ロビィと空飛ぶオバケぶね!
「これでジエンドです! コスモクラーッシュ!」
「うげッ。ぐあわわわ~っ!」
チャチャイのニューアドニフ未来都市、上空。大型両手剣のひと振りに思いっきりブッ飛ばされたメガロパ怪人が、空のモクズと爆発して消え散る。
空に浮かぶ、巨大幽霊帆船カンブリドビス=シルール号。
その甲板にて、したっぱのゾエア船員たちが、ざわめき立って、慄いた。
「さあー、次は誰ですか! じゃんじゃん、かかっていらっしゃい!」
両手剣を床板にザスと刺し、自信たっぷりにキラめく女は、薄紫の長い髪を片手で払うと、フフンと笑った。
目にかかるぐらいの前髪に、鎌首をもたげて頬にかかった濃むらさき混じりの横髪ツインズ。
右の耳は尖り、左耳は無く、代わりに宇宙を噴き出してある。
袖無しの海賊シャツは胸元をガバッガバに開き、なだらかな薄い胸のテカりも、丸い肩や細い腕、つやつやな腋も惜しげなく見せびらかしている。
その濃紫に染まったシャツを、ムリヤリ結んだ白いベルトで締めて、左肩には肩見せ出しの宇宙柄ボロ裾マント。
そして風にひるがえる濃紫のミニスカート、そこから伸びた眩しい生足。その先っぽには紫色の、履き口の広いベルト付きアンクルブーツ。
彼女の名前は、ロブリンヂィアシィ(鋏星)。
愛称ロビィ、シルール号の襲撃者だ。
「お、おい! お前、いけよ。戦え!」
「えっ、ヤダよ! 見ただろ。さっきの……メガロパ怪人はオレたちゾエアの10倍強い……殺されちゃうよ!」
「まったく、情けない……きさまら、それでも海の戦士か!」
「あっ、船ちょ──」
怯えるゾエアのサークルに、大柄なトゲトゲ鎧魚人が2人、割って入る。
それに声をかけた船員の頭が、突如として吹き飛ばされた。当たり前だが、ふつう船長は船員の100倍強いし、海の世界は弱者に厳しいのだ。
「ぎにゃ~あ! ドシャリ!」
「カンブリ兄弟、オステウスガリス!」
「おなじく兄弟、オステウスレウシア!」
ガリスと名乗ったムキムキのトゲ男が、大型棍棒をジャキンと構える。対称的にレウシアは、のっぽで痩せぎす、そして鋭く長いトゲを何本も生やしていた。
典型的なパワー型とスピード型だ。
ロビィは相手が動くのを待たずに、両手剣を床に刺したまま、ガリスへと走り出した。
「お前たちが親玉ですか~! 侵略の理由と目的をどうぞ!」
「そうだ! オレたちは──」
ガリスが何やら語り始めたので、彼の前へと来たロビィは第一宇宙速度を発動。
大気圏を突破するほどの速度で肉薄、新しい宇宙ブレードを形成。勿論それを、思いっきりに振り抜いた。
「隙あり! どっせい、コスモクラッシュ!」
「ゲボォ!?」
「あ、兄者ァ!」
体がくの字に折れ曲がり、宙に投げ出されるオステウスガリス。空中で彼は怒りに煮えたぎり、巨大棍棒を振りかざした。
「うるァ~! アノマロガローよ、わがカタキを討てい! ぐっ!」
爆発して死んだガリスの手から、離れた棍棒が真の姿を現していく。
ばらけたトゲはキバや足ビレ、扇形のヒレとなり、爆炎の中から甲冑魚ムシ、巨大アノマロカリスが飛び出し羽ばたく。
ロビィは素早くアノマロガローに背を向けて、両手剣を斜めに構えた。
「ギシャァアアアーッ!」
「崩壊星収縮終焉。おりゃー!」
振り向きざまに振り抜いた大型剣。その剣圧に乗って、小さな黒い禍つ星が撃ち出される。
黒い玉は咆哮するアノマロガローの口に吸い込まれ、爆発的に膨れ上がると、一瞬にして萎んで消えた。
