2001年11月戸隠にてしし座流星群
今年のしし座流星群は見応えがあると知り、なんとか休みが取れるように調整すると、幸運なことに、18日から20日まで三連休を取ることが出来た。
1998年の時は見損ねたので、今回は是非ともベストポジションで愉しみたい。さて見晴らしが良いテントを張れる所、どこだろう。富士山麓は人が多そう。温泉が近くにあるといいなあ…。箱根は人が多いからダメ。房総半島は角度が微妙?三浦半島はどうだろう。せっかくの三連休だから、まだ行ったことが無い山と温泉のあるテントが張れる東側の開けた所…。
いろいろ考えた末に、戸隠に決めた。標高の高い戸隠は寒いだろうから、寒さ対策はきちんとしておかないといけない。水と食料は現地調達可能だから、最低限でいい。
17日遅番の仕事終了後、東京駅八重洲バスターミナルへ移動する。長野駅行き夜行バスの発車時間にギリギリなのでちょっと焦るが、なんとか間に合う。
18日早朝6時半頃長野駅到着。駅の喫茶店でモーニングを食べたら、まずは善光寺を目指して歩いて行く。時間はたっぷりあるから、朝早いのでまだ閉まっている商店街をぶらりと適当に歩く。行ったり来たりどこをどう歩いたか判らない。仲見世通りに到着すると、朝も早いのに観光客がけっこういる。本堂に参り、せっかくだからお戒壇巡りをする。あちこち境内を歩いた後、お目当てのつるやの酒饅頭を買いに行く。開店したてなので、お客さんは誰もいない。ここでしか買えない酒饅頭を赤白それぞれ三個ずつ買う。近くにある木のベンチに座って出来立てのほやほやを赤白一つずついただく。つるっとした皮がなんともいえない。あんこも嫌味の無い味で美味しい。
通りをぶらり観て歩き、おやきを4種類購入。茄子、野沢菜、きのこ、かぼちゃ。今日の夜食かな。
昼には早いけど十割蕎麦をいただく。
昼前の戸隠行きバスに乗車し、中社宮前下車。戸隠神社中社に詣でたら、北へ車道ではない細道を歩いて行く。ペンションや別荘が点在する越水ヶ原を抜けて更に北森へと歩いて行く。細い道が山道に変わってから半時間程歩くと舗装道路に出る。道を渡ってすぐが戸隠キャンプ場だ。
既にシーズンオフでキャンプ場は閉鎖されており、広々とした草原や山際に立つロッジに人影は無い。辺りをぐるりと周り、東の空が良く見えるだろう見晴らしの良い、それでもってあまりテントが目立たない場所にテントを設営する。サブザックに雨具と水筒、おやつ、お風呂セットを放り込み身軽になってささやきの小道を奥社に向かって歩いて行く。戸隠神社奥社に詣でた後、森林植物園を抜けて中社方面へ向かう。中社近くにある十輪院の土蔵造り喫茶店で珈琲をいただく。なかなか良い雰囲気のお店だ。貸し切り状態である。
時間潰しも兼ねて、中社から飯縄山方面へ少し歩いた所にある神告げ温泉に入る。なにせ今日はまだこれからが長いのだ。あまり綺麗とは言えないガラスの向こうの夕暮れを眺めつつ、温泉に浸かる。温泉を堪能してほこほこになったら、併設の食堂でざるそばを食べる。美味。
温泉から外に出ると、辺りはとっぷり暮れている。これからキャンプ場まで暗い中を歩いて行くのだ。幸いにも、真っ暗というわけでなくなんとか道を目視出来るので、ライトはつけずに歩く。昼間歩いた道なのに、夜歩くと全く感じが違って見える。
キャンプ場に着いたら20時頃だった。流星の出現は真夜中から明け方にかけてなので、まだまだ時間がある。23時まで仮眠を取ることにして、寝袋に潜り込む。
アラームの音で仮眠から覚めると、まずは熱いハーブティーとおやきを二つ食べる。その後でつるやの酒饅頭も二つ。外を見て見ると、空は半分ほど雲に覆われ、流星を観れるか心配だ。寒さ対策をして外に出る。辺り一面暗い。風はあまり無いけれど寒さが顔を打つ。
しんしんとした夜の静けさの中、東の空を眺めることしばし。車のエンジン音が近づいてくる。夜闇を切り裂いて車のヘッドライトが現れる。流星群を観んとする御同輩の登場だ。現れた勢いのまま、時間待ちにバーベキューを始め、静かだったキャンプ場に騒々しい音楽が溢れる。嫌でも耳に入る会話からして、若い男女4人らしい。お願いだからも少し静かにしてくれないかなぁ…と思いつつ、東の空を眺める。星は輝いているけれど、流れ星はなかなか無い。
時間が経つにつれ、足のつま先がちょっとずつ冷えてきたので、足踏みして血流を良くする。あちらのバーベキューの宴会も終わり、騒々しさもひと段落したので、ほっとする。
2時過ぎた頃から、星が流れ出した。流星がどんどん増えていく。こんなに流れるなんて凄いと、感動していると、向こうの若人が、ガンガン音楽を流し出し、大声をだして騒ぎ立てる。せっかくの流星ショーが台無しになる!これには我慢出来ず、こちらの迷惑になるから音楽切って静かにして欲しいと抗議した。幸いにも、音楽は切ってもらえた。降るような流星ショーは素晴らしいの一言。残念なことに半時間ほどしか観ることが出来なかった。3時前にはとっぷりと雲が空全面を覆い、待てども星空は復活せず。向こうの若人はキャンプ泊すること無く去ってゆき、暗闇の中に静けさが戻ってきた。もう少し粘ったけれど、雨とも雪ともつかぬものがほたほたと降り出したのを機に諦めてテントに入った。
