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18.いだいだいだいだいだい! 大伯母様、痛いです!

 衛兵が脇に立っている扉を通ると、中は大きなサロンだった。

 先に庭園で見かけた訪問者達が、それぞれ昼食を摂っている。


 窓際の良い席に案内された二人は、のんびりとお昼を食べた。

 メインは好みのものを選べるようになっていて、カタリナは鴨肉のコンフィにベリーソースを添えたものにした。

 脂でぱりぱりに焼けた鴨の皮も美味しかったが、一週間ぶりに、美味しいパンと甘味にありついて、涙ぐみそうになる。

 なんの変哲もない丸パンと、ゆるく泡立てた生クリームをたっぷり添えたクレーム・ブリュレがめちゃくちゃ染みた。


 そろそろ庭に戻るかというところで、リリーの魔導学院時代の先輩だというウィノウの文官が声をかけてきた。

 カタリナの美貌を褒めそやし、ランデールから来たばかりで、まだ庭をちゃんと見ていないと知ると、ちょうどウィノウに来たばかりの貴人を庭に案内するところなので、一緒にどうかと言う。


 貴人というのは、ウィノウの大学に留学しに来たという、北方諸国の王族の兄弟とその侍従だった。

 いずれも銀髪、見上げるほど背が高く、そのまま彫刻にしたいくらい顔立ちも体型も美しい。

 思わず、「まるで音楽の神ラヌスのような方々ですね」と北方語でカタリナが言うと、すかさず弟の方が「そうおっしゃるあなたは、愛の女神ヴェヌーシアのようにお美しいですね」と少したどたどしいランデール語で返す。

 不意打ちをくらったカタリナは、あわあわと照れてしまった。


 彫像の謂れやトピアリーの並びの意味をリリーに解説してもらいながら、ゆっくり庭園を鑑賞する。

 途中、リリーや外交官の知人と行き会うごとに、カタリナや兄弟達は紹介してもらった。


 エルメネイア帝国の公爵家の子息。

 見慣れぬ装束をまとった、東方から来た魔導師たち。

 西方諸島の貿易商会の会長とその家族。

 名前しか知らなかった国から来た、さまざまな人々。


 それにしても。


 リリーもそうだが、銀髪の兄弟達ほか新しく出会う人達は皆、カタリナに優しい。

 老若男女問わず、損得抜きでカタリナを褒め称え、好意を隠さず接してくれる。

 若い紳士なら、いきなり熱っぽい視線を向けてくる者もいる。


 地元ランデールなら、カタリナの姿を認めた者は、だいたい「構える」。

 サン・ラザール公爵家の機嫌を損ねると、めちゃくちゃ面倒なことになるからだ。

 カタリナ本人だって、気に入らないことがあれば直球で気に入らないと言ってしまうタチだし、特に家門が軽んじられるとつい締めに行ってしまうから、学院内でも恐れられている。

 舞踏会でも、自分からカタリナをワルツに誘う者は影で勇者扱いされているくらいだ。


 でも、ウィノウでは違う。

 サン・ラザール公爵家の名はそれなりに知られているようだが、別に恐れられているわけではない。

 まず好意を向けられるから、カタリナも素直に好意を返したくなる。


 もしかしたら、今までとは違った風に生きられるかもしれない。

 少なくとも、この都では。


 カタリナはどこかふわふわした気持ちで、生まれて初めて「社交」を心から楽しんだ。




 日が傾き始めた頃、小姓がカタリナを探しに来た。

 銀髪の兄弟に別れを告げ、リリーと一緒に迷路のような宮殿内を降りたカタリナは、車寄せでユリアーナ達に合流した。

 伯爵家から迎えの馬車がもうじき来るとのことで、ここでいったんリリーと別れる。


「カタリナ、お庭はどうだった?」


「素敵でした! リリー様のおかげで、いろんな方とお話できましたし」


 ユリアーナの馬車の中で、カタリナは、貰った名刺を扇のように広げてみせた。


「上出来ね。印象に残った殿方は?」


「ルシカ辺境伯閣下にお目にかかりました。

 ピンク髪で片目の、海賊のような方」


 ユリアーナは微妙そうな顔をした。


「あー……あの方。誰が嫁ぐか、皇女方の間で押し付け合いになっているようね。

 名前こそ辺境伯だけど、人口4、5万人くらいの島だもの。

 だいぶ前に立ち寄ったことがあるけれど、長距離航路の中継港があって、砦と宿屋が一応あるほかは、ほんっとにひなびた漁村だけ。

 どういうわけだか、ルシカで生まれ育った者は皆、水か風魔法が使えるらしいけれど、だからといってお金になるわけでもないし」


「ルシカ辺境伯領、そんなところなんですか」


 カタリナはびっくりした。

 典雅な宮殿でかしずかれて育った皇女達には、いくらなんでもハードルが高すぎる。


「ほかには?」


「ザムエルグ商会長と、魔石くずの活用法についてお話しました。

 一代で大商会を築いた方だけあって、おっしゃることがいちいち深くて。

 一度、ゆっくりお話ししてみたいです」


「カタリナ」


 ユリアーナは物凄い笑顔になると、カタリナのこめかみをいきなり拳で挟んだ。

 思いっきりぐりぐりしてくる。


「いだいだいだいだいだい! 大伯母様、痛いです!」


「ザムエルグは確かに大人物だいじんぶつだけれど平民! おまけに糟糠の妻に一途な50代!

 ルシカ辺境伯は独身だし20代だけれど、ウィノウの皇女を娶るのが決まっている方!

 どうしてあなたが結婚できる方の話が出てこないのよ!」


「あーあーあー、いました!

 いらっしゃいましたッ」


 カタリナは、銀髪の兄弟など貴公子達のことを必死に喋って、どうにか解放してもらった。


誤字報告ありがとうございました!

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ジュリエット:やばいですよコレ! 銀髪の貴公子兄弟は名前ナシなのに、なんで海賊辺境伯は甥っ子さんまでしっかり名乗ってるんですか!? カタリナ様、なにげにおもしれー男が好きそうだし、こっちいっちゃうんじゃないんですか!?

レティシア:確かに……

ジュリエット:でも海賊辺境伯は、皇女殿下を娶りに来た方なんですよね? 無理ってことじゃないですか?

レティシア:そうね。縁もゆかりもないのにいきなりウィノウ聖皇の養女になって輿入れというわけにもいかないでしょうし。ところでジュリエットの予想は、現時点どんなかんじかしら?

ジュリエット:出てきた3人で言うと、海賊辺境伯(3倍)、クルト様(12倍)、ギュンター様(30倍)くらいですかね。

レティシア:クルト様のオッズがどさくさに紛れて上がってる……今回は、御本人登場ナシでしたから、下がりようがないといえばないけれど。

ジュリエット:とりま、これから社交場へ行くようなんで、そこでの出会いに期待するしかですね。クルト様もいらっしゃるなら、カタリナ様にしっかりアピール!をお願いしまっす!


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― 新着の感想 ―
>カタリナ様、なにげにおもしれー男が好きそう 私もスキー! なので、ぜひカタリナ様には、海賊辺境伯にいってほしいんですけど、この御仁だったら、プロローグの危ういかんじにはぜったいにならなそう。 惚れ…
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