14
「? 何かあったの?」
戻った厳が花と咲のぎこちなさに気付く。
花は誤魔化すために、
「なんでもないよ。それは?」
厳の手に持つ物について訊くと、
「ああ、これで掘ってみようと思って」
技術科の授業で余った板切れが部室に置いてあったのを思い出した厳は、それをスコップ代わりに咲の指した所を掘り始めた。
ザクッ ザクッ ……
掘り進めると、
「これ、なんだろ?」
油紙のような物に包まれた薄い何かが出てきた。
厳が拾い上げて土を払うと、
「厳くん、いい?」
花が手を出すので渡す。
咲の顔色がよくない。
無言で厳に隠れるようにしながら花の掌の物を見ている。
「西村さん、どうしたの?」
怯えるような咲に厳が訊くと、
「それ、何か気持ち悪いから、捨てようよ……」
無意識にだろう、厳の袖をぎゅっと掴む咲。
「気持ち悪い?」
花と厳にはその感覚が分からなかったが、
「一応、開けてみよう」
包み紙を開けると上質な和紙で更に包まれている。
「古いものじゃないね。やっぱり最近埋められたんだよ」
全く劣化していないことから厳がそう言うと、花もうなずく。
和紙も取り除くと出てきたのは、
「……呪符だね」
直に見れば二人にもこれの禍々しさが分かった。
見慣れない文字と、小さな丸と線が複雑に繋げられた図が描かれている。
「西村さん、よく分かったね。こんなの見つけるなんてすごいや。霊感あるんだね」
振り向いた厳に褒められて嬉しいが、厳の袖を掴んでいることに気付いて慌てて手を離す咲。
その様子に花はクスリと笑い、厳はどうしたの? という顔。
バツが悪くなった咲は、
「何でこんな物埋めたのかしら?」
花に尋ねるが、
「分からない」
花は呪符を包み直し、
「こういう物に詳しい知り合いに見てもらうね」
内ポケットにしまうと、
「埋め直してもどろう」
そう促す。
穴を元通りにした三人はクラスへと戻った。
放課後。
尾田が先走ってもたらした吉報に、顧問の新子も先走り、
「いや〜助かるよ。いくら勧誘しても誰もやってっくれなくってねえ」
わざわざ教室まで迎えに来た。
逃さないぞ、という気迫が伝わってくる。
「あはは……先ずは見学だけ……」
と言いかける花にかぶせるように、
「さあ、案内するよ。なぁに、そんなに大変な仕事はないさ。神前さん、剣道経験は? 試合の記録の付け方は知ってる?」
もう決定事項で覆せないらしい。
花がちらりと厳を見ると、困ったように薄笑いを浮かべ肩を竦めるのみ。
勿論、部を上げての大歓迎で、重いものは全部持ってもらえるし、匂いも花には耐えられないほどの悪臭ではなかった。
それに仕事という仕事は特にない。
時間を計ったり記録を付けたりという、練習のサポートをすればよいだけだった。
(これなら、いっか)
結局、花は正式に剣道部のマネージャーに就任した。
なので当初の思い付き通り、帰りは二人だけの時間を持てるようになった。
「神前さん、家は? 引っ越してきたってのは本当なの?」
「勿論、捜査のための設定だよ」
前に聞いた実家が神社というのは本当で、だから花の家が仕事の都合で引っ越すなどということはない。
学校では花の親は普通の会社員で、転勤に伴う転入という事になっている。
では今、花がどこに住んでいるのかというと、都内にある陰陽課の所有しているマンションの一室。
厳の家からも近い。
だから帰路は本当に同じ方向なのだ。
ちなみに高校は都立御茶ノ水高校で、名の通り、御茶ノ水駅の西側すぐに位置する。
そこそこ学力は高く、毎年東大合格者も数名出る。
「ねえ、昼に見つけた御札みたいの。西村さんが気味悪がってたけれど大丈夫なの?」
「分からないけれど、持っているだけで呪われたりはしないはず。もしそうなら私の式神が教えてくれるから」
そういう花の背後にうっすら狼のようなモノが浮いているように厳には見えた。
「……それのこと?」
厳が指差すと、
「あれ? 見えたの? もう、だめじゃない」
花が宙に向かって怒ってる。
どうやら式神が茶目っ気を出して勝手に姿を現したらしい。
(式神って、主に似るのかな?)
と厳は思ったが言わないでおいた。
「とにかく、この呪符は陰陽課で解析してもらうね。呪符のエキスパートもいるから」
「いろんな人がいるんだ」
「うん。近いうちに皆には会えるよ。それと……」
呪符の場所を言い当てた西村さんにも特別な力がありそうだから、美幸さんに報告しておかなきゃ、と言う。
「特別な力?」
「美幸さんみたいに強い霊力を見つける力」
「あ、それで札を見つけられたんだ」
「そうだと思うんだ」
その力を確かめる確実なテスト方法が陰陽課にはあるらしい。
花と別れた厳は帰宅するとシャワーを浴び、夕食の支度に取り掛かった。
テレビではニュースが報じられていたが、
(あれ? こんなニュース昨日もなかったっけ?)
北の丸公園、千鳥ヶ淵緑道の銅像前で血塗れの変死体が発見されたというものだった。
(なんか、嫌なニュースが多いな)
結が帰ってきてからの食事の時間は、ニュースではなく何も考えずに見られるバラエティー番組にチャンネルを合わせておこうと決めた厳だった。