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「伸治くん、会えてよかったよ」
「ホントっすね」
"霊気"がおかしくなったので連絡しようとするがスマホが圏外。
それで封印が解かれたと察した岩笠は、誰かが自分を探すに違いないと考え目立つ場所を選び移動していた。
なので、伸治は簡単に岩笠を見つけられた。
「友里恵さんも来てるのは心強いな」
「何言ってるのです。岩笠さんは私なんていなくてもなんでもないじゃないですか。私は伸治さんのボディーガードですよ」
伸治さんは弱っちいから、と笑う友里恵。
「弱っちいはひどくね?」
まあ、二人に比べりゃしゃあないけどさ、と、伸治も笑った。
竹山友里恵は陰陽課の中では異色で、古来の術などが使えるわけではない。
射撃の名手で霊気を弾丸に込める能力を買われ警視庁から陰陽課に出向している。
その力を使う前に岩笠を見つけられた。
岩笠がいるなら近距離の戦闘は任せておけばよい。
必要だとすれば長距離だろう、とライフルの準備を始める友里恵。
その組み立ての手際をぼーっと眺めながら、
「で、どういう流れになってるの?」
岩笠が伸治に尋ねると、
「先ずは首塚の現状把握っすね」
簡単に答える伸治。
「そっか、それをもとにトヨさんと省吾くんが再封印するんだね? あ、光雄くんも来るの?」
「いや、光雄は潜入中だから。でも来るのかな? わかんないっす」
そのへんの調整は美幸さんがやってます、と運転しながらちらりとバックミラー越しに岩笠を見る伸治。
省吾、水屋省吾はもう一人の陰陽課職員で、光の家族会に潜入中の磯旗光雄と同じく陰陽師だ。
前述の通り陰陽課という部署名は便宜的なもので、陰陽師はこの二人しかいない。
古代中国の五行思想に易教や道教などが結びついて発達した陰陽道。
日本はシルクロードの終着点。
入ってきたものを貪欲に吸収し、それらを次が入ってくるまで磨き独自に改良するということを繰り返してきた。
陰陽道もその例にもれず日本で密教や神道・修験道なども取り入れさらに独自の発展を遂げた。
陰陽道の中核である天文の運行や、それらの影響し合う力を利用するのに長けている光雄。
対して、省吾は怨霊・禍神を祓ったり封じたりを得意としている。
なので首塚の再封印には省吾の力が不可欠なのだ。
この件が発覚してから美幸は真っ先に、地方の遺跡の整備・調査で全国を飛び回っている省吾を呼び戻していた。
その省吾はまもなく東京に着く。
彼と呪符研究の第一人者であるトヨとが協力すれば再封印は成功する、と伸治は楽観していた。
「でも、岩笠さん。再封印じゃなくって岩笠さんが将門の霊を調伏しちゃえば早いのではありませんか?」
岩笠の霊力は人類のそれと比べ桁違いに多い。
如何に日本三大怨霊と恐れられるものでも岩笠ならなんとかできるのでは? というのは友里恵が抱いた当然の疑問だが、
「うーん、きっと無理だね」
と岩笠。
「並の武人ならともかく怨霊化しちゃった将門公でしょ? その負の霊気の量は相当だしね」
以前美幸が厳達に説明した通り、個人の霊力の残滓が怨霊化するのではない。
強い負の霊力、"怨念"を中心に集まった様々な理由で負の性質を帯びた霊力の総体が怨霊である。
如何に岩笠の霊力量が膨大でもそれを相手どるのは難しい。
負の霊力を散らすには単にニュートラルな霊力をぶつければよいというわけでもないからだ。
「封印じゃなくって調伏なんだったら、僕より呪禁師の伸治くんがやった方がうまく行くんじゃない?」
呪禁師が使うのは道教由来の呪により邪を避ける秘術である。
陰陽道の台頭により表舞台から消え野に下った。
伸治はその末裔であり、治癒と破邪を得意としている。
が、
「やだなぁ、俺の霊力量じゃ全然足りないっすよ」
なに馬鹿なこと言ってくれちゃってるんすか、と呆れる伸治に、
「伸治さんじゃできないってこと?」
友里恵が聞き直すと、
「そりゃそうさ。将門の怨霊だぜ。俺なんて大波の前の葉っぱみたいなもんだよ」
いくら破邪の技があっても霊力の総量差でどうにもなんねえよ、と応える伸治に、
「やっぱり弱っちいじゃない」
役に立たないのね、という顔の友里恵。
そんなこと言われてもな、と笑うしかない伸治だった。




