相構文」

「え?」

「乱れてる。でも近い。正規の通信じゃない」

「え、え!?」


 ぱっと踵を返したミアンナに、リーネは目をぱちぱちさせる。


「近いのに乱れて? しかも正規じゃない!? じゃ、違法? い、違法の通信があったんですか?」


 慌てて追いかけながら理報補官は問いかけた。


「確認する」


 ミアンナは断定を避け、先ほど検分した二階の理術士用執務室へ飛び込んだ。見れば確かに、式盤に淡い光が灯り、明滅している。


「――点滅速度がわずかに早い」

「えっ、えっ、そうですか!?」


 リーネは目をこすったが、彼女には判らなかったようだった。


「あの、発信元を特定します! ええと、わたしの計算盤……」

「隣」

「え?」

「発信元は資料塔」

「え!? ミアンナさん早すぎますし、え、違法通信が敷地内から!?」


 彼女が目を白黒させている間に、ミアンナは再び部屋の外へ足を向けた。


「リーネはゾラン連衛官に伝えて。私は先に塔へ行く」

「あ、危なくないですか?」

「これがある」


 ぼん、と腰につけている携行式盤を叩き、ミアンナはそのまま素早く階段を駆け降りた。


「危ないですよぅ!」


 悲鳴のようなリーネの声が聞こえたが、彼女は指示通りゾランに共有してくれるはずだ。

 ここでもし、心配だからと言い張ってミアンナに同行しようとすれば、それは人情的かもしれないが理報官として失格だ。少なくともその点において、ミアンナはリーネを信用していた。


(資料塔は先ほど見かけた通用口から行くのが早い)


 たったいま見て回っていたことが功を奏し、灰色の髪の少女は最も効率的な経路で資料塔へたどり着いた。


 統理官権限は受け取っているから、鍵はすぐに認証される。彼女はひとり、三階建てのほの暗い塔へと入り込んだ。

 薄い金の瞳をきゅっとひそめて目を慣らすと、彼女は携行式盤の蓋を開けて理術網を確認、新しい情報を認識する。


(これは)


 おおよその見当をつけると、少女理術士は息を吸った。


「――資料塔担当官! ここへ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