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「武器を捨てなさいっ!」


機動隊が到着した時、街ではそこかしこで暴動が起きていた。


新宿や渋谷のような繁華街ではないが、有楽町から北の東京駅、日本橋を含むエリアだ。


平日の昼は人が多い。


オフィスや商業施設も沢山あり、そこで働く人々が利用する飲食店も開いている。


負の霊気に呑まれなかった者は当然暴動に加わらず安全な場所へと逃げる。


うまく隠れられた者はつながらないスマホがいつ復旧するか、それとも充電が尽きてしまうのが先か、と息を潜め成り行きを窺うしかない。


運悪く隠れ場所を見つけられず暴徒に捕まり嬲られ殺された者も少なくない。


それらの遺体は道端に打ち捨てられている。


そんな光景に機動隊員達は己の目を疑った。


この日本でなぜこのようなことが?


こんなことが自然発生的に同時多発するとは考えられない。


扇動者がいるはずで、その確保を指示されている。


「とはいえ先ず鎮圧だろう……」


警備車から降りる機動隊員を見ても暴徒は逃げたりしない。


それどころか投降を呼びかけると逆に、


「うるせえッ!」


「向こうのほうが少ねえぞ。やっちまえ!」


と向かってきた。


何かがおかしいと感じながらも応戦体制に入る。


突進してくる暴徒が、


ガッツ!


盾に阻まれるがその後ろからも殺到し、あっと言う間に囲まれもみくちゃになる。


パン、パンッ!!


乾いた音が響いた。


「銃を持っているぞ!」


暴徒の武器は鉄パイプやバットのような鈍器だけだと思っていた機動隊員に緊張が走る。


「隊長が!」


今の銃声の犠牲者は指揮官で混乱に拍車がかかり収拾がつかない。


増援を要請したくとも無線は通じない。


まずは投降の呼びかけと威嚇を、というセオリーが仇となり数で押し切られた機動隊員は一人、また一人と倒れ、装備を奪われさらに事態は悪化し、ついには警備車も奪われてしまう。


「ハハハ! 警察だって死んじまえば何もできねえ! 革命だーッ!」


高揚した暴徒らはいつの間に用意したのか火炎瓶を投げ、移動を始めた。


数名が残って暴徒のやりたい放題のあとを眺めている。


彼らの顔には一様に不自然な薄ら笑いが張り付いていた。


「こんなにうまく行くとはね」


「警察なんてたいしたことないね。御師様のおっしゃったとおりだ」


「うん。暴動を小さく見積もってこれだけの人数で来るとはね」


「出動場所もおっしゃってたとおりだ。きっと他の場所でもうまくやっているだろうね」


「さすが御師様だ」


「これだけやれば僕たちの使命は果たせたよね」


「そうだね。これなら"その時"に間に合うね」


「うん。立ち会えるように急ごうよ」


「新しい世界のために」


「新しい世界のために」


そう言い合うと暴徒たちとは違う方へと足早に移動を始める。


彼らが去った後には火に包まれた機動隊員の死骸が残されてた。




「これからどうする? 首塚へ行くのか?」


宮司の高橋に尋ねられた岩渕が(いつき)を見ると頷くので、


「そうするつもりです」


と応える。


「そうか。……再封印の方法はここには伝わっていないんでそうしたことは手伝えんが……少年、お前さんの木刀を見せてごらん」


厳から渡された木刀の何かを探す高橋。


柄頭に銘のように彫りつけてあるものを見つけると、禰宜の御手洗にも見せる。


御手洗もそれを見て頷いた。


「少年。この木刀はどうした?」


なぜそんなことを聞くのかと小首をかしげつつ、


「叔母が、父と知り合いだったという剣道具店で揃えてくれたものです」


と応えると、


「……そうか」


高橋は木刀を厳に返してよこした。


「この木刀がどうかしたのですか?」


「うん。その柄頭に彫ってあるのはな、呪印だ。我らには効果を読み解くことはできんがな。ともかくそこが削れてなくならんよう、注意しなさい」


「え?!」


知らなかった厳は柄頭をしげしげと眺める。


あの剣道具店は父とどんな関係があるのだろう?


帰ったら、……帰れたら、結に聞いてみよう。


思わぬところでの亡き父とのつながりを知り、こみ上げてくるものがある。


「少年はまたここに来ることになりそうだな」


高橋の独り言に、何のことでしょう? という顔で厳が次の言葉を待ったが、それはなく話は他へ移った。


「その木刀があるのだから少年はよいとして、そうだな……」


阿吽の呼吸で御手洗の持って来たものを受け取ると、


「お嬢さん、あんたは霊気が見えるのだね?」


ならばこれを持ってゆきなさい、と差し出されたのは、


「……鈴?」


紫の絹の房の付いた大振りな鈴だった。


だが音がしない。


「中に何も入っていないんですね?」


「そうなんだよ。もとからでね……でもお嬢さんなら鳴らせるんじゃないかな」


「?」


丸の入っていない鈴など鳴るはずないだろう、と困って咲きは厳を見る。


「霊力で鳴らすのかな?」


厳にそう言われても咲は霊力が見えるだけで使えるわけではない。


「まあ、持ってゆきなさい。どう使うかはお嬢さんならそのうち分かるだろ」


その高橋の言いようがなんだか適当に感じられた新子が、


「宮司さん……本当っすか?」


と笑うと、


「我らには分からないのだから仕方ない。伝わるものを渡すだけだよ」


高橋も自嘲気味に笑う。


「さっきも言ったとおりな、人類は増えすぎて共有する霊力が薄まってしまったがな、均等に薄まったのでなく、依然として霊力の高い少年やお嬢さんのような者もいれば、我々のように全くない者もいる。それはなぜかと考えたことがあるのだが……」


高橋の仮説はこうだった。

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