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第13話 音楽隊への就職

 ジュディの屋敷を追い出されて一週間が過ぎた。幸いなことに新しい下宿先をジュディとエミルさんが見つけてくれた。支払いはローザの治療で貰った謝礼を使った。


「ここは屋敷からも近いし何かと便利で良かった」

 エミルさんが差し入れのパイを切ってお皿に移す。

「ここを見つけてもらえて助かりました。ジュディとも毎日会えるし」

「あらやだ、ノロケね」

 エミルさんがニコニコしている。


「私、嬉しいのよ。あなたとジュディがくっついてくれて。ジュディはああ見えて恋愛には疎い子だから、誰かを好きになることがあるなんて思ってもみなかったの」

 ジュディの姉は相変わらず私に優しい。私は感謝した。

「何から何まで、エミルさん、ありがとうございます」

「ふふ、いいのよ。困った時はお互い様」

そういうとエミルさんは私の頬に軽いキスをした。


「私、働きに出たいと思っているんです」

「ああ、宿代ならうちが出すわよ。そもそも奈央を追い出したのは一番上の兄であって、私達じゃないもの」

「でもそこまで甘えるわけには…」

エミルさんは私を見下ろしてウーンとうなった。

「それなら楽士の仕事を探せばいいと思うけど、困ったことに私にはあてがないのよねぇ」

「楽隊の仕事ならあるぞ」


 ジュディがノックもせずに入ってきた。

「この間の軍事演習では竜の出没で解散となってしまったが、仕事そのものは普段からあるんだ。魔法省の直轄の楽隊だ」

「入れますか?」

「常勤の楽隊員となると選抜試験がある。この間のように一時的に所属するわけではないからな。受けてみるか?」

「はい」

「そうしたら、奈央の身元を証明しなければならないんだが……」

「うち預かりということにしたいけど、一番上の兄が許さないわね」

「そこでだ、ゴホン、私の婚約者ということにすればいい」

 ジュディは少し赤くなって言った。照れているらしい。かく言う私も「婚約者」という響きに赤くなった。

「ではジュディに恥じぬよう、練習に励みたいと思います!」

 照れ隠しに私は宣言した。



 選抜試験は楽勝だった。毎日毎日、吹奏楽部で練習してきたのだ。こちらの世界に来てからも練習は欠かさなかった。

「奈央、おめでとう」

「おめでとう」

エミルさんとベルナールが祝ってくれた。ジュディは仕事が終わり次第、合格祝パーティに合流するという。


「奈央は音楽に秀でていると思っていたけど、ここまでとは思わなかった」

「首席で合格したって本当?」

 私は照れながら頷いた。

「魔法省直轄の楽隊はレベルが高いとの聞こえだけど、そこを一発合格、しかも首席とはねぇ。見直しちゃったわ」

 エミルさんは私に抱きついて髪の毛をワシャワシャした。可愛がっているようだ。

「奈央すごいよ!今度僕にもフルート教えてよ!」

 ベルナールも首に腕を回してじゃれてきた。

「おいおい、姉さんもベルナールも奈央にじゃれつくのはやめなさい」

 ジュディが帰ってきて二人を嗜めた。

「あらぁ、オレの女に手を出すなって言うの?奈央は私達の家族みたいなものよ!いいじゃない」

 エミルさんが抗議する。

「皆んな、ありがとう。皆んなの協力のおかげです」

 私は頭を垂れた。


「お辞儀をするのって、奈央の世界の風習かしら?珍しいわ」

「あ、はい、日本の風習です」

「そう。いつか日本にも行ってみたいわ。奈央の育った世界」

 私もいつか戻りたい。お父さんお母さんに私の好きな人達を紹介したい。

「明日から早速出勤でしょう?そろそろ遅いから私達はお暇するわ」



 翌日、私は魔法省の楽隊専用庁舎へ赴いた。庁舎と言っても半分は楽士を育てる音楽学校で、残りの半分が楽隊用の練習場所だった。

 グループ練習と合奏に参加した後、自由時間が与えられていたが、私は基礎練をすることにした。個人練習の部屋もあったが、今日は日差しが気持ちよかったので、木立が美しい校庭で一人、練習することにした。


