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「待った?」


厳と花が校門まで来たときには咲は既に待っていた。


「ううん、今来たとこ」


「じゃあ行こう。向こうで車が待ってるから」


高校から皇居まで歩けなくはないが、30分以上かかってしまう。


電車も遠回りになので歩きとたいして変わらない。


車なら10分もかからないという。


校門を出て曲がったところにSUVが停まっていた。


運転席の男に厳が挨拶する。


「御手洗さん。こんにちは」


伸治だった。


「やあ、厳君。もう大丈夫か?」


「はい、おかげさまで」


咲にも簡単に紹介し、皆車に乗り込んで出発。


皇居には車のまま入る。


もちろん検査などない。


そのことで本当に陰陽課は存在するのだな、と実感する厳と咲。


小径(こみち)に入り、通りからは見えない入り口の扉が開いた。


下り坂をグルグル回る。


「さあ、着いたぞ。降りて」


行き止まったところは結構広い地下駐車場になっていた。


物珍しさにキョロキョロする厳と咲。


エレベーターがある。


それに乗り込み、伸治が押した行き先階を見て、


「更に下がるんですか?」


厳が尋ねると、


「ああ。まさに"地下組織"だな」


冗談なのかも知れないが、


「はあ……」


笑うこともできず厳は気の抜けた返事をするしかなかった。


エレベーターの扉が開くと、大きな一室に出た。


「待ってたわ」


出迎えた美幸に後ろに厳も見たことのない男が立っていた。


「!」


その男を見るや咲は怯えて厳の袖を握る。


「どうしたの? 大丈夫?」 


厳は咲を気遣いながらも男を観察した。


中肉中背。


年の頃は二十代に見える。


特段怯える理由は見つからない。


が、咲は真っ青になっている。


こんなにも怯える何かを、咲は男について知っているのだろうか?


ならば、咲を怯えさせるような男が何故ここにいるのだろう?


厳が答えを求めて美幸を見ると、その視線に応えるように、


「花の言うとおり私の同類ね」


そう美幸が結論づけた。


男は男で、


「こういう反応には……傷つくべきなのかねえ?」


伸治に変なことを尋ねている。


伸治は慰めるように男の肩に手をポンポンとやり、


「そうっすね、岩笠さん、傷ついていいと思いますよ」


そんなふうに応えて二人して別室へ行ってしまった。


残された4人。


男が部屋からいなくなると咲は少し落ち着きを取り戻した。


「ごめんなさいね、怖い思いをさせて。でもこれが一番確実なテスト方法だから」


詳しい話をするから掛けて、とソファーを勧める美幸。


咲に自己紹介をしてから、


「さっきの人はね、岩笠さん。陰陽課、というより陰陽寮の時代からずっといる人なの」


「? 陰陽寮の時代……? ちょ、ちょっと待ってください、陰陽寮って明治になって廃止されたんですよね?」


厳が陰陽課について調べると、極秘機関と言うだけあって出てくるのはフィクションの中だけのものだった。


が、代わりに検索に引っかかったのは実在した陰陽寮。


天武天皇の時代からある、天文を読み解き占いや暦の編纂を担当する部署。


所属は中務(なかつかさ)省で宮内庁ではなかった。


そして明治に入ってから廃止されたはずだ。


「そうよ。陰陽寮は確かに廃止されたわ。表向きはね」


「表向き?」


「いい機会だから陰陽課の簡単な歴史を知っておいて。西村さんも話が前後してしまうけれどとりあえず聞いてちょうだい」


陰陽寮の仕事は厳の調べたとおり暦の作製と占いが中心だったが、破邪・退魔・魔封じの儀等も含まれていた。


アレ(・・)の調伏もその一つだ。


それには特殊な技術・能力が必要で、だんだんと暦編纂のような仕事とは分化されてゆく。


実力のある術者が集められ裏の仕事を担った。


その中に花の先祖もいてその式神使役の技は代々受け継がれ裏の陰陽寮への所属も続いた。


だから花の親は彼女が陰陽課の仕事に従事しているのも、そのミッションで厳の高校に転入したのも知っている。


ともかく陰陽寮は、平安末期には表と裏は完全に別れたのだった。


明治に入ると表の仕事、暦の編纂をする陰陽寮は廃止された。


が、裏は残った。


所属も中務省から宮内省直属へと変わった。


敗戦後はGHQにその存在を認めさせ、宮内省が庁に変わってからも極秘機関として陰陽課と名を変え存続している。


ざっとそんな説明を受けた咲は、なぜそんな機関が私をテスト? となる。


「で、岩笠さんの話に戻るけれどね」


そうだった、咲が怯えた男の正体についての話がまだだった。


「彼は陰陽寮が表向きに廃止になる明治の前、いいえ、もっともっとずっと前。平安時代になる辺りからこの組織の一員なの」


「まさか! 1200年も生きているってことですか?」


「そのとおりよ。彼はね、厳密に言えば……人間じゃないの」

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