そうして、感動冷めやらぬまま、日記を書いている。30分の奇跡のような美しさ。次々と星は流れ、花火よりも風流で心に染みた。
拙い句を一つ
曇天を切り裂き走る流れ星
19日朝起きたら8時頃だった。外は曇り空だが、雨は降っていない。お湯を沸かしハーブティーを入れ、昨日の残りのおやきと酒饅頭を食べる。だらける前にテントを撤収。撤収しながら今夜の宿泊をどうするか考える。昨夜あれだけ寒さの中で突っ立っていたから今晩はあったかい所で眠りたいなあ…。とりあえずは中社で昼ごはん食べてから決めよう。
昨日と同じく戸隠神社奥社にまずは詣でる。その後は天命稲荷に参り、鏡池をぶらり歩く。お稲荷さんはお社の中に入ってお詣り出来るような造りになっていて、お詣り方々休憩する。お社から外を眺めていると、このままここで一夜を明かしてもいいかなと思ったりする。でもきっと寒い一夜になるだろう。
少し遅いお昼を食べようと中社前の蕎麦屋に入る。天ぷら蕎麦と蕎麦がきをいただく。食べながら今日の宿をどこにするか思案する。観光地図を眺めてペンションか宿坊かそれとも旅館が良いか…。昨日珈琲をいただいた所も旅館だったことを思い出し、直接行って確認することにする。
歩いてすぐそこの旅館を早速訪ねる。玄関にバックパッカーの若い金髪女性が40代くらいの女性と話をしているのが見えた。話が終わるまで待つ。聞くともなしに会話を聞いていると、どうやら明日の宿泊予約のようだ。ここはユースホステルも兼ねているらしい。無事予約出来たようでバックパッカーの女性は大きなザックを担いで笑顔で去っていく。今日はこれから何処へ行って何処に泊まるのかなぁ…とぼんやり考えながら、玄関先にいる女性に歩み寄る。幸い部屋に空きがあり一泊の予約を取る。夕方17時には戻ってくる旨伝えてその場を辞す。
さてこれからどうしようか。曇り空はずいぶんと晴れてきている。時間は中途半端。とりあえず、まだ訪ねていない宝光社に詣で、昨日とは違う道から時告げ温泉に向かう。温泉にゆっくり使った後、土産物をチェック。蕎麦茶、蕎麦飴、ブルーベリーパンなどなどを購入する。
暗くなってゆく中、旅館に移動。晩ご飯は意外なことに牛肉の赤ワイン煮込みをメインにした洋風の献立だった。私の他はリタイア後、日本各地を旅して周っているという、老齢のご夫婦のみ。オーナーの男性の方の作務衣姿で折り目正しくテキパキサーブされる様子は清しく、都会ではなかなかお目にかかれないタイプの方だと思う。
食後、ぬくぬくのこたつに入って本を読んでいると昨晩の寝不足もあっていつの間にか寝てしまい、次に目が覚めたら深夜になっていた。昨晩は降りしきる流星雨を観ることが出来たけれど、今晩はどうだろうか。着込んで外に出てみる。良く晴れた星空が一面に広がる。標高が高く空気も澄み人家の灯も少ないので、たくさんの星が降るように輝き、手を伸ばせば届きそうな気がする。これなら少しは流れ星が見えるかもしれないと、中社前の開けた場所へ歩いて星空を眺める。360度隈なく眺めることが出来、2時半頃まで粘って15個星が流れたのを数えた。もちろん視認出来たものだけなので、出来ない暗く小さなものはもっとあっただろう。ああ、昨晩これだけ晴れていたらもっと流星雨が愉しめただろうに、ままならないものだ。
20日豪華な和風朝食をいただく。白ご飯が美味しい。恥ずかしいが二度お代わりをしてしまう。食後に宿代を支払うと、なんとあの食事で5000円だった。安い。
8時に宿を出る。これから信濃路自然歩道を歩いて飯綱原まで行く予定。途中から戸隠バードラインを歩いたけれど、車の通りは数えるほどでのんびりした晩秋の風景を愉しんだ。飯綱登山口でバスの時刻を確認し、バス待ちの時間を荷物を置いて飯綱湖まで往復する。バスに乗車してすぐに荷物を抱えて熟睡、気付けば間もなく長野駅だった。
駅のロッカーに雨具、お風呂セット、文庫本以外を放り込み、サブザック一つと身軽になって商店街方面へ出かける。まずはお昼だ。夜は居酒屋になる古さびた構えの店で蕎麦定食を頼む(というか、それしかメニューが無かった)。硬派なこだわりの店なのか、内装に目を惹かれる。定食も山菜が使用され美味。
メインの通りだけでなくウロウロ。夕方近く県庁より向こう、裾花川沿いにある裾花峡温泉に迷いながらも辿り着く。暮れてゆく中、露天風呂から川を挟んだ向こう岸を眺める。長野駅からも近いので、山帰りには便利だし、今後も機会があれば利用することにする。
夜行バスの乗車時間までの待ち時間に晩ご飯にする。三日続けて蕎麦を食べた為か、うどんを食べることにする。やっぱり関西人なら蕎麦よりうどんかそうめんが正解な気がする。真っ当ななざる蕎麦って大学生になって初めて食べたくらいだ。まあ、新蕎麦の頃も重なってこの三日間食べた蕎麦はどれも美味しかったけれど。