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紡ぐ  作者: うえ野そら
再会の日に
3/7

プレゼントはない(改稿済)

日常はその日常性ゆえに非日常を凌駕する

そうだとしても。

 朝8時過ぎのファミリーレストランは、近所のおばちゃん達の集まりや、ファミリーレストランに常連がいるのか、と驚くほどに、入ってくるなり『いつものですね〜。入力だけお願いしま〜す』と店員さんが、声をかけるようなおじいちゃんで、結構な席が埋まっていた。

 こんな事がなければ、日常的に使っている道路沿いにある、通り過ぎるだけだったファミリーレストランに寄ることも、ここで、モーニングを食べることもなかったのだろう、不思議なものだ。

 いや、今はそんな縁などを気にしている場合ではなかったのだ。

 早速、テーブルの奥にあるタブレットタイプのメニューを手元に寄せて画面に日付を探す。

 予想はしていたが、やはり9月25日水曜日とメニュー画面の端に小さく出ていた。

 いらっしゃいませ、メニューをお選びください、という文字を見ながら、まとまらない頭のまま、モーニングセットを注文した。

 自分がいま、どういう状況なのか、よくわからない。それでもようやく、一呼吸ついて考える事が出来るかと思うと、ほっとする。

 考えれば、おかしな状況だとわかりながら、ほとんど考える暇もなく、流されて行動していたのだ。日常というものは本当にとんでもない。

 

 それにしても、今の状況がどうなっているのか、さっぱり理解できない。混乱することが出来ないくらい混乱していて、何も考えられないから落ち着いているように感じるが、要はただの思考停止で脱力しているだけなのだと思う。

 今の状況が、アニメや漫画で見るような、本当に同じ日を繰り返しているという、タイムリープというものならば、解決策もアニメみたいな感じになるのだろうか。

 どうやって、それをくぐり抜けていたのだったか、一つは青春症候群と言っていた気がする。

 ある特定の日より先に進みたくない誰かが、その世界の流れを変えていて、その誰かの悩みを解決した事で、元の世界に戻ったはず。

 もう一つの話は、よく考えてみれば、僕はエンディングを知らない。

 どちらにしてもタイムリープとやらは同じ日を何度も繰り返すという。

 そもそも同じ日を繰り返すと言うならタイムループが正しい言い方にはならないのだろうか。

 学術用語ではなくて造語なのかもしれないし、ただの記憶違いかもしれない。

 どちらにしても、当然の様に参考にならない知識だった気もする。

 そうだ、タイムリープの話の中には、3日くらい進んでから、ある特定の日の朝に戻ってしまう展開もあった。それならば、明日は2度目の26日になったとしても、また25日に戻ってしまったりするのかもしれない。

 これがずっと繰り返されたのなら、僕はどうしていけばいい。

 現実はアニメや漫画みたいに勝手にハッピーエンドにはならないし、その引き金みたいな何かなど検討もつかない。

 目をテーブルに落として、今朝書き出したメモを見直してみる。昨日は26日。今日は25日。明日は26日で、2度目の26日。明日の記憶はある。

 という事は、取り敢えず、未来がわかる人間になっているという事か。

 『お待たせしました』と店員がモーニングセットを持ってきてくれた。飲み物はドリンクバーで飲み放題、日替わりスープも飲み放題。

 そう考えれば、この店のお客様の入り具合も理解できる。

 ドリンクバーにはフレッシュジュースもあって野菜ジュースと、その後に日替わりスープを入れる。

 その場で野菜ジュースで喉を潤してみれば、随分と喉が渇いていたらしい。そりゃあそうかとも思うが、甘みがうれしくて一気にその場で飲み干した。結局、おかわりを入れて席に戻る。

 スープは熱くて、体が温まった。

 食欲は、いつも通りあって、きっと僕以外に世界は普通に回っているのだろう。メニューを押せば注文は届いたし、僕の姿が見えていないわけでもない、食べた物は満足感を持ってお腹に収まっている。

 何もかもが、僕の記憶、もしくは感覚以外は正しく未来に向かって進んでいるとしか思えない。周りの様子をみている限る、明日をわかるはずの僕の存在が異質とはみなされていないらしい。

 ひとまず、明日の事を思い出してみる。

 皐月のプレゼントが昼過ぎに届く。

 ほかには、何かあったかな、と少し考えて気づいた。しまった。昨日だけではなく、新聞を取らなくなって以来、世間の情報はネットくらいなもので、かなり時事とは関係ない。テレビも見ていないので、これというはっきり確認の可能な変化の記憶がない。昨日は野球の結果もどうやったんやろ。調べなかったわ。

