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紡ぐ  作者: うえ野そら
再会の日に
4/7

時間は進む、理不尽に

進む時計を見て安心する

ありふれた日常を確認して

異変の原因を探す


そして


 銀行への入金はかほりのメモがあって、特に問題もなく、古本屋には予想通りというか、タイムループについて書かれた専門書などはなく、そもそも、科学的ではない事を学術的に取り扱っているかすら疑問に思える。

 かといって、いわゆるそういう物語に解決策があるとも思えない。

 そりゃあ藁ぐらいにはなるかもしれないけれど、それならばインターネットで検索する方が早いと思う。世の中にはSNSとかを駆使して、同じような状況を経験したひとを探せたりするのかもしれないけれど、僕にはそんな知識も、経験もない。

 結局、途方に暮れながら、とぼとぼと、暑い日差しの中を家に戻ってきた。

 通帳をテーブルに置いて冷蔵庫からグレープフルーツジュースを取り出し、コップに注ぐ。

昨日は、と思い出しかけて、無理だな、と改めて思う。26日にはも、このジュースは飲んだ。でも残量なんて気にしていない。

 ぐいっと一気に飲んだそれはいつもと同じ様に苦味を口いっぱいに広げて喉の奥吸い込まれていった。

 視界に鏡が入る。見ると、そこには疲れた顔が写っていた。試しに大怪我でもしてみるかなと思う。時間が不連続なら、ある時間が来たら、いきなり傷跡が消えるのかな。

 明日が、24日だとする。どうせ今覚えている24日の記憶は明日にはない。明日起きたら大怪我のままだとして、それより先の23日に怪我をした事実や事象が作り上げられるのだろうか。

 僕の記憶には、というより今も、僕の体には新しい傷はないし、ここ最近に怪我の記憶もない。

 じっと腕を見つめてみる。小さな傷では証明できないのだ。

 腕を折る。どうやって?階段から落ちる。受け身をとってしまいそうだ、取らなければと思うが、勇気がでない。

 どちらにしても、その後でかほりに、えらい心配させてしまう。ただでさえ、休職中なのだ。

 物で試すのはどうだろうか。車をぶつけてみるか。いや保険が面倒くさいし、かほりは車の傷は直したがるからお金がかかる。

 ましてやその後何を言われるやら。


 しばらく考えても良い案というより踏ん切りがつかず、時間の連続性について考えてみる。

 このあたりだと、物理学などで証明がされていそうな気がする。

 いまの僕の状況では、夜になるとリセットされて、あったものがなくなっていた。

 リセット、今日25日の夜が、明日の朝、24日の朝とつながる。その時、時間はねじれてつながるというのか。

 

 部屋着に着替えて横になる。かほりは昔から家に入るとすぐに部屋着に着替えていたが、僕は面倒くさくてそのままで過ごす事が、多かった。ただ夏の仕事から帰宅事すぐにお風呂に入る事が

増えて、僕も部屋着に着替える事が増えた。

 そうすると、部屋着の良さがわかるようになった。リラックス感がすごい。

 ゆるゆるのTシャツにゴムの緩んだステテコ。裸で寝るのは体にストレスがかからなくて健康に良いらしい。同じくらいに、ストレスのかかりにくい部屋着だと思う。

 

 結局、深刻な事態にも関わらず、横になるとあっという間に眠気に包まれた。吸い込まれるような眠気の中、『子どもは、どうしようもなく精神的に参った時は、実は起きていられないもんなんです』という、何かの切り抜きを思い出した。

 本当にどうしようもない時は人は笑うしかなくなる。という経験は過去にあった。

 あの時と同じ様に、本当にそうなるんだな、と思いながら、急激に眠りに堕ちた。

 

 音は聞こえない。聞こえないけれど言葉は伝わってくる。色は区別がつかない。白黒のようには思えないのに。

 これは夢を見ているのか。どこだろう。戦争フィルムを見ているの。白黒映画がカタカタと映写機から映し出されている。

 ドイツの話っぽい。戦勝国になっている。パリが占領されて、でもその後にノルマンディーか。

 いや、ノルマンディーでは無さそうだ。アフリカ大陸方面から侵攻、奪還。そんな映画見たことないけどな。 

 あれ、この原爆のキノコ雲の形は見た事がない。映像がゆっくりズームされてゆき、街の様子が見え始めてくる。

 これはどこだろう。十字の旗が吹き飛んでいる。マンハッタン計画の実験場だろうか。それにしては周りには軍需工場らしきものも見えるし丘陵地帯だ。実験場は砂漠地帯だったはず。

 こんな映画も、映像も観た事がない。ドイツが核を作るのを恐れていた映画は見た。確か、『オッペンハイマー』だ。でもあれはドイツの降伏を受けて、アメリカが開発競争に勝ったはず。

