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「その光る矢も、銃弾を避けたのも、負の霊力を木刀で消すのも、面白い、な」


男はそんなことをつぶやきながらゆっくり近づいてくる。


そのつぶやきは小さい。


なのに不思議とよく通り、四人にもしっかり聞き取れた。


「なんだ、あんたは? コイツラの仲間か?」


新子が三人を背に庇って前に出ながら暴徒の落とした鉄パイプを拾おうと屈んだその刹那、


ザッ


間を詰めた男が新子に斬りかかる。


その速さに厳たちは全く動けない。


が、


ガインッ


男の動きとほぼ同時に、新子も拾い上げた鉄パイプを(はす)に構えながら体を少し左に開き気味に前にでる。


斬撃を受けた鉄パイプは太刀筋をずらしたものの、途中から切り飛ばされた。


「「!!」」


新子も男も、驚きにほんのわずか目を見開いた。


(受け流す角度の鉄パイプを……切りやがった)


(あのタイミングで、前に出て、凌いだ、ぞ)


それぞれ相手に対しそんな驚嘆を抱きながら下がって距離をとる。


「面白い、な」


男が同じセリフを繰り返した。


「いきなり切りかかって、面白い、はないだろ」


半眼の新子はもう一本鉄パイプを拾う。


「あなたは……」


(いつき)が一歩出て、


「"根の国"の人なのですか?」


男が厳を鋭く一瞥し、


「ほぉ、それを知っている、ということは……藍子どのの最期に立ち会ったということか」


「藍子どの?」


厳は一瞬なんのことかわからなかったが、


「山里先生のこと?」


後ろからの咲の叫ぶような問いに、ああ、そんな名前だったかもな、と思い出す。


「そうだ。山里藍子、彼女は吾等の仲間だ。彼女が"根の国"の存在を明かしたのなら、おぬしらを同胞と認めた、ということになるが……おぬしは霊力を使えていないな」


新子に向き直った男。


「なんなんだよ。話が全く見えねえ」


新子は不平とともに拾った新しい鉄パイプを右に開いた下段に構える。


「そうか。詳しくは話していないのだな。だが……」


男は納刀し、それを背負うと、


「同じ条件にしよう」


自分も鉄パイプを拾った。


「どういうことだよ? ほんと話が見えねえぞ」


「おぬしは吾と同類だろ?」


「はぁ? わけわからん」


「問答無用」


ズザッ!!


男の強烈な踏み込みからの一撃を新子は、


カインッ!


下段から跳ね上げていなし、そのまま先端を少し下げ突き出した。


「!」


男が首をひねってかろうじて避け、動きを止めず跳ね上げられた鉄パイプをがら空きの新子の左肋狙って振り下ろす。


それを左手だけ引いて鉄パイプの両端を持った新子が受け止め、その受け止めたパイプを中心に左手をぐるりと回すようにして、拳を男の顔に叩き込む。


男が後ろに飛び下がったことによって新子の左拳は空を切った。


二人は無言のまま動かない。


ややあって男が口を開く。


「目を狙ったな。躊躇なく目を狙うなど、やはりおぬし、吾の同類だ」


「だったらなんだ? どうでもいいけど早く説明しろ」


「何をだ?」


「お前らの正体と目的だよッ! 話の流れで分かんだろぉが!」


「……そんなことが気になっていたのか」


新子は男から異様なものを感じてゾッとする。


この男は人としての何かが欠けている。


「そんなこと、って……こんな事態を引き起こしといて何言ってやがんだ!」


苛立つ新子に、


「ふむ、そう(いき)り立つな。十全の手合わせが出来んではないか。話して聞かせれば納得するか?」


よく分からないが流れに乗じて情報が引き出せそうだと踏んだ新子が頷くと。


「よかろう。まずは名告るとしよう。吾が名は桐生(きりゅう)、桐生力一(りきいち)。おぬしは?」


「新子雄三だ」


「そうか。おぬしほどの使い手、久しく会っておらん。この世は、広い、な」


桐生と名告った男は続きをしたくてウズウズしているようだが、


「で、"根の国"ってなんなんだよ。なんでこんなこと(・・・・・)してる?」


苛つく新子に促され、仕方なしに、


「ふむ、できるだけ手短に話そう」


こんな話しを始めた。




戻ってきた伸治が開口一番。


「トヨさん、省吾、やばいぜ。もう封印し直せないっぽい」


「ぽい?」


長い間封印されていた怨霊はそれが強力であればあるほど、封印の縛る力も当然強い。


よって封印が解けたからといって、封じられていた物がすぐに動くことができるわけではない。


ギプスをしていた関節が強張って動かなくなるのと似ている。


その状態なら再封印は比較的楽にできるはずだが、


「見たことのない術式で変な霊力場が張られていたよ。きっと再封印対策だと思う」


と岩笠。


彼が見ても仕掛けの位置がわからず物理的に撤去出来なかった。


長く生きてきた岩笠が見たことのない系統であるなら、相当巧妙に秘匿・伝承された続けたということになる。


が、その可能性は低いだろう。


権力の監視をかいくぐることは難しい。


となると、


「戦後に編み出された新しい系統?」


平安から明治までら発見できただろうが、戦後は一時GHQの監視下にはいり、その後宮内庁管轄に移ってからの規模は戦前に比べると小さくなり、各地の遺跡・遺物の管理だけでも手一杯な状態。


残念ながら陰陽課の目の届かないところで危険思想を持つ術者の新組織が生まれても把握は難しい。


美幸はそう推測し、


「封印が完全に解けるまでの猶予はあとどのくらいに感じた?」


三人に訊く。


「うーん、あの雰囲気だと今すぐでもおかしくないんじゃないかなぁ」


と岩笠。


伸治も友里恵も同意する。


「だったら、初見の仕掛けを取り除くには時間がなさすぎるから再封印は無理ね。復活したものを新しく封印するか、調伏するかしかないわ」


今までの封印を活かしての再封印は諦めなくてはならない。


日本三大怨霊である将門を、一から封印し直すか、調伏。


陰陽寮が"課"に変更になって以来、最大の困難にぶち当たったと皆に緊張が走るのだった。

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