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「一人来たぞ」


「あれは……要注意指定の教師じゃないか?」


「例のカルトの?」


「ああ、そうだ」


厳達が帰った後、私服警察の動きが慌ただしくなった。


学校関係者以外の不法侵入だけでなく、この男に対しても注意するよう指示を受けている。


田崎という臨時教師で、特別監視下にあるカルトのメンバー。


"光の家族会"という新興宗教団体がある。


典型的なインチキ宗教団体だ。


色々な伝統宗教の上辺だけを寄せ集め、でっち上げたもっともらしい教義で、心の救いを求める人々を騙し金を吸い上げている。


それだけならゆるく監視するだけで済むのだろうが、どうやらこの団体には"()"の顔がある、ということで警戒度が引き上げられた。


信者の失踪、変死が報告されているのだ。


団体内でのリンチが疑われているがまだ決定的な証拠をつかめていない。


証拠がつかめないのは警察内にこの教団の手先がいるからだとの噂があったがこれも噂レベルでとどまっていた。


そんな団体なのに最近なぜか信者が増えている。


教祖が"心霊治療"なるものを始めたからだ。


多額のお布施(・・・)をした者だけ治療を施し、それが医者に見捨てられるほどの病状であっても治るという。


不正な医療行為なので強制捜査もできるが、まだ掴んでいる証拠も弱く立件は難しいので踏み切れずにいる。


田崎も末期癌の親が全財産と引き換えに寛解したことで入信したらしい。


信者であると当局が把握する前に教員採用試験に通ったためチェックが機能しなかったと知らされていた。


カルトが教育の場に手を伸ばし始めたと一層警戒の度合いは高まったが、何故か田崎を泳がせることになっている。


これは都と警察の上の方で決められた極秘の方針だった。


もちろんそれを決める際、一部は、生徒に何かあっては取り返しがつかない、と反対したが、この田崎を教団へ切り込むきっかけにしたいという意向が勝ったらしい。


ただし、カルト絡みでもあるので念には念を入れ陰陽課への協力が依頼された。


そこで陰陽課職員による教団への潜入調査の他に、花が生徒として学校へ送り込まれたのだった。


当然ながらこうした事情は現場に知らされていない。


だから張り込んでいる私服警官は、厳達を見ても、すぐ帰ったが何か忘れ物でも取りにきたのか? と訝しむだけでその正体は知らずにいる。


しかし田崎に対しては違う。


今回の任務に当たり要注意人物であると知らされていた。


本日出勤予定の教師情報は学校からもらっている。


その中に田崎はいない。


緊張感が一気に高まる。


私服警察はインカムで連絡を取り合い、包囲網を敷いた。


校門をくぐった田崎は、本校舎へ入らず建物の横を抜ける。


「どこへ行こうとしているのか泳がせて突き止めるか?」


「そうだな……。だがこの先は、校庭だろ?」


田崎を尾行するにしてもここは町ではなく学校だ。


自分たちが浮いてしまうと分かっている私服警察は、


「やはり確保しよう」


逃げられる前に職質をかけることにした。


「田崎先生」


校庭で運動部が練習するのを眺めていた田崎は、不意に後から声を掛けられビクリとする。


その驚きぶりに、この男には何かある、と直感する捜査員。


田崎が振り返ると見知らぬ二人組の男。


そのうちの一人が、


「先生、今日は出勤ではありませんよね?」


出し抜けにそんな質問を投げかけてきた。


「……あなた方は? 関係者以外学内の立入は禁止ですよ」


田崎は質問には応えず逆に問うが、


「大丈夫です。許可はとってあります」


不法侵入を指摘しても動じず、


「田崎先生、質問に答えてください。なぜ出勤なさっているのですか?」


重ねて詰問してくるので無視してこの場を離れようとした田崎が気付いた。


いつの間に左右にもそれぞれ一人ずつ立っている。


囲まれた田崎がその包囲から逃れようとしても、


「おっと、先生。 話は終わってませんよ」


回り込まれてしまった。


「何なんだ、あんたたちは!?」


声を荒らげた田崎に、一人が手にしたものを見せる。


警察手帳だった。


「け、警察?!」


田崎があからさまに動揺する。


「バッグの中を見せてもらえますか?」


私服警官に言われた田崎は、


(名を知られてるからには、身元はバレていて目をつけられているってことか……)


観念し、バッグのファスナーを開けた。


「中のものを出してもらっても?」


促されてバッグから大きめの手帳を出し警察に渡す。


「見ても?」


「勝手にしろ」


田崎は苛つきながら次を出そうとバッグに手を突っ込む。


捜査員が開いた手帳に目を落としたときだ。


「おいッ!」


一人が、手帳を手に持つ同僚の肩を掴んで後に引き倒した。


田崎がバッグの中で鞘から引き抜いた大ぶりのナイフを横凪に払ったのを避けたのだ。


倒れた二人を飛び越し田崎が逃走する。


警察の一人は倒れながらもその足にしがみつくが、手の甲にナイフを突き立てられ離してしまう。


「待てッ!」


左右の二人も後を追い、倒れた一人はインカムで応援を呼んだ。


田崎は建物の陰に逃げ込んだが、呼ばれた応援が早くも駆けつけ、行く手から迫る。


身構える田崎に、


「ナイフを捨てろ!」


呼びかけながら特殊警棒を手にジリジリと迫る私服警察達。


建物に挟まれた通路で、前も後も塞がれた田崎は、


「チッ、仕方ない……」


小さく言い捨て、


「おい! やめろ!!」


警察が飛びかかる前に自分の手首にナイフを刺すように動脈を抉り切って、


ジュパッ!


派手に血を撒き散らす。


パックリと切り開いた手首を数度振って更に血を振りまくと、田崎は意識を失って倒れた。


私服警察達は突然の田崎の行動に一瞬唖然とするが、すぐ駆け寄り腕や脇の下を圧迫して止血しながら叫ぶ。


「救急車! 早く!」


そうしている間にも田崎の血は地面に広がった。


ここは……格技場と、体育館の間。


厳達が呪符を掘り出した、あの場所だった。

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