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46.がさがさっと物音がした

 カタリナは改めてローランの部屋を見回した。


 続き部屋ではないが、一般的な寮の個室よりもかなり広い。


 外開きのドアから入って右手が、バスルーム。

 右手奥の窓際にベッド。

 窓の前にはなにもなく、左手奥の窓際に、ユリアーナが座っている書き物机。

 左手手前にはクローゼットがあり、廊下との間に壁に沿って、ラウルが座っている長櫃がある。


 ローランの遺体が横たわる、三人がけのソファは部屋のほぼ真ん中にあり、背を窓に向けて、少し斜めに置かれていた。

 なんでこんな変なところに置いてあるのかリーゼに訊ねると、最初は窓のそばに置いてたが、部屋が西向きだし、窓際だと昼寝で転がる時に暑いということで奥に動かし、動線の都合でこの位置になったとのことだった。


「リーゼ。あなた達は、今日、この部屋に入ったのかしら」


 ジュスティーヌが振り返ってリーゼに問うた。

 結構な悲鳴を上げていたリーゼは、廊下にへたりこんだまま。

 まだ若い、20代なかばくらいに見える黒髪の従僕が付き添っている。


「はい。今日は係の者がおりませんので、ベッドメイクに伺いました。

 お昼が終わって、器を下げてから……確か2時くらいでしたか。

 ローラン様が塔にいらっしゃる間に、済ませておこうと」


 リーゼが細い声で答える。

 皆の視線が従僕に集中した。


「ジャーヴィスと申します。

 今日だけでなく、ここのところしばらく、この部屋には入っていません。

 私はサロン付きで、個室に立ち入るのはご用で呼ばれた時だけですので」


「なるほど。では、ゆっくり部屋の中を見て、普段と違うところがないか教えて頂戴」


 ジュスティーヌは二人を部屋の中に招き入れた。


 まずは、洗面所とトイレ、シャワーブースのみのバスルーム。

 シャワーの周辺は完全に乾いていて、棚の上のタオルも綺麗なままだ。

 ローランは、今日はまだシャワーを浴びていなかったようだ。


 続いて、ベッドの周辺を確認したリーゼは、自分がベッドメイクをした時のままだと証言した。

 ナイトテーブルの引き出しをジュスティーヌが開いたが、身の回りのものが雑多に入っているだけで、不審なものはない。


 ここでバルトロメオが、どうせ警察を呼ばないのなら、ローランをベッドに移して弔いの準備がしやすいようにした方がいいと言い出し、ラウルも了承したので、バルトロメオとクルトがローランを運んだ。

 クロスした指は無理にほどくと折れてしまいそうだったのでそのままにし、胸の上に重ねるようにして安置する。

 最後にクルトが紗の天蓋でベッドを覆い、遺体が見えなくなったことでほんの少しだけ雰囲気が緩んだ。


 バルコニーに出られる掃き出し窓は、半分ほど開いたままだ。

 ジュスティーヌは、ハンカチを出して窓枠にあてがうと、からりと開いてバルコニーに出る。

 大神殿、宮殿、旧市街のパラッツォはまだまだ魔導花火を打ちまくっているが、ジュスティーヌは壮麗な光景をまるっと無視して、バルコニー周辺を調べた。


「隣のバルコニーとは、離れているのね」


 バルコニーの幅は、掃き出し窓より少し広いくらい。

 カタリナも覗き込んでみると、隣のバルコニーとの距離は3m以上あるし、胸の高さに手すりがあるから、飛び移るのはまず無理だ。

 ジュスティーヌは、魔法で手のひらの上に灯りを出し、じっくりとバルコニーを検分し始めた。


「あら。手が届くところに、雨樋があるんですね。

 もしかしたら、雨樋伝いに侵入できたかもしれません」


 見ると、バルコニーの脇、50cmくらいのところに銅製の雨樋がついている。

 壁は煉瓦で、デコボコをわざとつけた積み方をしているから、足がかりになる。

 身の軽い少年なら普通によじのぼれそうだし、大人でもなんとかなりそうだ。


 カタリナの後ろから、バルトロメオがひょいと覗き込んだ。


「ほんまや。

 ぬ? なんやろ? 手すりのそこんとこ、妙に汚れとらん?」


 バルトロメオが、雨樋のそばの手すりの端のあたりを指した。

 白く塗った手すりに、灰色の筋がついている。

 こすれたのか、塗料も少し剥げているようだ。


 リーゼとジャーヴィスはバルコニーに出た記憶はなく、いつからこんな傷があったのかわからないと言う。


「犯人は、ここに縄をかけて出入りしたのかしら?」


 カタリナは首を傾げた。


「そうね。ドアには鍵がかかっていたのだし。

 風魔法で操れば、下から縄を投げても、巧く手すりに引っ掛けられそう」


 ジュスティーヌは頷く。


 と、言うことは、風属性持ちが候補者ということになる。

 さっき、「炎鳳」の魔法陣を支えるために一斉に魔法を使った時、風魔法を使ったのは──


 ユリアーナ。

 クルト。

 ダーリオ。

 イルマ。

 カタリナ自身。


 確か、この五人だ。

 あと、バルトロメオも縄の扱いに慣れているだろうから、バルコニーに登れたかもしれない。


 そういえば、暗器の起動には水属性の魔力が必要だと言っていた。


 となると、起動できたのは──


 ユリアーナ。

 クルト。

 バルトロメオ。

 ダーリオ。

 カタリナ自身。


 カタリナは、自室に引き上げてからもイルマやジュスティーヌといっしょにいたから、誰の目から見ても除外することができる。

 ジュスティーヌは風魔法は使えないし、一番早く自室に引き取って風呂に入っていたのだから、これも除外。

 まずは、ユリアーナ、クルト、ダーリオ、バルトロメオの四人の行動を確認しなければ──


 そう思いながら部屋に戻ろうとした時、下からがさがさっと物音がした。


「今の、なに?」


 ジュスティーヌと顔を見合わせると、下の庭で灯りが動き、ひひん、と軽くいななく声もする。


「カタリナ! よかった! 大丈夫か?」


 夾竹桃に挟まれた暗い小道から現れたのは、白馬に乗ったギュンターだった。


誤字報告感謝です><

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― 新着の感想 ―
顔なじみのあるメンツの中に、犯人がいる! 誰だ! という緊迫したシーンで『白馬に乗ったギュンター』の登場……。 ふつうだったら、白馬にのった美形の公子さまが登場となれば、その登場の絶妙なタイミングに、…
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