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ティロリン ティロリン ティロリン……
アラートが鳴った。
厳達の高校、格技場裏の呪符が埋められていた場所に設置した監視カメラに連動したAIが怪しい人影を検知したのだ。
伸治が確認すると、車椅子を押す人が映っている。
すぐに内線で美幸を呼び戻す。
「どうして? ここは封鎖したはずなのに」
なぜここに人が入れるのかと訝しむ美幸。
田崎の自殺を知られぬよう工事を装って通行止めにしてあり、更に念を入れ警備も立たせていたはずだ。
遠隔でカメラの向きを変えると、その警備に扮した警官が倒れていた。
「どういうことだ?」
AIに解析させると、鼓動や呼吸は検知できず死亡と判定された。
「マジか……」
何が起きた? と、画像を車椅子に戻し拡大してみる。
「これ、咲さんじゃない?! そうよ、咲さんだわ」
車椅子に乗せられているのは咲だった。
AIもそう告げている。
全く動かないがAIは、死んではいないと判定した。
だが、こんなところに気絶させられ車椅子で運び込まれているのだから咲が危険な状況にあるのは間違いない。
その車椅子を押しているのは山里という養護教諭だと、AIが教師名簿を照会して割り出した結果を表示している。
「なんで養護教諭が咲さんを車椅子で……」
ハッとなった美幸は内線を取り、
「格技場裏のポイントに急行して!」
五芒星の頂点付近で何かあっても対応できるよう巡回させていた警官へ直接指示がいく。
「花にも知らせねえと」
伸治はスマホで花を呼び出す。
「……間に合うかしら……?」
もどかしさに美幸は拳を固めるしかできなかった。
「厳くん、やっぱりここだった」
花が階段を昇ると思った通り、本を片手に座る厳がいた。
食事はすでに終えている。
「どうしたの?」
「咲ちゃんがいないの」
「え? いないって……」
「みんなにはすぐ戻るから先にお昼食べてて、って言って、でもまだ戻ってきていないんだって」
厳が腕時計を見ると、昼休みはもう終わろうとしている。
「それは……おかしいね」
「でしょ? 厳くんも探してくれる?」
「わかった」
厳が弁当箱を持って立ち上がると同時に、
「!」
花が目を見開く。
「厳くん! 木刀!」
再びアラートがなる。
「今度は何だ?!」
鳴っている方のモニタを確認した伸治が、
「マジか! 美幸、行くぞ! 岩笠さんにも知らせねえと!」
花を呼び出すのを諦め、伸治は携帯を岩笠につなぎながら駐車場へと走る。
美幸もそれに続いた。
モニタには、首塚の警備に当たる警官が何者かに嬲り殺されるのが映っていた。
車を降りた光雄が後部座席のドアを開けると、モタモタ降りてきたのは加平。
ドアが閉められると運転手は車を走らせた。
駐車場へと向かったのだろう。
残された二人は目の前の古風な洋館へ。
どういう仕組みか分からないが、扉が開く。
自動ドアにも見えないし、内側に人がいるでもない。
だが加平は不思議がりもせずそのまま中へと進み、光雄もそれに続いた。
人気がない。
やはりひとりでに開いた扉の部屋に入ると、そこはいかにも年代物の重厚な意匠が施された調度で整えられていた。
テーブルと四脚の椅子。
光雄が椅子を引くと加平がそれに座る。
『あなたもお座りなさい』
どこからか声が響いた。
言われるがままに光雄も席に付く。
『さあ、何から話しましょうか?』
「我々ここに来た理由はおわかりで?」
『もちろん。それへの対処はすでにしてあります』
「対処?」
『そうです。あなたは血の五芒星が完成したのに封印が解けない、ということで来たのでしょう?』
「そ、そのとおりです」
『陰陽課を侮りすぎていたわね』
「陰陽課?」
何のことか分からぬ加平が光雄の顔を見る。
光雄は無表情のまま、だが、加平とは目を合わせることなく動かずにいる。
『こちらの話です。少し想定外のことが起こりましたが予定通りに進んでいます』
「では結界は?」
『ええ、解けますよ。戻ってその後の世界への準備をなさい。時間はありません』
「わ、分かりました」
『かねてより伝えてある通りにやるのですよ』
はい、と応え立ち上がった加平に声は続ける。
『それと、お連れは置いてゆきなさい。話があります』
「なんの?」
『あなたは知る必要のないことです』
加平は何か言いかけたが、口をつぐみ、
「わかりました」
席を立って出ていった。
扉がやはりひとりでに閉まる。
『さて……』
声は光雄へと何かを語り始めた。