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「今回も特等席ですわね」


などと興奮気味のトヨに、美幸は困った笑いを返すしかない。


普段はおっとりしていて上品なトヨだが、実は異常なまでの格闘好きであるのは陰陽課の誰もが知っている。


何しろ有給休暇はプロレス観戦なのだ。


そんなトヨがワクワクしながら待ち構えている"戦闘"が始まった。


掘り当てた呪物に、見た者を攻撃する仕掛けがされているのは岩笠の膨大な経験から察しが付いた。


が、その方法までは分からなかった。


それは美幸たちも同じで、どんな攻撃が来るのかと目を皿にして警戒していると、


「蛙?!」


美幸が頓狂な声をあげた。


蛙の石像が動き出したからだ。


あれらに何か細工がしてあったというのだろうか?


トヨが見ても表面(・・)に変わったところはなかった。


ということは()に何か仕込まれていたのかも知れない。


が、岩笠と、地中に埋め込まれているであろう首塚の封印破りの呪物と、そしてこの首塚の地の強い霊力で美幸は蛙の石像からの霊力には気付けなかった。


ビタン


大蛙が岩笠の方へと向きを変える。


小さな蛙の像も動き出すと同じく岩笠に正対する。


じわじわと囲みが狭まる。


どう出るか? と岩笠が蛙の動きを伺っていると、


ゲコ


大蛙の鳴き声を合図に、


シャッ


一斉に伸びた蛙の舌に岩笠が両腕を振るうと、


ピシッ、ボリッ……


殆どが砕かれ石に戻るが、いくつかは岩笠に届き張り付いた。


その舌が霊力を吸い取る。


常人ならあっという間に吸いつくされただろう。


だが岩笠の莫大な霊力には微塵も影響がない。


だからといって黙って吸わせてやる義理もない。


「いけないねえ」


呟いた岩笠はそれらを払うと、やはり石に還る。


ビヨンッ


舌を失った蛙たちが跳びかかる。


岩笠に避けられた大蛙が着地すると、


ドゴンッ


岩畳が割れる。


これほどの巨石だ。


ぶつかられるだけで相当な衝撃だと分かる。


他の蛙を避ける暇のない岩笠が、バッ、と腕を広げると蛙たちが空中で止まる。


それらがぐうっと上空へと持ち上がり、


ヒュウウッ


大蛙めがけ落下した。


落とされた蛙は全て粉々になったが、大蛙は硬度が高い材質なのか、少し削れた程度。


また岩笠へと、


ビヨンッ


跳びかかる。


岩笠は今度は避けずに、両手を大蛙へと突き出した。


大蛙の動きは空中で止まりきらず、ゆっくりと岩笠へと迫るが、


「むうん!」


岩笠の振り下ろす腕に合わせて、大蛙も地面に叩きつけられた。


地面が凹むだけで大蛙にはさしたるダメージがあったようには見えない。


岩笠は動きを封じるための左腕はそのままに、右腕を振るう。


岩畳の何枚かが持ち上がり、


ブンッ


先程の蛙達より高いところから大蛙めがけて落とされた。


ガゴッ、ガゴッ、ボクッ!


3つめが命中すると大蛙に大きな亀裂が入り、


ドゴッ


4つ目で完全に二つに割れて動かなくなったところで、


パチパチパチ!


トヨの拍手が響いた。


「素晴らしかったですわ! 肉弾戦もよいけれど、大質量の無機物のぶつかり合いも迫力がありましたわっ!」


興奮冷めやらぬトヨに美幸は、そうですね、と棒読みで応えておいて、


「岩笠さん、目撃者(オーディエンス)


短く指摘。


「あ、そうだった」


ビルの谷間に響いた衝撃音に、何事か? と集まってしまった人々。


それらに岩笠が掌をかざし霊力を送る。


こちらを見ていた者達はもれなく、酔った心地になり俯せた。


今見たことは記憶から抜け、代わりに二日酔いのような吐き気と頭痛だけが残る。


ぼーっとした頭で、何が起きたのだろう? と首をひねりながら立ち上がると散っていった。


「数日悪夢にうなされるのはお気の毒だけれど、運が悪かったと諦めてもらうしかないわね」


毎度のことながら仕方ない、と肩をすくめる美幸。


「うん。誰にも気づかれずにこれ(・・)をどうにかはできなかったかな。こんな強力なのは久しく見てないよ」


岩笠も足元の大蛙の残骸を足で転がした。


こんな物を仕込める者が何か企んでいるということだ。


三人に緊張が走る。


人気(ひとけ)がなくなった所で、


「さっさと調べてしまいましょう」


掘りかけた穴の調査を再開した。

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