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32.庇護欲をそそられている

 カタリナとジュスティーヌは二階の一番手前の部屋に案内された。

 続き部屋と言っていたが、それなりに広い。


 入ってすぐは居室。

 壁際に書き物机があり、窓際には三人がけのソファと肘掛け椅子、ローテーブルがゆったりと並ぶ。

 ソファの上には、揃いの柔らかそうな大きなクッションも置かれていた。


 その左手の扉を開けると、大きな四柱式寝台がどーんと置かれた寝室があり、十分な広さのバスルームもある。


 すぐにリーゼがやってきて、結い上げた髪を解き、化粧を落とすのを手伝ってくれた。

 先にジュスティーヌがシャワーを浴び、カタリナも続いて入る。

 カタリナがバスルームから出ると、リーゼは風魔法で手早く髪を乾かしてくれた。


 リーゼが下がってから、カタリナは寝台が一つしかないことに気づいた。

 てっきり、予備のベッドが用意されているものだと思い込んでいた。

 今から持ってこさせるとなると、かなり時間がかかるだろう。


 幸い、大きなソファがあるし、一晩くらいならなんとかしのげる。

 普段なら、なんのかんのと理由をつけてジュスティーヌをソファに追い出すところだが、さすがに暗殺者から救ってもらった夜にそれはできない。


「なにをしているの?」


 枕と上掛けをソファへ持っていこうとするカタリナに、寝台に腰掛けていたジュスティーヌは首を傾げた。


「え。わたくしは、ソファで寝ようかと」


「どうして? 一緒に寝ましょうよ。

 ジュリエットが泊まりに来る時は、おしゃべりしながら同じベッドで眠るの。

 お泊り会って、そういうものだって」


「えええええ……」


 そんな「お泊り会」などしたことのないカタリナは面食らった。

 あのピンク髪、未来の王妃に食い込みすぎではあるまいか。


「あなたがソファで寝るなら、わたくしもソファで寝るわ。

 抱き合って眠らないと、どちらか床に落ちてしまうわよ」


 ジュスティーヌは不穏なことを言う。


 幸い、令嬢なら詰めれば5人くらい横になれそうなほど大きな寝台だ。

 カタリナはしぶしぶ寝台へ上がった。

 ジュスティーヌも明かりを消して、寝台に潜り込む。


 二人とも仰向けになり、暗い天井をしばし見上げた。

 ふと、ジュスティーヌがカタリナの方に寝返りを打つ。


「……そういえば、カタリナ。

 ルシカ辺境伯閣下のこと、お慕いしているの?

 とても親しくしているように見えたけれど」


 常夜灯のかすかな光を反射して、ジュスティーヌの紫の瞳が光って見えた。


「は?? そんなわけないでしょ!

 ウィノウの皇女を娶りに来ている方なんだし」


「そうなの?」


「そうよ。そんなんじゃなくて、なんていうか……」


 カタリナの脳裏に、ぽかりとあるイメージが浮かんだ。


「子どもの頃、アルフォンス殿下の誕生日会に移動動物園が来ていたの、覚えている?」


「殿下が9歳になられた年の誕生日会ね」


「そうだったかしら。

 とにかく、海賊辺境伯閣下、その時に見た南方クマみたいだなって思って」


「覚えているわ。小さなクマ。

 あの頃のわたくし達と、同じくらいの背だったかしら。

 クマなのに、ずっと後ろ足で立って、よちよち歩いていた」


「それそれ。あのクマ、妙に動きが人間臭かったじゃない。

 本当は魔女に呪いをかけられて姿を変えられた、遠い国の王子なんじゃないかって思ったくらい。

 なにがなんだかわからないまま故郷と全然違うところに連れてこられて、どうしていいのかわからなくて、身の置き所もなさそうで……可哀想だった」


 言葉を重ねるうちに、カタリナは自分がなにを言いたかったのかわからなくなってしまった。


「ええと、それはいわゆる『庇護欲をそそられている』的な話なの?」


 ジュスティーヌは斜め上にまとめてくる。


「ちょ! なにを言うのよ。

 『庇護欲をそそる』って、恋愛小説で、頭の悪い貴公子を騙すあざと可愛い腹黒令嬢にしか使われない表現じゃない」


「そういえばそうね。不思議だわ。

 『庇護欲をそそる』だなんて、現実の令嬢には使わないのに」


 カタリナは、知り合いの令嬢たちを思い浮かべてみた。


 必殺技「斉射フューサレイド」持ちのジュスティーヌ、光魔法を操り巨大な黒馬「黒王号」を自在に乗りこなすジュリエット、婚約者サン・フォンの手綱を締めているしっかり者のレティシア、今日も華麗に「どっせい!」をキメたミランダ。

 庇護が必要そうな者は誰もいない。


 むしろ、国王唯一の男子なのに、やたらほわほわしているアルフォンスや、本より重い物を持ったことがなさそうなヒョロガリ銀縁眼鏡ことノアルスイユ、身体は大きいがぽけーとしているサン・フォンなど、男子の方に「庇護」が必要な者がいる気がする。


「ま、とにかく社交に不慣れで、まごまごしているのが気の毒だと思っただけ。

 さっさと寝ましょう。

 あなただって、疲れたでしょう」


「そうね。おやすみなさい」


 ジュスティーヌが寝返りを打って仰向けになると、すぐにかすかな寝息が聞こえてきた。

 寝付くの早っ!とカタリナは二度見する。


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