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第29話 魔法祭前夜

「ねぇ、ジュディ。ザハードさんとリサさんがやっていた交信魔法って、私たちにもできる?」


 奈央が唐突に聞いた。ザハードの家を訪ねた帰り、二人は奈央の下宿に来ていた。

「え?ああ。方法は簡単だよ」

 ジュディドは奈央が胸につけている、ジュディドの髪で作ったブローチを指さして言った。


「まず、お互いのものを身につける。髪でもいいし、持ち物でもいい。その人を思い出せるものなら何でも」

「うん」

「それから交信の日時を細かく決めておく。これが大事だ」

「それから?」

「最後に、交信の時、同じタイミングでお互いのことを想い合うんだ。そうすれば繋がることができる」

「タイミングが大事なの?」

「そうだ。同じ日時に同じタイミングで想い合うんだ。一瞬でもズレたら失敗する」

「そう、私たちにもできそうね。ジュディは私の髪で作ったタイピンを持っているし」

「そうだな。今度から連絡を取り合う時は使ってみようか」

「じゃあ、何時にする?」

 そうして奈央とジュディドは、月が天頂に昇る時、連絡を取り合う約束をした。



 翌日、奈央は魔力溜まりの泉に一人で赴いた。「陸のものは空に」を試すためだ。

 奈央はまず初めに岸のそばで飛んでみた。ぴょんと跳ねて一瞬だけ宙に浮く。だが何も起こらない。何度も跳ねたがダメだった。

 次に奈央は木によじ登り、泉に向かって飛び込んでみようと試みた。それも失敗した。木から飛び跳ねた瞬間、駆けつけたジュディドに魔法で止められ助けられたのだ。

「危ないだろう!奈央!生身の人間が飛び込めば、水面に当たって大怪我をするんだぞ!二度とこんな真似はしないでくれ」


 ジュディドに諭され、奈央は空に浮く方法を試すことを諦めた。 

 奈央は焦っていた。魔法祭まで二週間と間近となった。奈央もジュディドもこの国と奈央の国を双方向に行き来できる方法をまだ見つけられていない。このままでは安心して帰ることができない。

 ジュディドもザハードに連絡を取り、この国とかの国を安全に行き来する方法を聞き出すことを試したが、やはり肝心のところで魔法省の検閲ブザーが邪魔をした。どうあっても秘密にしたいらしい。知りたいなら自分たちで探し当てるしかなさそうだ。


「奈央、すまない。まだ方法が分からないんだ」

「ジュディ。気にしないで。私はここに残るから。帰りたいと思ったら『魔法使いの扉』を閉じればいつでも帰れるでしょう?」

「それはそうだが…ご両親が心配しているだろう?」

「そうだけど、今のまま帰ったら二度とジュディに会えなくなっちゃう。ねえ、それよりジュディ、私ね、あなたに手紙を書いたの。魔法祭の夜、下宿に帰ったらに渡すから楽しみにしていてね」

「ああ、ありがとう」

 奈央は手紙を下宿の机の引き出しにしまっていた。

「その日は特別な夜になりそう」

「どうしてそう思うんだ?」

「ただの予感」

 奈央は座っているジュディドの肩に横から両腕を回し、頭を置いて寄り添った。それから目をつむって言った。


「ジュディ、大好き。ジュディに出会えて本当に良かった」


 自分に言い聞かせるように。



 魔法祭を翌日に控えた夜、奈央はジュディドの家に呼ばれた。悠人のお別れパーティーを開くらしい。

 大男の兄はもう奈央のことを怒っていないらしく、快く奈央を迎えてくれた。

「よう、客人。この間カレンから正式に婚約破棄を申し入れてきた。ジュディドは傷心だろうから慰めてやってくれ」

 そんな事を言った。

 実際はジュディドもカレンもこれっぽっちも傷心ではなかったし、お互いに面倒な約束が切れて良かったと思っていたのだが。


「奈央、ジュディドから聞いたわ。しばらくこちらに残るんですってね」

 エミルは申し訳ないような嬉しいような複雑な表情をした。

「はい。この国と元の国、どちらも行き来できる方法が分かるまでは」

「そう。よく決心してくれたわ。ジュディのためにもありがとう」

「いえ、自分で決めたことなので」

「奈央おねえちゃん、ずっとこの国にいて欲しいな!」

 ベルナールは奈央が残ることが嬉しいようで、無邪気に笑った。

「今度一緒に遊びに行こう」

「いいよ、ベルナール。どこがいい?」

「ええっとね」

 小さな弟のような存在のベルナールを奈央は愛しく思った。もし明日帰らなければならないとしたら、この子とお別れするのはあまりにも寂しい。

 奈央がこちらに残ることを聞いた悠人は少し寂しそうだったが、奈央を否定したりはしなかった。


「奈央さん、君はしばらくこちらに残るんだって?」

「はい、……先輩ごめんなさい。一緒に帰るお誘いに乗れなくて」

「いいんだ。自分のしたいようにするのが一番だから。僕は明日、魔法祭を最後に帰るけど、ご両親や友人に何か伝言があれば伝えるよ」

「えっと、そうですね。この手紙を渡していただけますか?」

「うん。確かに預かった」

「この国に来て半年近く経つんですね」

「時間が経つのは早い」

「先輩はこの国で思い残すことはないんですか?」

「うーん、せっかく楽隊に入れたのに退団するのは惜しいなとは思うけれど、本来、僕らは高校生だしね。授業も進んでしまって、勉強も追いつかないと。奈央さんはどう?」

「私はもともと音楽バカで、勉強はからっきしダメですから、今更という気もします」

「そっか」

「はい」

「こちらと僕らの世界を行き来する方法が早く見つかるといいね」

「ありがとうございます」

 奈央と悠人ははお互いを見つめると、どちらからともなく握手をした。

「元気で」

「まだあと一日ありますよ、先輩。それに明日が本番です」

「そうだったな」

 二人は笑い合った。



「奈央」

 ジュディドが二人の会話が終わった頃合いを見計らって奈央に話しかける。

「お別れは済んだか?」

「うん。お別れと言っても、しばらくの間だけど」

「双方向の道、すぐに見つけてやるからな」

「ありがとう」

「おまえは色々なものを犠牲にしてここに留まってくれる。それくらいのことはしてやりたい」

「ジュディがいてくれるだけで充分」

 本当はそうではなかったけれど、奈央は自分に言い聞かせるようにそう言った。

「明日の音楽祭は家族で聴きに行くから」

「うん」

「奈央の勇姿を楽しみにしているよ」

「やだ、恥ずかしい。ね、音楽祭が終わったら、悠人先輩を送り出しに行くでしょう?」

「ああ、皆んなで行くつもりだ。ビルアーニャとセルアーニャも来ると言っていたっけ」

「ビルとセルも」

「うん。皆んな、寂しいんだ。悠人がいなくなるのは」

「私も寂しい」

「そうだよな。悠人はお前の憧れの先輩だもんな」

「そうだったわ。ジュディがいるからそんなことすっかり忘れていた」

「私の奈央は可愛いことを言う」

 ジュディドは奈央の頭頂にキスを落とした。

 それを見ていた家族たちは幸せそうに笑った。悠人だけは少し寂しそうな表情をしたけれども。



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