12
(このまま教室に戻って……いいの?)
咲は自問した。
山里先生の話を聞き、逃げないと決めたではないか。
格技場へ向かった二人が気になる。
追ったところで何もできない。
だが、追わずにいられなかった。
格技場と体育館へ続く出口まで来ると、ちょうど格技場から出てきた二人が見えたので隠れる。
二人は慌てた様子で建物の間に入っていった。
なぜそんなところへ? と訝しむが、厳が木刀を握っているのがさらに咲を不思議がらせる。
ゆっくり近づく。
格技場の陰から抜け道へと耳を欹てても、距離があって何も聞こえない。
もう道を抜けてしまったのかもしれない。
どうしよう? 覗いてみようか? でも、まだ二人が裏道にいるなら顔を出したら追いかけてきたってバレる……
そう逡巡していると、
「誰?」
向こうから声がかかった。
(!)
見つかっちゃった!
どうしよう?
逃げる?
いや、逃げないって決めたんだった。
一歩下がった咲は踏みとどまり、思い切って陰から出てみた。
「あれ? 西村さん……どうしたの?」
二人の視線を受け、
「あ……あの……わ、私……」
姿を晒したもののどうしてよいかわからず、しどろもどろになる咲。
真っ白になった頭の奥で、
『少ない勇気を振り絞って行動したら失敗、なんてことがほとんど』
山里の言葉が響いた。
何故ここに咲がいるのかと素で不思議がる厳とは違い、
(厳くんが私と二人なのが心配すぎて見にきちゃったのね。西村さん、意外と行動力があるじゃない)
花はニマリとするが、一方でどう誤魔化したものか、とも思案する。
(……そうだ)
霊力探知能力者だから咲が厳に惹かれている、という自分の推測が正しいのか試すことにした。
「西村さん。あたしと厳くんはね、前からの知り合いなの」
厳に目配せして話を合わせないさい、と圧をかける花。
何かを感じ取った厳はとりあえず黙るが、
(もう少し、そうそう、って顔してよ!)
咲からは分からないように厳を睨んだ花は話を続ける。
「所謂パワースポットの情報をネットで交換する仲間でね、私は厳くんがこの高校だって知ってたけど、転入のことは厳くんには言ってなかったの」
「あ、だから……」
神前さんが教室に入ってきたとき、田村君、あんなに驚いていたんだ……と、腑に落ちる咲。
厳くんのことよく見ているのね、と喉まで出かかったがそれを花はぐっと呑み込んだ。
ちらりと厳を見ると、何のこと? という顔をしている。
本当に鈍感ね、そこはあんたが気付いてあげなきゃじゃない、とイライラする花。
よっぽど言ってしまおうかとも思ったが、まだ咲のキャラをつかめていない。
そういうことを先に人に言われるのをひどく嫌がる子もいる。
咲がそのタイプで、花から厳に言って泣かれたりしても困るので、ここは一旦スルー。
「とにかく、そういった知り合いで、この学校にもそんな場所がないかって、探しているのよ」
「……パワースポット……探してるの?」
厳にそんな物を探す趣味があるとは知らなかったし、花にもそんな物に興味があるというのは信じられない。
「でも……」
咲は、なんだか放心したように突っ立っている厳の左手を見ながら、
「パワースポットを探すのに、何で木刀?」
そりゃそうだ。
こんな物いらない。
しまった、これは困った、と花は頭を超高速回転させるがよい誤魔化し方が出てこない。
が、
「えっとね、白木って強い霊力が宿る神聖なものなんだ。刀の形も霊力が強くてね、だから、白木の木刀は霊力が特に強くて、これでこうやって地面を探して歩くとパワースポットに反応するって言われているんだよ」
なんと厳が口からでまかせにもっともらしい説明をし、
「へえ〜そうなんだ」
咲はすっかり信じ込んでいる
厳にこんな才能があるとは思わなかった花は,
(い、厳くん! ナイス! あんた、詐欺師に成れるよ!)
心の中で、本人が知ったら喜ばないであろう褒め方をするのだった。