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55.生きていること自体が罰になる

「そう。よかった、と言っても……良いのかしら」


 この上、ラウルが処刑されるなんて聞きたくない。

 だが、殺されたローラン、殺されかけたリリーはそうは思うまい。


「わたくしは、それで良いと思うわ。

 ローラン卿とあなたが結婚する可能性は最初っからなかったと理解された時、お気の毒になるくらいあの方は取り乱されたの。

 あの方の場合、生きていること自体が罰になる」


 そんなに、ラウルは苦しんでいるのか。

 動揺が顔に出そうになって、はっと眼を伏せた。


 ジュスティーヌは手を止めて前に回り込み、カタリナの顔を覗き込んできた。


「カタリナ。今回のことはあなたのせいじゃないわ。

 あんなにあなたはローラン卿を嫌っていたのに、自分が望めばあなたを娶ることができると、あちらが一方的に思い込んでいたんだもの。

 あなたには、どうにもできなかったことなのよ。

 あなたは悪くない」


「そうね。そうだわ。

 ……ありがとう」


 カタリナは、どうにか微笑んでみせた。


「わたくし、降りてなにか食べてくるわ。

 あなた、徹夜したのでしょう?

 今日もごたごたするかもしれないし、少し仮眠をとっておいた方がいいんじゃない?」


「あー……そうさせてもらうわ。

 一時間半くらいしたら起こしてくれる?

 髪は、こんな感じでいいかしら」


 ジュスティーヌは、編み込みを入れた髪をまとめてねじり、丁寧になでつけながら櫛で留めてくれた。

 手鏡で後ろを確認すると、太さの違う編み込みがアクセントになったゴージャスな仕上がりになっている。


「素敵。あなたって、本当になんでもできるのね」


 カタリナは呆れてしまった。




 例によってジュスティーヌが秒で寝付いたのを確認して、カタリナはそっと部屋を出た。

 ここから先は、ジュスティーヌに聞かせたくない。


「ありゃ、カタリナはん。もう大丈夫かいね?」


 まずユリアーナに挨拶に行こうと思ったら、サロンにいたバルトロメオが気づいて声を上げた。

 ちょうどソファを立ったところのようで、傍にはヴェロニカとダーリオ、少し離れたところにクルトもいる。

 ユリアーナは後回しにすることにして、カタリナはサロンへ降り、ヴェロニカとバルトロメオに朝の跪礼をした。


 というか、顔を上げると──


 ヴェロニカが、やたらキラキラしている。

 バルトロメオも上気した顔でニッコニコ。


 そして二人は寄り添いあうように立っていた。


「あの、もしかして……」


 二人を見比べながら言うと、ぼむっとヴェロニカが赤くなった。


「ええ。こんな時に、とは思ったのですけれど」


「まあ! おめでとうございます!」


 思わず、カタリナはお祝いを言ってしまった。


「あんがと! カタリナはんのおかげやわ。

 舞踏会では、もう無理じゃ〜もう島に帰る〜ってなってたからね」


 てれってれなバルトロメオが、さすがに小声で返した。

 うむうむと、ダーリオも頷いている。


「もう大丈夫やいう連絡が来たけん、ワシらは宮殿に戻るとこやったんよ。

 ちょうどお顔が見れてよかったわ。

 カタリナはん、まだウィノウにおるんやろ?」


「ええ」


「ランデールに戻られる前に、ジュスティーヌ様と遊びに来てくださいね」


「ぜひ、おうかがいいたします」


 バルトロメオ達を見送り、カタリナはぽつんと座ったままのクルトの方を振り返った。

 昨日の服のままのクルトは、見るからに憔悴している。


「クルト様。大丈夫? 少しお休みになった方がいいんじゃない?」


「あ。ああ……」


 クルトはゆっくりと顔を上げ、カタリナを認めると、泣き笑いのような顔になった。


「クルト様?」


「……リリーがね。あのナイフは、舞踏会が終わった後、気がついたらバッグに入っていたって言ったんだ。

 リリーは、自分を面倒な目に遭わせるために、ローランが入れたと信じていたけど、君は……どう思う?」


 強い怒りを抑え込もうとするように、両手を握り合わせて、身体を前後に揺らしながらクルトは訊ねた。


 いくら婚約者でも、男性が女性のバッグに勝手に触れれば見咎められる。


 襲撃事件の後、リリーはユリアーナと、テレジアの世話をしていた。

 可能性があるのは、テレジア、ユリアーナ、イルマ。


 カタリナは、ちらりとあたりを見回した。

 客室棟の執事はバルトロメオ達についていったし、従僕も侍女もあたりにはいない。


 そっと、クルトが座っている肘掛け椅子のそばのオットマンに腰を浅くかける。


「一番自然なのは……大伯母様」


 ささやくように答えた。


 テレジアもイルマも、リリーに仕掛ける理由がない。


 仕掛ける理由があったのは、ユリアーナ。

 空中庭園で、リリーは、ユリアーナはクルトが塔主になることを望んでいた、ローランが塔主候補になって不満のようだと言っていた。


 クルトを塔主にするには、ローランを除かなければならない。

 だが、ユリアーナには、塔主選びに介入する力はない。

 テレジアはユリアーナを深く信頼していたが、ローランはテレジアの甥だし、こと塔主の役目に関して口を挟むのは難しい。

 ユリアーナにできるのは、リリーとローランの間にヒビを入れ、「若気の至り」では済まないスキャンダルを起こさせることくらいしかなかった。


「だよな」


 クルトは嗤った。


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えっええええええええええええ! 事件はひとつではなかった……! 犯人がわかって、あとはそれぞれの背景だったりそれぞれの今後について語られ、お話が終わるのかなあ、なんてノンビリかまえていたら……! 最…
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