22
「来たぜ」
解析依頼された呪符だった。
伸治は受け取ったビニル袋をトヨに渡す。
ガラス板を用意したトヨはビニルを開ける。
油紙と包み紙を取り除いて出てきた呪符を素早くガラス板で挟む。
「これで大丈夫ですわよ」
このガラス版にも何かが掘りつけられているので、呪符の効力を封じる力があるのだろう。
トヨが呪符を包んでいた和紙を広げ、
「ご覧なさい」
と、照明に向けると、
「あ、……模様。 透かし?」
花の言う通り和紙には透かしが施されてた。
「これは呪符の霊力がアレを引き寄せてしまわないようにするための目隠しみたいなものですわね」
血を呼ぶ呪符。
この手の呪符には、血のお溢れを期待してアレが群がってくる。
そのせいで本来隠したい呪符が発見されてしまう可能性も高くなる。
なので、こうした目くらましを施しアレが近づかぬようにするのだという。
「でもアレ、格技場裏に出ましたよ? あと理科室にも」
「もちろん、完全に封印してお札そのものが機能しなくなっては意味がありませんでしょ? 全く寄せ付けなくもできませんのよ」
花は、格技場裏でアレを見つけたときのことを思い出し、
「だから……札の正確な位置が分からなくて、ウロウロしていたのかぁ……」
言われてみれば何かを探すようだったな、と厳も思った。
「理科室でも出たと言いましたわね?」
トヨは、油紙の方を取り上げ、
「これが原因でしょうかねえ?」
トヨの推理は、何者かが札を理科室で書き上げるか準備のため包から出すかなどした後、パラフィン紙を探している間にこの札の気配が理科室に残った。
それにアレが引き寄せられたのでは? というものだった。
確かにこの油紙は、実験材料を分けたり、サビ防止に金属の道具を包んだりするのに使うパラフィン紙だ。
呪符の気配に引き寄せられたアレは、いくら探しても見つからないので諦めて理科室から出たところで厳と鉢合わせになったのかも知れない。
そう考えると、今まで一度も学校に出なかったアレが立て続けに出たのにも納得がゆく。
アレって何? となっている咲には後で詳しく説明するとして、ともかく、鑑定依頼された呪符と学校で見つかったのとを並べて見比べる。
「ほとんど同じですわね」
トヨに言われるまでもなく全く同じものに見える、が、
「ほとんど?」
美幸は聞き逃さなかった。
「そうですわ。ここら辺をよく見てご覧なさいな」
トヨが指摘する部分をよくよく見ると、
「あ、確かに」
僅かな違いがある。
「この違いはどういったもの?」
「いわゆる"位置情報"ですわね」
「位置情報?」
トヨも、一枚目の札だけでは確信が持てなかったが、
「この二枚を見比べて、そうであることがはっきりしましたわ」
満足気に頷きながらノートに何かを書き込んでいる。
その手が、
「そうなると……」
と言ったきり止まった。
「どうしました?」
美幸の問いかけで皆に注目されているのに気付いたトヨ。
「あら、ごめんなさいね。でも、二枚も補助札があるということは……、相当大掛かりな封印解除法なのかと思いましてねぇ……」
ここまでして誰が何を解除しようとしているのか?
そう考えると手が止まってしまったというのだ。
「この札は生贄の血の呪力を強めるのですよね? ってことは、学校でも誰かが生贄として殺されるところだったのですか?」
そんな厳の問に、
「そう考えたほうがよいですわね。ただし、殺されるところだったではなく、これから誰かが犠牲になるかも知れませんよ。埋めた者は、これが掘り出されたと気付いてないでしょうから」
そうトヨが応えるのを聞いた美幸は、
「思ったより切迫しているのね」
携帯を取り出す。
高校の周辺に私服警官を配備し、怪しい行動を取る者を取り締まるよう緊急の指示をだした。
自分たちの高校がそんなことに巻き込まれているなんて……、と厳と咲は顔を見合わせる。
携帯を仕舞った美幸が、
「他の呪符の場所だとかはわかりませんか?」
トヨに次の動きのためのヒントを求めるが、トヨは首を振り、
「全部で何枚あるのかも分からないので、この補助札だけでは"中心"までは特定できませんのよ」
トヨがメインの呪符という意味で何気なく使った、"中心"という言葉に厳がハッとなり、
「あの……」
素人が発言してもよいのかと、おずおずと切り出すと、
「どうしたの? 気付いたことがあるのなら何でも言って」
美幸に促され、
「えっと、この呪符と関係があるのかどうかはわかりませんが、一昨日も、先一昨日も、血塗れの変死体ってニュースを見たような……」
それを聞いて顔色を変えた美幸と伸治。
確かにそんなニュースがここんとこ続いていたな、とパソコンを起動させた伸治が、
「プロジェクタに映すぜ」
地図を開いた。
「まず、お玉ヶ池だろ? それと御茶ノ水高校……」
画像の中の呪符が見つかった場所にピンを立て、
「それと、一昨日の死体発見現場は……」
変死体のニュースを検索しその住所にもピンをすると、台形が浮かび上がった。
どれもここから近い。
そして皆が同じことに気づいた。
「厳君、お手柄よ。 これって、同じ円の円周上にあるんじゃない?」
そうでれば、
「円の中心ってこの辺よね?」
美幸が指した地点は、
「おいおい、冗談だろ……そこって……」
伸治が絶句しつつ開いたウインドウに表示されたのは、
「 ……将門の……、……首塚 」