巨大魚ムシも消えた。
船長ブラザーズの一角が、いとも容易く料理された。
「ひぃいいいいっ! に、ニゲローッ!」
完全に戦意を失い、我先にと逃げていくゾエアたち。残されたレウシアは片手をあげると小さく笑い、
「だれが逃げてよいと言ったか、おろか者どもっ!」
「!? ぎえええっ、ぐわ~!」
「船長、お許しを~! あぶがあっ、ぎゃあ!」
散り散りの船員を、すべて木っ端微塵にした。
レウシアは、その場から一歩も動いてないというのにも、関わらずだ。
周辺空域の連続爆炎。火の粉舞うなかをレウシアが歩き、生き残ったゾエアの首を掴みあげる。
「あ、あ。ひぃ──ギャブッ!」
「敵前逃亡は、惨殺刑だ。死罪だよ! キミィ……この世でいちばん、わたしがキライなものは何か分かるか。ええっ?」
「そ、それは……グガッ」
「そう、それは」
さっとレウシアが振り向き、迫る二振りの曲刀の刃へと、掴んだ部下を差し出した。
「ゲハァッ! ……死」
「ヤベッ、バレた!?」
「──いても変わらん、雑魚キャラの存在だよッ。バレるだろうが! 舐めんじゃねぇ~っ!」
吠えるレウシアがトゲの体を伸ばし、部下の亡骸をバラバラに裂いて、シルール号へと巻きつきだす。その長い体は、まるでヤスデだ。
「え……キャアッ!?」
「うお~! もう、こんな船などいるもんか! 今日からはオレが、この城の王だ~!」
船がバキバキと音を立てて、折れ曲がって、畳まれていく。
たまらずロビィは上空へ多元宇宙の自分を投射して、そっちへ意識を移して逃げた。
「……ふうっ。間一髪です」
出来立てのカラダで目を開き、帆船に飲まれながら薄れ消えゆく、前のカラダを見届ける。
自分の姿とはいえ、不気味な景色だ。ロビィの主体は、このカラダや姿ではなく、宇宙であるが。
片側マントをはためかせて宙を滑るロビィに、残骸を縛ったヤスデの化け物が笑いかけた。
「ふははははっ! どうだ、小ザカナ! これが、きさまとわたしの間にある、絶対的な力の差だ~!」
その姿は、先のアノマロガローより遥かに巨きい。ガリス戦でけっこう消耗したロビィは、冷や汗をかきながら無理に余裕の笑みを作って見せる。
「どうですかしらね。そんなに図体ばかり、おっきくしちゃって……的をデカくしただけだと分かりませんか?」
「何だと!?」
「お兄様の最期を忘れちゃいました? わたくしロビィには、敵がどんなにおっきくても一撃絶命の破壊必殺技があるのですよ!?」
腕を組んで精一杯、余裕の表情を作り上げる。実のところ、話題に出した崩壊星。今のロビィには、連続発動など難しい話だった。
かすかに笑う膝には気付かず、城レウシアはワナワナと震える。
「ぬお~っ! ならば、先のやつでも倒せぬほどに、もっともっとデカくなってやるわ!」
「えっ。うそうそ、うそうそ! 待ってやめて、お願い待って」
「うお~っ! 古生代神秘術、カンブリア巨爆発~!」
メリメリメリメリ、ズモモモモ……! ただでさえ見上げるサイズの城が、山と雲へと膨れ上がっていく。
シルール号は実体を持たない幽霊船なので、形やサイズの変更に融通がきくのである。
どんどんと広がる影に覆われ、ロビィは身動きできずに、あわあわと涙目になる。
やがてヤスデの巻きついた城は、入道雲もかくやというほどのビッグに。さらにビッグに。
「あ、あわわわ……」
「ぐ、は、は、は、は……! どうだ、このパワー! 既に街ひとつどころか、大陸をも容易く吹き飛ばすパワーを内包しているぞっ!」