 他に記憶はといえば、あまりにも日常的に過ぎてしまう。それではかほりにだって、そうかで済まされてしまいそうだ。

 明日の記憶さえ、はっきりと証明しようがない今、僕は自分さえも見失ってしまいそうの気分になった。

 メモを見直しても、新しくかきこむ事すら、思い浮かばない。

 仮にいま、僕以外の世の中全てが正しいとするならば、単純に僕は夢を見ているとしか思えなくなってくる。それはもう、ただの現実逃避に他ならないが。

 それでも、夢であってくれるなら、えらく長い夢、もしくはリアルな夢、なんて僕は思わない。

 藤子不二雄という漫画家に、その理屈は前もって教えてもらっているから。

 タイムパトロールをする漫画の中で『夢というのは便利に出来ている。何週間もの出来事を一瞬で理解させる事が出来る』という内容。子ども心にも、きっと、夢というのはそういう作用があるるんだろうと思った。どれだけ長い時間が、この世界で進んでも、起きたら一夜というわけだ。

 本当にそうあってほしい。これが夢だとわかったら、ただ楽しめたらいいのだから。

 そうではないとしたら、明日から戻ってきたという事すべてが、記憶の錯誤という事になる。これは年相応に可能性はあるにしても、部分的な記憶錯誤と違って、ここまで理路整然とした錯誤に関して、一気に症状が進む事はないと思うし、聞いた事がない。それに、はっきりと昨日が26日で、今日が25日という事は、理解せざるを得ないと認識出来ている。

 

 しばらく考えにふける。

 窓からは、小学生や中学生が登校している様子が見える。近くの学校まで集団になって、ひとつの方向を目指す様は、決められた流れの正しさを見せさせられているようだ。

 この通学時間帯に同じ制服の生徒が逆向きに歩く事は、基本的にない。熱とか、忘れ物とか、それでも最終的には学校という、社会へのベクトルに向かう。取り込まれるという方が正しいのかもしれないけれど。

 そうだとすれば、ベクトルが違った子ども達は

どこへ向かうのだろうか。

 少し今の状況と似ているな、とも思うが、強制性の違いでは根本的に異なるのか。中にはほぼ強制性のある子もいるだろうが、多くは選択して決める事が出来るのだ。 

 野菜ジュースのおかわりを取りにドリンクバーへ向かう。客層は高齢の常連モーニングから、仕事直前の営業マンだろうか、スーツ姿の社会人に変わっていた。

 店内に時計を探したが見つからず、メニュー用のタブレットで再度確認する。スマートフォンの画面は、どうしても、明日の日付に戻っていることを期待してしまう。どうせ25日と表示されるとわかっていてもあまり見たくなかった。

 間違いなく時間が前に進んでいる事は確かめる事が出来た。今日、一番最初に見た時刻は5時29分。かほりの誕生日と同じ数字。

 少なくとも、今より前であって、時間は逆行はしていない。

 そうだ。今いる世界が本当に昨日だというのなら、確かめる方法はあるのだ。

 僕にとって昨日あった出来事は今日はまだ起こっていない出来事なのだった。

 一瞬これだ、と思ってすぐに、今朝のかほりのシャワーの件を思い出した。

 今朝も25日、一昨日に当たる今朝、かほりの頭えお洗ってあげたかどうかさえ、その記憶がまったくなかったのだ。

 結局、わかる記憶は26日、24日以前はわりとしっかり覚えている。

逆にないのは今日25日の記憶だけ、という事になる。


 ブルルと、スマートフォンが震えた。日付が見えないよう画面を見るとかほりからショートメールだった、。

 銀行への入金が終わったかの確認を促されていた。

 なんの入金かの記憶がない。『なんの入金やっけ』と返信してみると、しばらくして『昨日伝えた漢検の振込』とあった。どうにも思いだせないが、家に帰れば、テーブルの上にでも置いてあるのだろう。

 一度帰ってゆっくり考えよう。

 精算は全て電子決済になっていた。いつの間にやらと思う。本当にいつでも変化というのは気づけばあっという間に終わっている。

 

 駐車場で車に乗り込む。もう歩道に生徒も児童も見えない。今は1時間目の途中だったか。

駐車場からつながる道路にも、もう車は少ない。スムーズに5分ほどで家に着く。

 家の中は静かで、朝皐月を送り出した後の、かほりが脱ぎっぱなしにしていった部屋着が布団の上に丸まっている。

 うちの家は、散らかし隊に4人全員が所属していて、そのうちひとりだけが片付隊を兼任していり。まあ散らかし隊員のひとり、弥生はじいちゃん家に下宿中だから、割合は3対1になったけれど、散らかる頻度のほうが高い。

