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「! そんな……じゃあ一体……? あっ!」


ここで厳が気付いた。


「あの人を"岩笠さん"って呼びましたよね!?」


「あら、厳くん、もう分かったの? 読書家だってデータにあったけれど相当ね」


美幸が花に、データだけじゃその度合いまでは伝わらないよい例ね、などと暢気なことを言うと、花は花で、


昼食は本を読むために一人で食べてるんだって〜、と告げ口するように応じる。


え〜、男子高校生が一人でお昼ご飯? 虐められているわけじゃないわよね?


などと脱線しまくっている。


そんな会話を厳は無視し、


「まさか、あの人が"調岩笠(つきのいわかさ)"だって言うんですか? ありえない! 物語上の人物でしょう?!」


こんな感情的な厳を初めて見る咲は少々面食らう。


目を丸くしている理由はそれだけでなく、話が見えていないから、というのもある。


その咲の表情に厳が、


「調岩笠だよ! 竹取物語に出てきたでしょ? 物語の最後、月へ去ったかぐや姫の残した手紙と不死の薬を帝から焼き捨てるように命じられた人!」


「え……そんな名前だったっかしら?」


勿論、咲も竹取物語の筋は知ってはいるが、細かい登場人物の名までは覚えていない。


戸惑う咲を助けるように美幸が厳の問を肯定した。


「そうよ。あの人はその"調岩笠"なの。竹取物語はかなり脚色されてはいるけれど、完全なフィクションでもないの」


そのフィクションではない部分の一つは、彼が霊薬処分を命じられたことで、


「物語では調岩笠は富士山の火口に薬を投げ入れて処分したことになっているでしょ?」


この部分がフィクション。


もちろん物語同様、岩笠が薬を処分したものだと皆が信じていた。


だが、実は密かに持ち帰り、息子に地位を譲り隠居してから飲んだのだという。


「え……不死の薬を? だから今でも生きてるって言うんですか?」


「そういうことよ」


「……1200年、も……?」


信じられない。


アレ(・・)と戦ってきた厳でさえ信じられないのだ。


話についていけていない咲はな尚更信じられないが、


「でもあなたには分かったでしょ? 彼が普通の人(・・・・)ではないって」


美幸に尋ねられ、咲は頷く。


「あの人からは、何ていうか……とても強い圧力のようなものを感じて、同じ場所にいるだけで苦しくて……」


「それはね、岩笠さんの体が薬によって作り変わって、人間ではありえない霊力を持っているからなのよ」


あの霊圧には私も慣れるまで大変だったわ、と美幸が咲に同情する。


そして美幸が続けた岩笠についての補足はこうだった。


かぐや姫が月に帰ったというのは無論、比喩。


地球外生命体である彼女(彼女と呼んてよいのかすらもはや分からないが)は何らかの理由で地球に流刑になっていた。


そのため地球人の体の中にその記憶と魂が封じられていたが、服役が終わり母星に帰るとなったときに元の生命体へと体を戻さなくてはならない。


そのための薬があの"不死の霊薬"だった。


その薬で作り変えられ若返った体が本当に不老不死なのかはわからない。


が、岩笠を見る限り、少なくとも人類のようなたかだか100年程度の短い寿命でなくなることは確かだった。


その特別な肉体には大量の霊力が宿っている。


それに咲は恐怖したのだった。


だが厳には何も感じられなかった。


花にも感じられないらしい。


だから岩笠との対面が、霊力感知能力有無のテストになる。


そういうわけだった。


美幸も陰陽課に入る前にこのテストを受けたのだという。


更に美幸は厳にもしたような話を掻い摘んで咲に聞かせ、


「で、西村咲さん。提案なんだけれど」


一通り説明を終えると、


「私達と共に働いてくれないかしら?」


咲を勧誘した。


(あ、これって拒否すると記憶を消されちゃうやつ?)


厳が花をちらりと見ると、黙ってて、と無言の圧が返ってくる。


だが、アレ(・・)のことを知っていた自分と咲とでは境遇・状況が違う。


たったこれだけの説明で何がなんだか分かっていないだろうに決断させるのは酷というものだ、と厳が口を出そうとすると、


「……田村君もメンバーなんですか?」


咲がそんなことを尋ねた。


「そうよ。まだ正式にではないけれどね」


静かに、だがハッキリと頷く美幸。


その返事を聞いて一瞬厳を見た咲は、


「じゃあ、私も……私もやります」


決然とそう応えたのだった。

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