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「降りたほうがいいかな?」


岩笠がそう尋ねたのは暴徒の一団が目に留まったからだった。


数十人いる暴徒は手に手に鉄パイプのような物を握っている。


火炎瓶も持っているようで店を略奪した後、それで火を放っていた。


やりたい放題の様子に、


「どうします?」


友里恵の"どうする?"は"撃っちゃっていい?"という意味だった。


「いや、流石に駄目っしょ。降りましょう」


伸治が車を止めたのに気付いた数名が、


「いい車じゃねえか。奪っちまおうぜ!」


「あれで警察引き殺してやろう!」


勝手をほざいて向かってきた。


「結構な人数っすね。あんなもんどこで手に入れたんだ?」


振るのに丁度よい長さの鉄パイプをあれだけの人数が揃って持っているのはおかしい。


「配った者がいるはずよね。あの中には……いないみたい」


目のよい友里恵がそう瞬時に判断したのはおそらく正しいだろう、と考えた伸治は、


「だったらこの様子を隠れて見てるかもしれないな。友里恵さん、そういうの(・・・・・)を警戒しといてや」


「わかったわ。伸治さん達は?」


「もちろんアイツら(・・・・)をなんとかするさ」


そう言いながら伸治が岩笠に頷く。


何度も共に戦っているので心得ている岩笠が、


「じゃあやるよ」


右の掌を前方へと広げ霊力を放出。


向かってくる者らが目を虚ろにして動きを止めた。


伸治は何か小さくつぶやき踏み出すと飛ぶように進む。


どう見ても一歩で五歩分は進んでいる。


岩笠は、


「いつ見ても鮮やかだよね」


隣で周りを警戒する友里恵に世間話のように伸治の動きを褒める。


「……初めて見ました。伸治さん、あんなことできたんですね……」


弱っちい、という友里恵の伸治への評価は少しだけ上方修正されたようだ。


「あれの仕組みって、岩笠さん、知っていますか?」


「縮地っていうらしい。彼、呪禁師だからね。言葉でいろいろな因果だとかを"禁じる"のだって」


で、自分を縛る重力だとか空気抵抗だとかの働きを"禁じ"て浮くように移動できるらしいよ。


との岩笠の解説に、


「……なんだか、よくわかりません」


「実は僕もちゃんと理解していないんだけどね。でも、あれだけじゃないよ。見ててごらん」


音もなく暴徒の背後に回った伸治。


唱えた言葉をそろえて立てた人差し指と中指にのせ、それを暴徒の後頭部に押し当てると、


ドサリ


その男は脱力し崩れ倒れた。


「あれで浄化完了だよ。あれは僕にもできない」


岩笠の霊力は膨大だが、所謂念力で物理的な力でしかない。


記憶を消すような精神操作もできるが、負に汚染された霊力をニュートラルに戻すことはできないという。


「だから将門の霊を調伏できないって言ってたんですね?」


「そうさ。でも伸治くんや、友里恵さんの霊力弾は負の霊力を散らす力がある。僕にはその力がないんだ」


そう言いながらも岩笠は悲しげでも悔しげでもない。


岩笠には感情がなかった。


霊薬の副作用らしい。


そのことを知っている友里恵はなんと声をかけてよいのか思いつかなかった。


その友里恵の困惑に気付いてか、


「こんなときはもっと、困ったなあ、って顔をしたほうがいいのかな?」


形だけでも感情のあるようなフリをしていればいつか感情が戻るかもしれない、と大昔、誰かに助言されたらしい岩笠はことあるごとにそんな確認をしてくる。


強力な力と不老不死の代償がこれだというのは悲しいことだが、その"悲しみ"を感じられないのは岩笠にとって幸福なことなのだろうか?


そんな疑問を本人にぶつけるわけにもゆかず、友里恵の困惑は深まるばかりだった。




「皇居周辺で何が起こっているのか……連絡が取れないから分からないな」


「取材班を送ったのでしょう?」


「ああ、でもすぐに帰ってきた」


「なんで?」


「暴動が起きて危険な上に、通信がどういうわけか遮断されてて中継できないらしい」


「東京のど真ん中で通信遮断ですか?」


こんな会話がどこのマスコミでもされていて、現場は混乱の極みにあった。


ある地域に入ると急に暗くなり通信機器、電波を使った機材はどれも故障でも充電切れでもないのに使えなくなる。


映像は撮れるので持ち帰った物を確認する。


「……これ、本当に……日本なのかよ……」


見た者が言葉を失うような惨劇が広がっていた。


破壊され延焼する建物に、道路に横たわる死骸。


これを撮ったクルーも暴徒に見つかり危うく襲われるところだったが、車だったのでなんとか逃げ切れたという。


これをニュースで流すべきか?


そんな疑問も湧かない惨状。


加工無しに地上波で流せるような映像ではない。


とはいえ何も報じないわけにもゆかない。


だがこの状況をなぜ警察は放置している?


現状を報道してもいらぬ混乱を招くのでまずは警察に取材し、それも併せて報道すべきだ、ということになったが、


「おい、待ったがかかったぞ」


警察庁からでなく内閣報道官から直接、マスコミ各社に自粛要請が入った。


「なんでだ?」


「わからない。官邸も状況把握に動いていて分かり次第発表するから今は自粛してほしいってよ。なんでも鎮圧に向かった機動隊も帰ってこないらしい」


普段なら、そんな馬鹿な、と信じないだろうが、あの映像を見たあとだ。


警察や政府発表など待ってられないから取材に行くと言い出す者がいれば、部長はもちろん止めただろう。


だが、そう申し出る骨のある記者は、一人もいなかった。

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