13
「西村さんも、一緒に探してみない? 何でもいいから違和感のあるところを教えてよ」
厳のファインプレーでなんとか誤魔化せたので、咲が霊力探知者かを確かめるため、そう持ちかける花だが、
「違和感? でも、どうしてこんなところにパワースポットがあると思うの?」
(に、西村さん、鋭い)
またもや花は返事に窮するが、今度も、
「ここに龍脈が通ってるらしいんだ。ネットの情報だから本当かは分かんないけどね」
厳のもっともらしいでまかせ。
(厳くん……何で? 何でそんなにポンポンとウソつけるの?)
人間不信になるわ〜、と引き気味の花だが、
「龍脈って?」
「大地を通る強い気の流れだって。その上にパワースポットがあることが多いんだよ」
「へえ〜、そうなんだぁ。田村君、色々知ってるんだねぇ」
自然と仲間入り出来た咲が厳と話せるのを嬉しそうにしているのでよしとする。
「木刀で探すの?」
「うん。でも僕、霊感とか強くないから分かんないんだ。西村さん、一緒に探してくれる?」
「一緒に?」
「うん」
厳が渡す木刀を受け取る咲。
こう握るんだよ、と厳が咲の手の位置を修正する。
期せずして厳に手を触れられた咲は平静を装おうとするが顔は真っ赤だ。
そんなことには気付かず、
「こうやって探すと分かるらしいんだけど……ホントかなぁ?」
厳は咲の手を上から握り木刀を金属探知機のように動かす。
咲はパワースポット探しどころではない。
『案外、自分を変えよう、って決めた瞬間から世界は動くものよ』
この山里の言葉はこれだったのか! と気付くが、
(や、山里先生〜、こんなに急に変わられたら、私、どうしたらいいか、分かんない〜!)
あまりの厳との距離の変化に目眩がしている。
花は花で、
(い、厳くん、西村さんの気持ちに気付いてないでやってるなら罪深すぎるし、気付いててやってるならあざとすぎるよ……)
ドン引きしている。
そんな女子二人の心中など知らぬ厳は、
「どお? 何か感じる? こんな感じで続けてみて」
アレの出現理由を探すという当初の目的を果たそうと、咲から手を離し自分でも腰を屈めて辺りを見て回る。
咲は手を離されたことにがっかりする反面、これ以上握られ続けたら倒れるところだったとホッとした。
そして、厳の頼みだからと"パワースポット"を探す。
自分だけ何もしていないと気付いた花も慌てて探し始めた。
ややあって、
「? あれ? ねえ、ここ……何か変じゃない?」
咲が二人を呼ぶ。
「ここ?」
厳にも花にも何も感じられなかったが、
「あれ?」
厳は咲の示した場所の砂利から大きめの小石を持ち上げた。
「おかしいな」
首を傾げ、少し離れたところの小石も拾って見比べる。
「やっぱり」
小石を二人に見せ、
「ここってさ、ほとんど人が通らないじゃん? だからこんなふうに」
後で拾った方を示し、
「地面側が湿ってて土だとか付いてるでしょ? でも……」
咲が違和感を覚えた場所の小石は、
「下の面の湿り具合が、これよりはっきりしていないじゃん?」
「本当だ」
「きっと最近動かしたからだよ」
厳の推論に、
「「なるほど〜」」
花と咲が声を合わせる。
ちょっと待ってて、と咲から木刀を受け取った厳は部室へ走っていった。
「ねえ、西村さん」
二人きりになったのがいい機会だ、と花は咲に、
「西村さん、厳くんのこと好きなんでしょ? 告らないの?」
「え!? な、何で……」
転入してきたばかりの神前さんが知ってるの? と動転する咲。
「見てれば分かるよ。あたしから厳くんに言ってあげようか?」
「そ、それだけはやめて!」
涙目で花の腕を掴み懇願する咲。
(やっぱ西村さんって"言われたくない派"だった)
余計なことをしなくてよかった、とホッとする花に、
「……神前さん、田村くんと付き合ってたりするの? あ、だったら、言ってあげようか、なんて言わないか……」
「え?」
唐突に尋ねられ何のことかと一瞬分からなかったが、そうだった、パワースポット仲間で前からの知り合いということになってるんだった、と自分の作った設定を思い出し、
「や、やだな〜。ネット上での知り合いってだけだよ。会ったのだって最近になって数回だし」
「……そうなんだ……」
明らかにホッとした咲だが、
「でも……でも、会ってみて、神前さん、田村くんのこと好きになったんじゃない?」
「え? えっと……何で?」
ここで厳が木刀ではなく木の端材を持って帰ってきた。
なのでこの話はこれで終わりになったのだった。