旅の黒歴史 白旗神社例祭
その時は、単純に冷や汗をかいたけれど良い体験をさせていただいたなぁと思うばかりだった。ただ、日々を重ね、人生経験も増えたこの頃、あの時の関係者各位に再度、心からお詫びしたい旅が一つある。あれは若いから許されたのだろうか?(実際にはそれなりの年齢だったのだが、見た目が…)それとも、そういう巡り合わせのまれびと扱いだったのか?
2002年5月28日のことだった(日記記載あった)
朝起きると7時頃で、いい天気で光が眩しいくらいだった。どこかへ行こうと小田急のパンフを見ると紫陽花特集だ。よし、これだ!と思い立ち、北鎌倉を歩くことにする。江ノ電に乗り換え広告を眺めていると、鶴岡八幡宮内白旗神社例祭10時よりという天吊りが目に入る。これこれ!時間的にも間に合うから観に行くぞ!とわくわくする。で、駅から鶴八まで早歩きで直行し、本鳥居をくぐる。
しかし、どこで行われるかさっぱりだ。とりあえず本宮に参内し、手を合わせていると浅葱袴の見るから使いっぱという若い男性が小走りに階段を目的ありげに降りて行く。これこれ!と付いて行くとはたして白旗神社だった。例祭の準備で何人もぱたぱたしていて、何よりお社の前に通路を挟んで左右に腰掛けが並べられて人待ちげにしている。お参りして時間を確認すると、まだ少し時間があったので手洗いに行っておく。帰ってきてもまだ人はいない。カメラマンらしき人が1人、それきりだ。とりあえずかぶりつきで拝見しようと左側最前列一番お社に近い席に座って待つ。青葉が光に透けて美しいなどと思い思いしているうちに下っ端浅葱袴さんに伴われ、よろよろした翁が杖を突き突き歩いてくる。招待者とでも言うべき人か…と見ていると、何人もの、ものものしいおじ様、翁が集まってくる。なんなんだ?と思っていると、最初の杖突き翁の所へもう少し若い翁が来て、「この度○○先生もご参加で全国源氏白旗の会を立ち上げることになりました。××さんには関西源氏のまとめということで、ぜひとも発起人になっていただきたく、云々」と話をし出した。横で聞いていて、はぁーと感心してしまった。天皇家や徳川家が続いているように源氏だって続いている。そうして、その子孫が頼朝公の神社例祭に拝謁するのは当たり前か。うんうん。呑気にそんなことを考えつつお社を眺めていると、紫袍や浅葱の袍を纏う宮司さんが5人、朱袴の神女さんが2人通路を歩いて境内へ入り、祭が始まった。
参加者数に比べ、宮司さんや神女さんの多さに気付き、やれえらいもんに参加してしまったと思いだしたのは、浅葱袴さんが司会で式が進行しだしてから。何かある度に起立し、礼をせねばならないのだ。
祝詞を上げる際、長々と礼をせねばならないのは辛いとは思わなかったけれど、お経と似てるなとか、ありんこが石畳を走ってるなとか、不謹慎な方に思考が流れる。
そして大失敗したかも…と心中冷や汗が出だしたのが、通路挟んで右のかぶりつきの席に、宮司ではないが白い袍に下が紫の柄の入った、たいそう立派なおじ様が座られているのに気付いてからだ。この方は源氏の血筋の濃い方なのだろう、子孫代表として宮司さんに続いて榊を神前に供えられたのだ。
ああ、かぶりつきの席にそんな意味があったなんて!あいやー。私は隣に座っている関西源氏を纏めるよぼよぼした翁より、上席に座ってしまっているじゃないですか。どうしよう…。誰もそんなこと言ってくれなかったけれど、失礼な奴と思われてる。絶対。
子孫代表に続いて、希望者による榊拝受と榊を神前に供える式次第となる。見るからに源氏の子孫らしい立派な背広姿の男性が8人ほど立ち上がる。続く女性陣は、その後に50代くらいの方が3人いるだけで、それなりにきちんとしたいでたちをしている。私は淡いグリーンのチノパンに緑と黄の淡い色のマドラスチェックの長袖シャツというたいそうカジュアルな姿だったので、式拝見だけのつもりでいた。と、こ、ろ、がだ。司会の浅葱袴さんが参拝者少なしと見てか、私にもどうぞ、と勧めるではないですか。こんなかっこうで…?他の方に比べると浮いているよ?いいのかなぁ…。どうぞと言われて、けっこうですとも言いかねるので腹を括る。榊をいただき、出来るだけ丁寧にニ拝ニ拍手一礼をする。いろんな所で何度もやりつけている拝礼なので、きちんと様になっていたと願う。くるり振り返ると15〜20人くらいの人が、腰掛から3mほど離れた場所に囲むような感じで佇んでいる。関係者でない一般の人達なのだろうか。きっとそうだ。私はなんと心臓に毛が生えた行いをしているのだろう!冷や汗しきり。かくなる上は、ビシッと背を立て座り続け、時に応じて45度の礼を続行するしかないと思いつつ元の席に戻る。
巫女の神楽奉納に続いて仕舞いの儀になり、とうとう紫袍の宮司さん退場で祭礼は終了。やれやれだ…。下され物の神酒あるというので、いっとう最後にいただく。ただ、不思議なことに榊を神前に供えた人にしか、お神酒が下されていない。なんでだろう?ありがたい祭りのお裾分けなのだから一般の人にも下されても良いような気もするのだけれど。
この後、気を取り直して、当初目当てのあじさい寺明月院に行く。東に来て初めて奈良や京都と遜色ないお寺さんに出会ったように思う。咲き初めのあじさいの初々しい美しさはなんとも言えず良かった。あと、丸窓の向こうに見える本堂後庭園の花菖蒲も良かった。丸窓というトリミングが絶妙なのだ。