「あ、あの~……靴とか舐めたら、許してくださいませんか?」
「オレは靴など履かん! 決まりだな、死ねい! 哀れな小ザカナ!」
ぐわあ、と音を立てて開かれる木造の月。ビビりあがるほどビッグになって新登場した、城バケモノ。
視界いっぱいに広がるボロの木の海に、さすがのロビィも死を覚悟した。
「え、えへっ。えへへへ──」
ばくん。メキメキ、バキバキ……。
というワケで、このお話の主役は死んでしまいました。それでは皆さん、また次回……
「──ぐうッ!?」
失敬、まだ動きがありました。
口を閉じたレウシアフォートレスが、突如もだえ苦しみだす。その巨体の内部から、次々と連続破壊音。
「宇宙ブレード縫い止め!」
「げうッ! ぐあ~っ!」
城レウシアの内部、木造の壁に再生メガロパ怪人が宇宙ブレードで磔にされる。
マントが脱げて両手が宇宙に染まったロビィ、その背後から別のメガロパ怪人が躍りかかる。
「ゲシャアッ!」
「甘いっ。星惑散弾!」
「ギャアッ! グギャギャギャ……!」
しかし、振り向きざまに繰り出された小さな天体エネルギー弾の群れに、メガロパは押し留められた。
即座にロビィは背を見せるほど腰を捻り、握った拳に力を込める。
引いた拳に星がまとわりつき、天体が激しくキラめいた。
「うなり飛ぶ星の、拳いち番彗星級。コスモブロー!」
「ウガッ!? ぐああああ~……!」
力いっぱいのストレートパンチが突き刺さり、まさに彗星のようにメガロパの体がブッ飛んでいく。
遅れて追っていく小さな星弾が、周りの壁をも巻き込んで、滅茶苦茶に破壊し回った。
ロビィは爆炎のなかからブレードを抜き取り、回しながら片手にとる。
両手剣の刀身から、星々の霧が振りまかれ、キラつきを増して虹となる。
「これでジエンドです。最大出力、宝刃周円盤帯。……おりゃ~あ!」
直後、ヤスデと木造の入道雲を、巨大な丸虹が割り裂いた。
「ぐううううううっ! わああああああ~っ!」
バリバリと頭から真っ二つに裂け、レウシア城が断末魔のあえぎ声を轟かせる。
その隙間から、シュポッと抜け出し、宙へ飛び上がる紫の人星。
「フッ。強力な城は、内側から崩れるものなんですよ! フッ……」
「き、きさま……始めから、そのつもりで……!」
「フッ。その通りです。まんまと引っ掛かりましたね、フッ……」
空中で腰に手を当てて、鼻を天狗に伸ばした得意顔で髪の毛を払い続けるロビィ。
どう見ても怪我の功名だし、食われる時に部屋の入り口を見つけてなければ潰されて死んでいたが、今からマジで死ぬレウシアには関係ない話だ。
「お、おのれぇ……! グワァアアアア──」
ドゴォオオオンボォオオン……!
最上級にクソデカい爆炎と轟音を立てて、城が砕け散り、かき消えた。
それから、爆発のせいで更地となった、未来都市アドニフ。
台地に降りかかる夕焼けが、慌てて復興工事を開始した住民たちを優しく照らす。
すでに多数のビルが、膝ぐらいの階まで組み上がっている。このペースなら、今夜のベッドは星空を被らなくて済むだろう。
たくましいチャチャイの街を見おろして、やがてロビィは夕日の向こうへ飛び立った。
「あっ、抹茶ラテだ。ラッキー」
途中の空に、直立不動で浮いている抹茶ラテのペットボトル。
好物ゆえに体力が80パーセントは回復する気がするボトルのフタを、パキと鳴らしてロビィは笑った。




