53
「厳君は、……意識してか、無意識にか、自分を抑えているように見えますわね」
「それは封印とは別に、ということですか?」
美幸は省吾らに、田村家が陰陽寮との確執の所為で代々力の封印を行なっていたと簡単に説明する。
「ええ、それとは別ですわ。これは本人に聞いてみなくては分かりませんけれど、答えてくれるほど彼の心を開かせることができますかしらねえ……」
意味深なトヨの物言いに皆は顔を見合わせる。
「心を? ……それは、どういう?」
「彼、ご両親を早くに亡くして一人で調伏をしてきたそうですわね?」
人に見えないものが見え、誰にも言わずそれと戦う孤独はいかばかりか。
「確かに……今じゃ陰陽課の仲間がいるけど、ここに拾われるまでは僕もきつかったなあ……」
省吾は遠い目で過去を振り返り、
「でも僕はその時期すでに大人だった。厳君はまだ小学生・中学生だったんでしょ? そりゃきついなぁ。そうか、だから共感力が高いってことなんですね?」
自分に向けられる目に込められた感情を敏感に読み取れるからこそ、自分の力を押隠し自分の心を押し殺して無理に周りに馴染むという選択をしたのだろう、と皆が理解した。
親を亡くしたばかりの小学生が、だ。
「そりゃあ……きついなぁ」
また同じ台詞を繰り返し、なんとも言えない顔になる省吾。
(うふふ、そうやって厳君を思いやれる省吾さんも共感力が高いですわね)
と、トヨは微笑む。
トヨが何故か自分をニマニマしながら見ているので省吾はなんだか気恥ずかしくなり、
「で、もう一人の……」
話をすすめるよう促す。
「咲さんですわね。彼女は美幸さんと同じ霊力探知者ですから共感力が高いのは皆さんもうご存知でしょ?」
「私以上の探知能力なのは確かよ」
まだ訓練を受けてもいないのに埋められた呪符を見つけたことだけでない。
近くで接してみて、探知能力者の美幸には咲の本当の力を感じ取れていた。
探知能力者の霊力量は総じて低いように見える。
見えるだけで実際はそれよりも多いことがほとんどだ。
自分の霊力が強すぎるとそれに邪魔されて霊力探知ができない。
だから探知能力者は自分の霊力を封印に近い形で無意識に抑え込んでいる。
無意識に、というところが重要で、そうであるからこそ霊力探知能力がある、ということになる。
その抑え込んだ霊力量は、霊力そのものを測れないのだから知りようがないが、
「そうですわね。私にもそう感じられましたわ」
呪符師であるトヨにとって、霊力を抑制する呪符を作ることくらいなんでもない。
探知能力者は自分の霊力を常時抑えているが、そうでない者も何らかの形で霊力を押さえれば訓練が必要ではあるが多少の探知ができる。
トヨはそれをやって咲の霊力を探っていたのだった。
「ですがね、探知能力者の技量は抑えている霊力量とは関係ありませんから、そこはどうでもよろしいんですのよ。もっと重要なことにつながっている気がしてなりませんの」
「もっと重要なこと?」
トヨの顔から笑みが消え、
「田村麻呂の血族である厳君、美幸さん以上の探知能力者になるかもしれない咲さん。二人が同じ高校の同級生で、そこに式神使いの花さんが特命で転入し、三人が知り合った。そのタイミングで首塚の封印が解かれ、首都のど真ん中に何者かが結界を施し、その中では負の霊力が暴走して人々が暴徒化している」
つらつらと現状を挙げる。
少しの間のあとに、
「霊力の動きが過剰です」
言われてみればそうかもしれない。
「……まさか?!」
ハッとなった美幸に、トヨは頷いて、
「"大転換"が近いのかもしれませんわ」
コンビニの暴徒があらかた片付いたところで、
「!」
首から下げたお守りが不意に重くなり、ガクリと新子の頭が下がったその時、
パンッ!
乾いた音と同時に新子の頭上を何かが掠めた。
音の出どころには数名の白装束。
そのうちの一人が銃を持っている。
「田村! 下がれ!」
新子は厳をかばうように立った。
白装束集団は、
「今避けましたよね?」
「避けたな。どういうことだ?」
などと言い交わしながら新子を訝しげに見ている。
「何だお前ら?」
ゆっくりと距離を詰めつつ、新子が問いただすと、
「私達は世界を作り換えているのです。邪魔をしないでもらいたい」
白装束の一人がそう応えた。
「世界を作り換える? コイツラを扇動したのはお前らか?」
倒れている暴徒を指差すだけで目線は切らさずに新子は問を重ねる。
「そうです。作る前に壊さなくてはいけない。それをこの人らにやってもらっているのに……邪魔をするなら」
白装束が銃口を新子に向けた。




