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「岩笠さんは?」


「駄目だ、間に合わねえ。取り敢えず俺らだけで行こう」


「二人で? 何もできないわよ」


「そんなん行ってから考えりゃいい!」


美幸と伸治はそんなやり取りをしながら駐車場に向かい車に乗り込んだ。


伸治が車を急発車させる。


「でも、なんで首塚の仕掛けを回収したのが漏れたんだ?」


「分からない。知っているのは陰陽課と警察・公安のごく一部だし、時間だってそれほど経ってないわ」


「ってことは……」


「優れた諜報力を持った組織が動いているのか、言いたくないけれど……」


「そのごく小数か、俺らに内通者がいるか、か?」


「……だとしたら厄介ね」


「ああ」


車内に重い空気が流れる。


もうすぐ首塚、というところで、


「停めて! 道の端に寄せて!」


急な美幸の指示に伸治が、慌てて従う。


「どうしたん……」


訊く前に理由がわかった。


地鳴りとともに不快な気が地面から立ち上ってくる。


「ちッ、間に合わなかったか。どうするよ?」


舌打ちした伸治に美幸が、


「皆を集めましょう」


応え携帯を取り出すが、


「……駄目ね」


通話はできない。


「このなんだかわからない霊気に電波が干渉されてんのか?」


「そうみたい。きっと皆、陰陽課に向かってくれると思うけれど、先ずは……」


最優先で迎えに行くべき者へと車を向けた。




「もしもし! もしもし! 駄目だ、切れた」


「こっちもつながらない!」


刑事達が急に切れた通話に動揺するが、


「咲さん、封印が解かれちゃったんだね?」


厳に応えて、


「きっとそうだと思う。地面から嫌な霊気が……」


霊力感知能力のある咲でなくとも、滲み上がってくる不快な気は感じている。


「君たち、なにか知っているのか?」


刑事の一人が問いかけると、三人は顔を見合わせ、


「緊急時だから秘匿なんてしてられないよね?」


厳が花に同意を求める。


自分の不用意な問いかけが封印解除を助けてしまったと花は呆然としていたが、


「花さん、君のせいじゃない。これで失敗しても成功するまで続いたはずだよ」


厳のそれは慰めでしかないが、どう悔やんだところで取り返しはつかないのだから無理やり納得することにした花は、厳の問に頷いてYesを表したので、


「将門の首塚の、封印が解かれてしまいました」


刑事に厳が打ち明ける。


だが内容が、内容だけに、


「何のことだ?」


怪訝な顔の刑事たち。


まあ、そういう反応になるよな、と厳は続けた。


「信じられないのはわかります。でも、見てください」


刑事達が厳に促され見上げると、さっきまで晴れていたのが嘘のように曇天に変わっている。


いや、ただ曇っているのではない。


まるで自分の目にフィルターがかかったかのように暗く見えているのだ。


「おかしいのは分かりますよね? 地面から昇ってくる不快な気配も感じませんか?」


言われてみればうっすら何かを感じる。


「これらはすべて、首塚の封印が解けてしまったためだと思われます」


「では、この女は……」


刑事は失血による死亡が確認された山里の亡骸を指す。


目の前で自死したのは見ていた。


指先で手首を切り落としたように見えた。


探したが刃物らしきものは所持していない。


投げ捨てたようにも見えなかった。


そもそも女性の力で手首をこれほど鮮やかに切り落とせるものではない。


何か自分たちの理解を超えることがおきているのは間違いなかった。


「そうです。僕たちも理由はわからないし、この山里と名告っていた人の正体も目的も知らないのですが、封印を解こうとしている者たちがいるのは確かで、それを阻止するのが僕らの役目だったのですが……失敗したようです」


刑事達が顔を見合わせる。


確かにこの件は最初から不可解な点が多く、命令されるばかりで理由は聞かされていなかった。


なぜ教えてもらえないのか、と(ただ)しても言葉を濁されたが、こんな事情があったのなら答えようはないな、と今更ながら得心する刑事達。


いや、もしかすると命令を下した上司も詳しくは知らされていなかったのかもしれない。


知らされれば、何の冗談だ、と取り合わなかっただろう。


だが今は、信じざるを得ない。


「もしそうだとして、その……首塚の封印が解けたのが本当だとしてだよ、これから何が起こるんだい?」


「わかりません。わかりませんがこの雰囲気からよくない状況であるのは間違いないと思います」


「……そうだな」


自分等だけではどう動けばよいか判断しかねるので、


「一旦、本部に帰ろう」


「これらはどうする?」


山里と殺された同僚の死体だが、


「現場検証は必要か?」


成り行きも特殊であることだし、いつ戻ってこられるかも分からない。


「いや、緊急時だ。回収してしまおう」


通常の手続きは諦め、死体を運び出すことにした。


「我々は戻るが、君らはどうする? 一緒に来て詳しく説明してくれると助かるが……」


これには花が応えて、


「いいえ、警察にはきっと他から説明が行くと思います。あたし達はここで状況を見て動きます」


と、いうことになった。

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