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第23話 帰還の方法

 奈央の手が扉の景色に触れたその時。


「きゃっ」


 奈央は思わず叫んだ。弾き返されたからだ。

 ジュディドは奈央に駆け寄り、奈央が倒れないように後ろから両肩を掴む。ちょうど扉の真正面に二人が並んだので、ジュディドには奈央の世界の景色が目の前に見えた。


 ところが扉は奈央を拒むように映した景色を崩していく。

「あっ、元の世界の景色が……」

 奈央はフルートを構えて再び演奏した。奈央の世界の景色が姿を取り戻す。

 それと同時に、背後で奈央の肩を掴んていたジュディドの胸から光が放たれ、扉に向かって差し込んだ。


「この光は…?」

 奈央もジュディドも不思議に思った。光は扉を突き抜けて光の道を作った。

「もしかして、この道を通れば向こうの世界へ行けるんじゃ…?」

 奈央は光の道を行くべく景色にもう一度触れようとした。今度は触ることができた。光の道に足を一歩踏み入れる。


「奈央!」


 ところが今度こそジュディドが制止した。

「奈央、不用意に向こうに行こうとしてはダメだ。この扉は一方通行かもしれない」

「一方通行?」

 踏み入れた足を引っ込めて奈央が問う。

 二人が会話している間にも、扉はまた元の扉に姿を戻していく。強く輝いていた光の道も淡い光となって消えかけていく。

「そうだ。帰ったら、こちらの世界には二度と戻れないかもしれない」

「そんな…!」

 奈央は景色を見つめながら向こう側に渡るのを躊躇した。景色はとうとう霧となって消え、光も散り、扉は元の門扉に姿を戻した。


「ああっ、消えちゃった…」

 奈央はもう一度フルートを吹いて挑戦しようとしたが、もう扉は何の変哲もない扉のままだった。

「せっかく開いたと思ったのに」

 奈央は残念そうに呟いた。そんな奈央をジュディドは後ろめたく思ったのか、軽く背中から抱きしめると、

「弾き返されたとはいえ、扉が姿を変え道を作るところまではできたんだ。また同じ条件で試せばいい」

 そう励ました。



 二人は火葬場から帰る道すがら、今日の出来事について話し合った。

「一度目は弾き返されたのに、二度目は光の道ができたということは、二度目の条件では向こうに渡れる可能性があるということだ。二度目は形式的な何かが揃ったんだろう」

「形式的な何か?」

「ああ、音楽を演奏すること以外にも、扉を開ける形式的な儀式があるのだろう。例えばだが、踊るだとか呪文を唱えるだとか。それが何かは分からないが、我々はそれを無意識のうちにやってのけた。だからこそ道が開かれた。三井千尋も何かやっているはずだ、帰ったら原著を調べてみよう」

「うん」


 奈央は歩を緩めて一歩遅れて歩くと、ジュディドが先程言っていた言葉の意味を問うた。

「ところでジュディ、扉が一方通行かもしれないというのはどういうこと?元の世界には帰れるけど、こちらには戻れないということ?」

 ジュディドは歩みを緩め、振り返って奈央の目をじっと見つめてから言った。


「ああ、おそらくだがその通りだ。『魔法使いの扉』は『死者の扉』。通ったら二度と帰れない。この国での『死者』となるために。そう私は推測しているんだ」

 奈央は戸惑いの表情を隠さなかった。

「二度と戻れない……?それはジュディともう会えなくなるってこと?」

 不安そうな瞳でジュディドを見上げる。

「……そうだ。だが心配するな。元の世界にもこちらの世界にも行き来できる方法をみつけてやるよ。必ずな」

 ジュディドは力強く笑ってみせた。



 奈央の下宿に戻ってから、二人は三井千尋の著作を調べ直した。すると、奈央が何か気づいた様子で言った。

「ジュディ、ここ」

「うん?どれ?」

「ジュディが音楽が鍵だって見つけたところの描写。


『扉の景色は次第に薄れていった。友人はそれを止めようと魔法を飛ばす。だが扉は待ってはくれなかった。私は遠のく故郷を惨めな気持ちで眺めた。思わずに故郷の歌が口をついて出た』


 ここ、原著に続きがあるわ。水濡れで読みにくいけれど、何とか読めそう」

「何と書いてある?」


「『……思わずに故郷の歌が口をついて出た。すると扉の景色は時を戻すかの如く、私の故郷の景色を取り戻した。私は喜んだ。その時だった』」


 二人とも息を呑む。


「『向こうの世界に持っていこうと持ち出した伴侶を映した写真立てが光った。その光は扉に向かって差し込み、道を作った。私はその道の上を恐る恐る歩いた。これは元の世界に通じる道だと信じて』」


 ジュディドも翻訳魔法と予測変換魔法を駆使して同じところを丁寧に読む。

「確かに、三井千尋の時にも光の道が現れているな。この場合の鍵は伴侶の写真立てのようだ」

「そうね。でもなぜ伴侶の写真立てが道を切り開いたのかしら。私たちがさっき道を開いた時はそんなもの持っていなかったわ」

 奈央が疑問を口にする。

「伴侶の写真立ては形式に過ぎないのだろう。その本質を見抜かねば、我々はあの道を再現するのは難しい」

「本質……」


 セルアーニャも言っていた。大切なのは本質を真似ることだと。

「三井千尋さんにとって伴侶は大切なものだった。大切なものを扉にかざせばいいということ?」

「それならば今日は何を扉にかざしたというのだ?」

「ジュディとか?私にとって大切なものだもの」

 奈央はニヤッと笑ってみせた。


 ジュディドは一瞬黙ったが、奈央の頬にキスをした。

「嬉しいことを言ってくれるが、おそらく少し違う気がする。三井千尋は写真立てを持って帰るつもりだっただろう?意図的に扉にかざしたとは考えにくい。おそらく三井千尋も光の道を開いたのは偶然だったはずだ」

「そうね」

 奈央は残念そうに相槌を打つ。それから、そういえばと思い出してジュディドに聞いた。

「ねえ、ジュディ、さっき魔法使いの扉を開く時、ジュディの胸から光が放たれたけど、そこに何かあるの?」

「うん?ああ」

 ジュディドは胸の裏ポケットから奈央の髪で作ったタイピンを取り出した。大切な宝物だ。


「これのことか?」


「これは私の髪で作ったタイピンよね?これのせいで光が出てきたのかしら?でもなぜ?」

「そうだなぁ」

 ジュディドはタイピンを弄びながら考えた。

「これはおまえの髪の毛でできているから、おまえ自身と何か関係があるのではないだろうか」

「私の髪…」

 奈央も考え込む。

 二人はしばらくタイピンを見つめて黙った。沈黙を破ったのは奈央だった。


「ねえ、『形見』なんじゃないかしら」

「形見?」

「魔法使いの扉は死者の扉でしょう?死者となるべく『形見』が必要なんじゃないかしら」

 奈央の言葉にジュディドは深く頷いた。

「なるほどな。それでは三井千尋にとっての形見は伴侶の写真だったわけか」

「たぶん」

「奈央、我々だけで考えていても埒が開かない。今度、セルアーニャを訪ねてみないか?」

「セルアーニャ?この間会った、ビルアーニャの弟さんで魔法議会の議員さん?」

「そうだ。セルアーニャは『魔法使いの扉』の研究をしていると言っていただろう?この仮説を話して意見を伺うのは有益だと思う」

「でもセルアーニャの連絡先、知らないわ」

「ビルにあたってみるよ」

 ジュディドはそう請け負った。



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