 とりあえず、と、散らかし隊員兼唯一の片付け人である僕は、かほりの脱いだ服と弥生の抜け殻を追いかけては拾って洗濯かごに入れていった。

 流しには昨日の食器が待機していたので、洗濯機を廻した後、洗い物をする。

 日常は恐ろしいほど日常でしかない。非日常的な出来事を相手できるのは、その隙間時間にしかできはしないのだ。

 チラチラと洗い物をしながらテーブルを見ると、メモ付きで通帳とお金が置いていることがわかった。

 水を切って、通帳とお金を持とうとして、今日が水曜日だったと思い直す。

 普通ごみ。実際、一昨日捨てていたはずの(昨日はなかったのだから)ゴミ袋はあり、そのあたりの捨てられるものを拾い集めて外に出す。

 これは確かに、過去に自分が存在しているという証左ではある。

 もう諦めているが昨日26日の夜に置いてあった皐月のプレゼントはない。隠したわけではないだろう。まだ届いていないのだ。本来なら明日26日の昼に届く。

 

 ため息しかでないな、と『は〜っ』と大きくため息をついた後、通帳とお金を持って銀行に出かける。一昨日にもこうやって銀行に出かけたに違いない。

 銀行についてATMで預け入れしながら、ここで銀行泥棒したらどうなるのだろうか、と考えてみた。

 いや、とその時初めて気づいた。というか、どうしてその事に気づかなかったのだろうか。

 明日、正確に言えば26日に、僕はどこにいるのだろうか。世界が、僕に合わせて、僕だけに合わせて逆向きに進んでいるなら、僕はいなくても問題ない。どころか世界には前に進む未来はもうない。

過去に進む未来しか残されていないことになる。

 それとも僕の抜け殻、どっちをして抜け殻かはわからないけれど、が生きていくのだろうか。

 とりあえず、今日夜を過ぎないとわからない。

 起きたら、ただの夢だったというのが正解ではないか、そうあってほしいと切に思い始める。

 そもそも同じ夢の続きを見た事は、見たような気になった事も含めて人生においても、それほどはない。これが夢なら一度きりだ。

 だから目が覚めたら弥生の誕生日なんだろう。

 時計を見たら10時をまわっていた。本屋さんにそれなりの話でも探しに行こう。古本屋しかないから心許ないが。


 どちらにしても、今の段階では、なかなか夢だろう、と思わせる急な場面展開もない。では、夢ではないとして、例えば昨日の事、いや明日の記憶は残っている。宝くじは難しいものの、競馬とかなら、この先結果を覚えていくということは可能だろう。

 それにしても、と改めて藤子不二雄の偉大さを思い出した。ドラえもんが始めてのび太くんの前に現れて、未来を変えようと言われたとき、すぐにのび太は『そんな事をしたらせわしくんが生まれなくなってしまう』と言ったのだ。のび太くんって理解早いやん!て、いま考えると思うのだが、そういう話はともかく、ドラえもん達は、未来は必ず成立する、と大阪東京間の移動を例にとって、行くための方法(船、飛行機、電車)が違うだけで、目的地にはたどり着く。だから必ず僕は生まれると説明するのだ。

 まあ、戻ったせわし君の元の世界には変化はないと思われる。なぜなら、せわし君はすでに、存在するという事実がある未来から、現に存在した過去である、のび太君の時代に過去を遡って会いに来ているわけで、もとのせわし君の世界にはジャイ子母さんがすでに存在してしまっている。

 だからおそらく、のび太君にあった瞬間にパラレルワールドが発生するんだろう。そこから始まる分離した世界には、しずか婆ちゃんとの孫としてせわし君は生まれてくるんだろうと思う。違うのだろうか。

 世界はともかく時間の不可逆性と連続性は不変だと思う。

 そんな事を悶々と考えながら、何かが引っかかった気がして思い返す。

 あれ、時間の連続性を無視してないか、いまの僕の状況は。

 銀行を出て、古本屋に向かう道中だった。まだ陽射しは厳しく夏のような暑さの中なのに急に冷や汗が出てくる。

 歩いていると、車での移動と違って、通り過ぎる車の台数が増えたように感じられる。さっき家に車で戻った時とは違い、次々と何台もの車が僕の横を通り過ぎていった。ギラギラと窓の反射が眩しく、目をしかめながら歩く

 銀行強盗どころの話ではないのかもしれない。

 


 

 




時間は不可逆でいて連続する

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