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12.最悪、一族で殺し合いになるかもしれない、と

「もともと、お祖母様が国を出たのは、このままじゃお守りしきれないとお祖父様が判断したからだって聞いている。

 跡取りは確保できたしもう用済みだって、純血主義者がイキリだして、実際に襲撃事件も起きたからって」


「は? 大伯母様がおかしな亡くなられ方をされたら、うちのお祖父様がブチ切れで全力報復したでしょうに。

 父だって、戦争とまでは言わないけれど、経済封鎖から暗殺まであらゆる手を使って詰めるわよ」


 サン・ラザール公爵家を舐めているのかと、カタリナは軽くキレた。


「そんなこと、血統だけが誇りの井の中の蛙に理解できるわけがないじゃないか。

 連中、ローデオンの絵入り新聞しか読まないんだから」


 ギュンターは、大公家の純血主義者達を鼻で笑う。

 彼自身のウィノウ語は、とてもなめらか。

 君主の子として、幼い頃から外国語の習得をしっかりやり、諸国の最新動向も気にかけているのだ。


 カタリナは納得した。


 血だけが誇りの頑迷な貴族なら、心当たりがそれなりにある。

 ああいうタイプがもっと過激になった者がうようよいる小国では、確かに守りようがない。

 いかに守りを固めても、いつどこで誰に刺されるか、毒を盛られるのか、わかりっこないのだから。


「なるほどね。大伯母様になにかあれば関与者を粛清するほかないし、そうなれば蛙さん達は逆ギレする。

 最悪、一族で殺し合いになるかもしれない、と」


「そう。で、お祖母様は下の叔母様達を連れて国を出たんだけど、お祖父様が重い病気だと聞いて、絶対戻るなと言われていたローデオンに戻ってきて、ご自身でずうっと看病した。

 お祖父様も、一時期かなり持ち直したらしいんだけど……亡くなって。

 お祖母様は、お祖父様の葬式を待たずに出国した。

 葬式で襲撃する動きがあるって具体的な情報が入ってたから」


 ギュンターは、少し遠い目をした。


「このへんの話は、僕が生まれる前のことだけど、父上から繰り返し聞かされた。

 嫌いだから別々に暮らしてるわけじゃないんだって。

 だから、手紙のやりとりはずっとあるし、父上が近隣国を訪問する時は、お祖母様も来てくださる」


「そういう時、あなたのお母様は大伯母様にどう接してらっしゃるの?」


 カタリナは首を傾げた。

 今の大公妃からすれば、姑のユリアーナは自分の叔父を殺したに等しい女、ということでもある。


「あー……母上とは一度も会ってないんじゃないかな。

 父上達の結婚式にも出てないし。

 たとえば去年、隣国の国王の葬儀があったときは、父上と僕、姉上、下の弟のエッカルト、お祖母様が出席した」


「え、大公妃がそんな大事な行事に出席しないだなんて、アリなの!?」


 カタリナはそっちに驚いた。

 隣国の式典に出席するなら、夫婦で出席するのが通例だ。


「母上は、外のことには興味がないから。

 上の弟のコルネリウスの身体が弱いから、ずっと付き添ってて宮殿からほとんど出ないし。

 僕がウィノウに留学するのも『勝手にすれば』って感じで、そこは助かったんだけど。

 まあでも……母上の前では、お祖母様の話はしない。

 父上も、僕らも。

 お祖母様に贈っていただいたものも、母上の目につかないようにしている」


 ギュンターは困ったように眼を伏せる。

 暗黙の了解がそこにはあるということか。


「複雑、なのね……」


 ギュンターの父母が結婚したのは、改革派の本家が保守派の有力な分家と縁を結ぶことによって、一族を安定させるためだろう。

 血が重なるリスクをまた冒すことになっても、そうしなければ国が危ういと判断せざるをえない状況だったということだ。


 しかし、身体が弱い次男を溺愛しているという大公妃が、なにを考えているのか不気味ではある。

 ギュンターの口ぶりからして、次男以外の子は放任している雰囲気だが。


「複雑なんだよ。

 エッカルトは四属性だし、身体も強いから、大公家を継ぐのはエッカルトになると思う。

 でも、次の大公妃をどうするかで、絶対にまた揉める。

 その時、俺が父上やエッカルトを助けられるようになってないといけないんだけど」


 ギュンターは自分の両手を眺めた。

 ピアノが似合う、指の長い骨ばった手だが、剣たこが目立つ。


 どの属性の魔法が使えるかは、先天的に決まる。

 ローデオン大公国のように、魔力の多寡によって後継者を決める国では、火水土風の四属性を持っていれば継承者確定、四属性持ちが複数いればその中からもっとも力が強い者を継承者とし、逆に四属性がいなければ三属性の中から魔力が強い者を選ぶ。

 現大公は三属性だが、魔力は歴代最強クラスと聞いている。

 二属性しか使えないギュンターは、将来、弟を支える覚悟で、彼なりに努力しているようだ。


「ウィノウでしっかり勉強すればいいじゃない。

 それにしても、うちってちょいちょいゴタゴタするな、面倒だなって思っていたけれど、大公家に比べたら全然普通ね」


「ゴタゴタってどういう?」


 直近で言えば、カタリナが王太子妃の座を逃した問題だが、そのことは口にしたくない。


「えーっと、普段はお祖母様とお母様があんまり仲がよくなくて。

 でも、お父様がやらかすと、お祖母様とお母様がいきなりタッグを組んでお父様を詰めるから、お父様が拗ねてめんどくさいことになる、とか」


「いいなー……平和で」


 ギュンターは、心の底から吐き出すように言って、溜息をついた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 辛抱できずに読み始めました(*^^*) カタリナさんの婚活ね~と軽い気持ちで読み始めたら、ユリアーナ大伯母様の人生も詰まったしっかりしたお話なのですね。いろいろあるなあ。苦労するなあ。過激…
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