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「ごちそうさま」
帰宅後、厳は夕食を結と食べながら陰陽課での事を話した。
美幸からの謝罪があったと聞き、家訓を破ることにはなるが陰陽課への参加を結も賛成した。
代々続けて来た鬼退治が危険であるのは間違いない。
仲間がいるのならそれに越したことはないだろう、という判断だった。
食後、自室に引っ込み、まったりしていた厳の携帯の通知が鳴った。
見てみると、
(あれ? 神前さんじゃない。西村さんだ)
帰りの車中で今後のことも考え連絡先を交換しておいたのだが、気軽に連絡してくるのは花だろうという厳の予想は外れた。
メッセージを開くと、今から電話で話せないか、というものだった。
いちいち、大丈夫だよ、と返事をして向こうから電話してもらうのも手間なので、厳からかける。
待っていたのか、すぐ咲は出た。
「あ、田村く……厳君。ごめんね。今、大丈夫だった?」
ファーストネームで呼び合うという陰陽課のルールは、厳との距離を縮めたい咲にとって渡りに船だった。
「うん。晩ご飯食べ終わって、今は自分の部屋で寝っ転がって本読んでたんだ」
「ふふふ、厳君って、いつでも本読んでるのね」
「いつでもじゃないけど……ほとんどかな」
自分で言ってから、"いつでも"と"ほとんど"は大して変わらないか、と笑ってしまう厳に咲も笑った。
「で、どうしたの? 何かあった?」
「ううん、何かってわけじゃないんだけれど……帰り、厳君、なんだか考え込んでたみたいだから……」
「あ……」
顔に出さないようにしていたのに、咲にはバレていた。
「えっとさ、明日の朝、学校に行ってみようかなって」
「ぇ……そんなこと考えてたの? 危ないんじゃない?」
生贄の血で五芒星を描こうとしている者がいるのに、わざわざその場に出向き、その生贄にされてしまっては大変だ。
「警察が警備しているんだから、厳君が行かなくても……」
咲は厳を止めようとするが、
「そうなんだけれどさ、封印は仕掛けが不完全でも解除できるって言ってたでしょ?」
「うん」
「確かに呪符を使った五芒星はもう完成しないよね。呪符が回収されたのは仕掛けた人も知らないだろうから新しいのを埋め直したりしないでしょ?」
「うん」
「でも、呪符がないことを知らないからあの場所で血を流す儀式をやるためにやってきた犯人を捕まえようってことだったじゃない?」
「うん」
「捕まえるのはいいんだけどさ、血が流されちゃったらまずいんじゃない?」
「どうして?」
「だって、呪符の五芒星は作れなくても、血の五芒星は完成しちゃうじゃない。そうしたら不完全だとしても封印を解く力も強まっちゃうんじゃないかな?」
「……多分、そうなのかな……?」
咲にはよくわからないが、厳にそう言われるとそんな気もしてくる。
「警察を信用していないわけじゃないけれどさ、きっと警戒にあたっている人たちは首塚のことまでは知らされていないわけじゃん?」
知らなくては見落としがあるかも知れない。
血が流されてしまってからでは取り返しがつかないので行ってみるつもりだ、と厳は打ち明けた。
「……でも、危ないよ〜。美幸さん達も首塚に行くって言ってたし……、任せておいたほうがいいんじゃない?」
「確かにね」
咲に同意するも、行くのをやめるとは言わない厳。
「やっぱり、……行くの?」
「う〜ん、そうだね〜。 行ってみようと思う」
これは止めても無駄だと悟った咲は、
「だったら、私も行く」
「え?」
まさかの申し出に、
「いや、駄目だよ。さっき危ないって自分で言ったじゃない」
「でも、私の霊感? 霊力を感じる力はきっと役にたつわよ」
「 ん〜 」
確かにそうだ。
これには言い返せない。
厳と花だけだったら呪符は見つけられなかった。
「それに……」
「それに?」
なんだかスマホ越しに咲がもじもじしているのが伝わってくる。
そして急に早口で、
「危なくなったら厳君が守ってくれるでしょ? だから私も行く。絶対一人で行っちゃやだからね!」
それだけ言うと、咲は電話を切った。
(?)
何だったのだろうと厳が首をひねっていると、通知音が鳴り、
『7時に駅で待ってる』
との短いメッセージ。
そして立て続けに、
『返事はいらないから』
『おやすみ』
と送られてきた。
よく分からないが明日に備え、厳は寝ることにした。
言うだけ言って一方的に電話を切ってから、明日のことを何も決めていなかったと気付き慌ててメッセージを送った咲。
送信を押した指がまだ震えている。
"守ってくれるでしょ?"
そんなことよく言えたもんだと我ながら思う。
とっさに口から出てしまったのだから仕方ない。
でも、言ってしまったことに後悔はしていない。
むしろ、よく言った、と自分を褒めたい。
(山里先生、ありがとうございます!)
月曜にでも報告に行かなきゃ、などと考えながらベットに潜り込んだ。
高揚したままでは眠れないかと思ったが、予想に反してすぐ眠りに落ちる咲だった。