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(いつき)君。叔母さんが迎えにきてくれたわ。私達のことは伏せておいて。私達は学校関係者で花はただのクラスメイト。いいわね」


学校で倒れ病院に搬送されたのだ。


回復したとはいえ一人で帰すのはかえって不自然だろう。


そういうわけで身内である結に連絡がいった。


退勤直前だったのでここへ直行した結は、


「厳君! 大丈夫なの?!」


扉が開くと一直線に厳の元へ。


心配する結に、大きな蜂に刺され失神したが花が見つけて人を呼んでくれたので、毒が回る前に手当され問題ない、と説明する厳。


花に礼を言ったり、本当にどこも何ともないの? と確認する結を、美幸が凝視している。


結もその視線に気づいたのか振り返った。


一瞬、視線の合った二人に浮かんだ戸惑いを厳は見逃さなかった。


が、何もなかったように、


「あの……、それで、入院だとかが必要なのでしょうか?」


そう尋ねた結に、もう大丈夫ですので帰宅していただいて結構です、と美幸も表情を消して応えた。


「お世話様でした。神前(こうさき)さん、本当にありがとうね」


結はそう挨拶し、急ぐように厳と帰宅していった。


伸治も二人の戸惑いに気づいたようで、


「どうした?」


と訊くが、美幸は、


「おかしいわね」


端末を取り出し、データを確認すると、


「やっぱり。載ってないわ……」


伸治に答えるでもなく、そう呟くのだった。




「叔母さん……」


病院を出てからも、何か考え込むようにする結に、何かあったのか? と厳が問うと、


「家に帰ってから話すね」


結は何か覚悟を決めたような面持ちだったが、


「食欲は? もう今日は夕食を作る元気もないでしょ? 何か買っていくか食べていかない?」


急に明るくそんなことをいう。


夕食を作るのもたいてい厳だ。


結に任せると冷凍食品を温めるだけで済まされてしまう。


だから厳が作ってもよかったが、言われてみれば確かにそんな気力はない。


自分の質問には答えてもらえず、なんだかはぐらかされたようだったが、自分も話せないことがあるので深くは追求しなかった。


結局、よくいく近所の蕎麦屋に入る。


蕎麦屋のテレビではニュースが流れていた。


「変な事件ね」


食事にはそぐわない変死体発見の報だった。


京橋付近の首都高高架下。


宝地蔵の周りの草薮の中で体が潰され大量の血が飛び散っていたらしい。


「お地蔵さんの横で罰当たりなことするわね」


結が顔をしかめる。


蕎麦の美味しさが台無しだ。


食後帰宅。


結局その夜は、結からなにも話がなかった。




「お! 厳! もう大丈夫なん?」


翌朝登校すると、厳を見つけた友人たちが口々に体調を気遣う。


「まいったよ。超痛かった」


確かに耳の後ろの大きなガーゼが痛々しい。


だが顔色もよく、今はもう大丈夫だよ、という厳の言葉は本当なんだな、と彼らは安堵した。


倒れた厳を花がたまたま発見したというのも皆は知っている。


転入当日にそんなことになるなんて運命的だな、とからかわれたが、そうだといいのにね、と花が照れもせず応じるのでからかい甲斐もなく、すぐにそんな話は終わってしまった。


ただ、そんなクラスの話題の中心になっている厳と花を複雑な表情で見る女子生徒の視線に花は気付いていた。


(あの子は、確か……)


西村咲、リストに載る高霊力保持者だ。


転入にあたり、リストを確認をすると、生徒・職員に数名記載された者がいた。


その中の一人が彼女だった。


彼女のあの視線は明らかに苛つきだ。


(へえぇ〜。厳くん、隅に置けないんだぁ)


どうやら咲は厳に思いを寄せているらしい。


もしかしたら咲にも美幸と同じような霊力保持者を見つける能力があるのかもしれない。


その力が厳の高霊力を気づかせ、本能的に惹かれていると考えられなくもない。


だが厳はその視線に全く気付いていないらしい。


厳には相手の霊力を測る力はない。


だから気付かなくても仕方ないといえば仕方ないが、


(霊力を感じなくたって、西村さんからのあんな視線には気づくでしょ)


厳くん鈍感だな〜、と心の中で笑う花。


咲をちょっとからかって、いい子だったら仲を取り持ってあげようかしら、などと考えるが、これから厳が対峙するであろう困難を考えると、


(軽はずみにやっちゃ駄目か……)


前回の失敗もあるので思いとどまるしかない。


そんなことより、潜入者の動向だ。


新しい環境に浮かれ、あやうく自分の使命(ミッション)を忘れるところだった。


(厳くんに対象(ターゲット)について知らせて今後の相談をしなきゃ)


昨日は結が思ったより早く到着したので細かい打ち合わせができていない。


だが学校内で二人きりになって話をするのも難しい。


これから先、こんな調子ではうまく活動できない。


(どうしよ…… あ )


花は妙案を思いついた。

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