 ドイツの国旗がはためいている。こういう映像ではいつも、鉤十字なのにマルチーズクロスに見える。

 ヒトラーの映像が出てこない。


 ガバっと体を起こす。まだ気温が高い秋だとしても、汗でビッショリだ。

慌てて、スマートフォンを開く。17時29分。

日付は25日水曜日。

 思わず苦笑してスマートフォンを閉じる。

 夢だった。

 夢ではなかったのか。

 汗に濡れた服のまま、起き上がって周りを見る。机の上の散らかり具合も変わらず、恐らく世界も明日に向かったままなんだろう。

 かほりはまだ仕事の途中なのか家にはおらず、

耳鳴りがするほど静かな夕暮れ時だ。


 夢の中で、夢をみた事は何度もある。別の夢を行ったり行ったり。そう一方通行で戻った事はない。

 戻って来たという事は、今この世界が正しいのかな。

 寝て起きたら、元の世界。

 そもそも、本当に勘違いでリアルな明日の日付の夢を見たというのが正解な気もする。

 そうであってほしい、と言うか『それが普通だろ』声に出して言ってみた。

 それにしても、変な夢。というかいわゆるパラレルワールドなのかな。

 

 6時前でかほりは、晩ごはんの買い出しして帰ってくるんだろう。昨日は、かほりが買物行ってたかな?どうせ思い出せないからいいか。

 起き上がって、お米を洗って炊飯器にセットする。ピッと音がなった事を確認してから、重たい炊飯器の為に傾いた炊飯台に対して、炊飯器が地面と平行になる様に調整する。

 玉ねぎを薄く切って、片手鍋に入れて出汁の素と一緒に茹でておく。

 お湯が沸くまでの間、椅子に座って新しいコピー用紙に、さっきみた夢の話をまとめていく。珍しく、よく覚えている夢だと思う。

 最近は、こういう風に文字に起こせるくらい、記憶に残っている夢を見る事が増えた。

 夢なんて、起きてすぐに思い出そうとしても手から零れ落ちる砂の様なものだったのに。

 

 『ヒトラーのいない、鉤十字のない、第二次大戦のドイツ。』括弧付きで書き出せば、小説のプロットくらいにはなりそうだ。

 ヒトラーがいない可能性を考える。

 例えば、今の僕みたいに時間を逆行する人がいたとしたら(そもそも僕が仮に時間を逆行していたとしたら、僕だけが逆行するという事は、あり得ない。0と1の問題だ。0から1への移動は凄まじいエネルギーだ。1に振れたら1だけに留まることは考えにくい。他にも同じ様な人がいると考えた方が自然だ)、恐らく誰かは人助けをしようと思うに違いない。

 それは例えば身近な人という場合もあるだろうし、この夢の様に世界を救おうと考えたかもしれない。

 だとしたら、その結果、ヒトラーではない政治家が、ドイツを新しい未来に運ぶ。でも、ヒトラー自体は当時のドイツ国民の多くに望まれ、正しい政治体制の中から、その地位に就いた。

 だから、ヒトラーがその地位に就かなかったとしても、ドイツはファシスト的な道を進まざるを得なかったのかも知れない。

 結果、帝国主義に走りパリを占拠していく。ロンドン空爆をとばして、原爆の映像になるのは何故だろう。あれはどこに落とされた原爆だろうか。

 タイムパラドクスというものがあるけれど、ドラえもんが言っていたように、今が途中の未来を通り越して未来と直接繋がったとしたら、繋がるまでの間の未来は未知数でどんな変化も起こり得る。そして繋がった先には確定した過去を持った未来を生きている人たちがいる。

 今から先で唯一確定していることは、例えば『せわし君はいる』というだけなので、『せわし君は生まれない』という未来はない。

 だとしたら、そのヒトラーを世に出させまいとした人が助けたかったのは、誰なのか。

 ヒトラーが虐殺した人達はどうなる。結局ある確定した時期に、生まれるべく人が生まれるように精算されてしまうのではないか。

 あれが、ドイツに落ちた原爆、もしくはドイツで開発された原爆の実験失敗と考えられるのかもしれない。

 それは結果として助けたと思った人たちを、その人たちの将来において誰かを犠牲にする可能性を、本来生まれる人が生まれるように、存在しない人が存在しないように、ある時期までに精算する為のイベントだと考えられないか。

 未来は変えられる。でも、ある人にとって確定した過去は変わらない。

 時間は前にしか進まない。未来から過去に戻れるとしても、その人に流れる時間は必ず前にすすむ。

 だから変えたと思った過去は、その世界において未来に進むが、変えた人の過去とは繋がらない。

 新しいパラレルワールドに進む。

 ひょっとして、夢だと思っていた、あの原爆の映像がある世界は、誰かが創り出したパラレルワールドなのかも知れない。

 この時間になっても、まったく記憶が薄れない。それは、僕がその世界を体験して来たということに他ならない、という可能性がある。

 なぜ、僕がいろいろなパラレルワールドを辿れるのか、それはまだ上手く理解できていないが、それは間違いない、と頭の奥から声がする。



 そう考えていると薄ら寒くなって来た。

 この状況を説明できる話をひとつ知っていた。

間違いなく時間は進んでいる。それは過去に向かって。

 きっと怪我をしなくて傷ができ、落ちた花は花びらを戻し満開から蕾に戻る

 そういう世界を日本人なら知っている。

 そう、日本人なら子供の頃からそういう世界で生を生きているのだから


 お湯が沸き始めた。

 でも僕は動けない。頭を抱えたまま、机に突っ伏す。

 お湯が吹き出す。


 僕は死んだのか。

 僕は死んでいたのか。




 

 

 

 



日本人には古くから

誰に教えられるでもなく

どこにでも神様がいることを知っている


それと同じ様に

あの世についても

知っていたりする


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