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「おはよ〜。待った?」


「おはよう。来たばかりだよ」


こんな定型句のようなやり取りでも夢見心地の咲。


だが待ち合わせの理由は、


「急ごう。間に合わなかったら大変だからね」


残念ながらデートだとかではない。


テロを止めるためだった。


何故、普通の高校生である自分がこんなことに巻き込まれてしまったのか……


自分一人だったらなんとか関わらないようにしただろう。


だが、厳も一緒だ。


危険だろうがなんだろうが構わない。


こうして厳の横を歩けるだけで、他のことは咲にとってどうでもよかった。


学校に着くまでに、


「バレバレだね……」


明らかに張り込み中の私服警官を数組見かけた。


あんな調子で本当に捕まえられるのかな? やっぱり来てよかったね、などと厳と咲は小声で言い合う。


ただ、まだ警察が監視しているということは何も起きていないということでもある。


それにはホッとする。


校門をくぐるが、制服だからか止められたりしなかった。


格技場裏に二人がゆくと、


「「「あ」」」


三人で声が揃った。


花が既に来ていたのだ。


「なんで? ……って、考えていることは同じか」


花に訊かれ、


「そうみたいだね」


厳はリュックを下ろした。


咲に対し、邪魔しちゃってごめんね、と、口から出かかったが、かろうじて止めた花は、


「なんだか重そうだね。何入ってるの?」


と、厳のリュックの中身を訊く。


「えっとさ、少し考えたんだけれど……」


厳の説明に、


「「 確かに! 」」


それなら危なくもないので花も咲も賛成し、ではやってみよう、ということになった。




この前日。


「岩笠さん、すみませんね」


「いいよ。大変なことになってるもんねぇ」


連絡を受けた岩笠が他の仕事を切り上げ戻ってきたので、首塚へと向かう。


伸治は厳達を車で送っているので、美幸・トヨ・岩笠の三人だ。


夕暮れで、人影はまばらだった。


首塚の周りをぐるりと見て、取り敢えずの危険がないと確認した岩笠は、


「向こうで待っているね」


トヨと一緒に首塚から離れた。


岩笠の強大すぎる霊力が近くにあると美幸の霊力探知が全く使えないからだ。


トヨも常人と比べればかなり霊力が高いので同じように離れた。


建物の陰からこちらを伺っている岩笠とトヨ。


何かあったらすぐ助けに入れるようにしているのだろうが、


(……もう少し離れてくれないかしら)


これだけの距離をとっていても岩笠の影響が強くてやりにくい。


だが、目的のものは簡単に見つかった。


合図して二人を呼び戻す。


「ここからおかしな感じがするわ」


美幸が指差したのは、蛙の石像だ。


いつからか、無事"帰る"に掛け"蛙"の置物を置いて祈願するのが始まった。


数年前、それらは神田明神へと移されたはずだが、また誰かが置いたのだろう。


一つ置かれるとそれに倣う者が後を絶たない。


大小いくつもあるが、その中の特に大きな物が怪しいと美幸が言うので、


「動かしてみるかい?」


岩笠が大丈夫だろうか? とトヨを見る。


「どうでしょうねえ? 見えるところには何もありませんから、あるとしたら裏でしょうねぇ」


ならば、と、岩笠が手を大蛙の石像へと伸ばし掌を広げると、


ググッ


細かく揺れた大蛙が、


フウッ


ゆっくりと宙に浮いた。


岩笠の念力だ。


かぐや姫を迎えに来た天人に射掛けた矢が逸らされたあの力を岩笠も得ていた。


浮いた大蛙の腹がトヨの方へと向いた。


「お腹にも、何もありませんわね」


「そうかぁ。何もないかぁ」


岩笠が蛙を下ろそうとすると、


「待って、岩笠さん。少しずらして」


美幸に言われ、もとの場所ではない所に蛙を下ろし、


「この下かい?」


美幸の言わんとすることを察した岩笠に、


「掘る?」


と訊かれた美幸が、お願い、と応える。


同じように岩笠が手をかざすと、地面がひとりでにえぐれ穴が広がってゆく。


「あれ、なんか……まずいっぽいなあ。美幸さん、トヨさん、離れたほうがいい」


岩笠にそう促される前に、異常な霊力を感知していた美幸は下がるようトヨに片手で合図していた。


トヨは後退りしつつ、斜めがけしたバッグから水筒を取り出し、


「美幸さん、こちらへいらっしゃい」


呼ばれた美幸がトヨのすぐ横に立ったところで、


シャアーッ


トヨは水筒の中の液体で、自分たちの周りにきれいな円を描き、四方に札を置くと、


「岩笠さん、わたくしたちの心配はいりませんわよ」


こんな事が今までも何度もあったようで、岩笠は振り向きもせず、


グッ


親指を立てて応えるのだった。

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