15
翌朝。
「西村さん、ちょっといい?」
昨日のことだけど、と周りに聞かれないように小声になった花。
秘密にしたいのかと察した咲は小さく頷いて、
「お昼に?」
「西村さんさえよければ」
私は大丈夫、と応える。
(田村君も来るのかしら?)
少し期待する咲。
昼になり、
「ご飯食べながらお話しようよ」
花が咲を誘う。
ごめんね。ちょっとお話があるの、と、いつも一緒に昼を過ごす友達に断った咲が弁当を持ち花を追って教室を出ると、
(あ……)
厳も廊下で待っていた。
花と咲を確認した厳は頷いただけで歩いてゆく。
「行こ」
短く花に促され、咲も続いた。
(田村くんとお昼を一緒に……)
信じられない。
残念ながら二人きりではないが、それでもかなりの進歩だ。
尤も二人きりで昼を食べるとなれば緊張しすぎて食事は喉を通らないだろう。
だからこれでいい。
グルグルとそんなことを考える咲の頭からは、自分が見つけた呪符の件で呼ばれたというのがスッカリ抜けてしまっていて、
「あれ、ヤッパリ結構やばいものだったよ」
花にそう言われも、何のこと? という顔をしてしまった。
花も、何でそんな顔? となり、無言の間ができる。
「あ……」
やっと気付いた咲に、
「厳くんとランチで頭が一杯で、呪符のこと忘れてたの?」
厳に聞かれないように小声で冷やかす花。
「そ、そんなこと……」
「あるんでしょぉ〜。正直に言わないと厳くんにバラすよ〜」
ニヤつく花。
「や、やめて、お願い」
涙目の咲。
「うふふ、西村さんってからかい甲斐があるよね」
「え、からかってたの? もうッ!」
こんなやり取りをしている二人に、
「何してるの? 昇るよ」
いつの間にか振り返って待っていた厳が呆れ気味に指すのは屋上に続く階段だった。
屋上は普段施錠されているのでそこへ出るための階段を昇ってくる者はいない。
照明は点いていないが小さな窓があり、十分明るかった。
「こんな所知ってるんだ」
「うん。ここでいつも本を読みながら昼飯食べるんだよ」
「一人で?」
「うん」
「厳くん、友達いないの?」
花はちょっとからかってみるが、
「いないわけじゃないけれど、食事は静かにしたいんだよ」
咲とは違い厳の反応は薄い。
「ふう〜ん」
つまらなそうに生返事を返す花。
厳と花とのそんなやり取りに、咲は、
(そっか、いつもお昼いないと思ったらここで食べてたのね)
また一つ皆が知らない厳の秘密を知れて喜んでいた。
じゃあ、食べながら話そう、ということになり、階段に腰掛けめいめいの食事を開く。
花はコンビニのサンドイッチとりんご。
厳と咲は弁当だった。
「厳くん、お弁当美味しそうじゃない。結さんが作ったの?」
「違うよ。僕が毎日作るんだ」
「え、田村君が?」
咲が驚きの声を上げる。
その声に厳も驚いて、
「そ、そうだよ」
両親がいなくて叔母に引き取られた。その叔母は料理が好きじゃないし、自分は料理が好きだからそういうことになっている、と説明した。
「へえ〜、田村君料理好きなんだ……」
咲が厳の弁当をじっと見ながらそう呟くと、
「料理男子はモテるっていうもんね〜」
花が意味有り気な視線を咲に送る。
「た、食べながら、昨日の話するんだったわよね?」
そんなふうにごまかそうとする咲にニヤついた花は、
「そうだった。あの札ね……」
本題に入った。
「西村さんの感じてたとおり、ヤバいものだったよ」
詳しい解析は終わっていないが、何かの生贄の儀式のためのものらしい。
「生贄の儀式? 何その物騒な話し……」
厳が眉を顰める。
咲も怖くなって箸を止めた。
あの呪符から感じた禍々しさを思い出してしまう。
「何でパワースポットにそんな怖いものが埋まってたの?」
咲の問に、厳と花は顔を見合わせ、
「話していいって許可が出たの」
花が厳にそう知らせてから、
「西村さん、私達があそこでパワースポットを探していたっていうのは嘘なのよ」
咲に真相を打ち明けた。
「陰陽課……」
話を聞いた咲は戸惑っている。
(まあ、そんな反応になるよな)
数日前の自分と同じだ、と厳。
いや、今でさえ実感が伴っていない。
「でね、西村さん。あなたの力をテストしたいからできるだけ早く陰陽課に来られない?」
「陰陽課に? どこにあるの?」
「もちろん皇居よ」
「「皇居?!」」
宮内庁の機関なんだから当然じゃない、と花は二人の驚きを流して、
「今日の放課後は? 西村さん、部活入ってるの?」
「うん。書道部」
「そうなんだ。遅くなる?」
どんなに遅くても6時には終わるし、早く切り上げて帰るのも自由らしい。
「剣道部は?」
「大会前じゃないから昨日と同じで基礎練だけやって終わりだよ。だから5時半頃かな」
そのくらいに校門で待ち合わせることとなった。