 基礎練の楽譜を出して音を出す。林の奥へ吸い込まれるように音が消えていく。しばらくの間、私は悦に入ってメロディを鳴らした。

 すると突然、林の奥からガサゴソと人の気配がした。


「なんだぁ?いい気持ちで寝ていたら。いい気持ちで音楽鳴らすやつがいるとはなぁ」


 黒髪で短髪、魔法使いのマントを羽織った18、9歳くらいの男が茂みから出てきた。


「すみません、今日は天気が良かったのでこちらで練習していたんです」

「んん?その格好、おまいさん、魔法省直属の楽士かい?」

 私は魔法省から支給された楽隊専用の白いローブを着ていた。

「あ、はい」

「そういや最近、楽隊に最年少で合格した秀才がいるって噂になっていたな。確か15、6歳だったか」

 それは私のことだった。

「おまいさん、その秀才かい?」

「秀才かどうかは分かりませんが、最近合格したのは確かです」

「ほお、そうするとジュディんとこのナオちゃんかい?」

「えっ」

 なぜこの人がジュディのことを知っているんだろうか。

「そう警戒しなさんな。俺とジュディとは悪友でね」

「ご友人でしたか」

「そうそう。それにしてもジュディが執心する女の子に会えて感激だな」

「今後ともよろしくお願いします」

「うん。ああそうだ。せっかく会えたんだからお茶でもしないか?」

 これは失礼のないように誘いに乗るべきか、断った方が良いのか迷っていると、


「ガイル!探したぞ」


 後ろからジュディの声が降りかかる。

「おう、ジュディ」

「ジュディ!?今日はここに来るって聞いてなかった」

「ああ、奈央。変な虫に付かれたね。ここには突然寄ることになってね。魔法隊と楽隊の連携を図るために来たんだ」

「そう…」

「おい。ジュディ、親友を変な虫って」

「奈央、仕事が終わったら一緒に帰ろう。連れて行きたいところがあるんだ」

「うん」

「無視かよ虫だけに」

「ガイル、おまえはサボってないで早く持ち場に戻れよ」

「えーっ。硬いこと言うなよ。ったく。じゃあな、ナオちゃん」

 言うが早いかガイルは私の頭に軽くキスを落とした。ジュディがガイルを思い切り睨む。

「挨拶だよ!挨拶!そう睨みなさんなって」

 ジュディはガイルを引っ張ると、仕事に戻って行った。遠くの方でジュディがガイルに蹴りを入れるのが見えたが、見なかったことにしよう。



「遅くなってすまない」

 仕事終わり、約束通り私とジュディは落ち合った。

「連れて行きたいところってどこですか?」

「うん。っと、その前に」

 ジュディは私を道路脇のベンチに座らせると、突然、頭にキスをした。


「!?」


 驚いた私にジュディは言った。


「消毒」

「消毒?」


「ガイルにキスされただろう?だから消毒」

「左様ですか…」

「ついでに」


 今度は頬にチュッと音を立てる。


「な、なんで?!?こんなところで…」

 私が慌てると、澄ました顔でジュディが言う。

「この国ではキスは挨拶だからな」

 今度は唇にチュッと音を立てた。

「ジュディ、面白がっているでしょう!?」

「うん。奈央の驚いた顔が可愛い。たまらないなぁ」

 クツクツと笑う。私は心臓が破けそうだというのに。

「ああ、そうそう。連れて行きたいところがあったんだ。移動魔法で行こう」


 着いた先は、私が溺れていたという泉だった。

「ここは…?」

「魔力溜まりの泉」

「どうしてここに?」

「竜の根城とここは異世界に繋がっているようなんだ。何か向こうの世界へ行ける方法があればいいなと思って」

「行けそう?」

「いや、今は難しい。私は弾かれてしまうし、奈央をこの泉に沈めるわけにもいかないしな」

「そっか」

「だが必ず異世界と繋がる道を見つけて、向こうへ連れて行ってやるからな」

「ジュディ…」

「奈央はご両親が恋しいだろう?」

「うん、ありがとう」


 その時、泉の向こうがザワザワと騒がしくなった。

「おい!人だ!人が泉で溺れているぞ!」

「引き上げてやれ!」


 騒ぎに駆けつけたジュディが少年を引き上げた。

「また異世界からやってきたのか?」

 眉根を寄せて意識が朧げな少年に問うジュディ。

 少年を見て私は驚きを隠せなかった。そして叫んだ。


「先輩…!!?」


 ジュディが怪訝な顔で私を見上げた。

 

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