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束本 静流①


まぁそんな感じで、だ。僕は現場に出る魔術士ではなく魔術開発者として生計を立てていくつもりだ。


魔術以外の教科の成績も悪くないので魔術関係以外の仕事に進むことも可能だけど、その場合は魔術式自体に触れる事自体できなくなる。僕は魔術式の構築は好きなので、だからそっち方面へ進みたい。本当は現場にも出て魔術を行使したいところもあるけど……こっちは僕では非現実的だからね。


魔術器官(マジック・オルガン)の能力は成長するものだけど、僕の総魔力量の伸び率は微々たるもの。事実上僕の現場参加は閉ざされている。一応ワンダリング・ツールと呼ばれる時たまゲートで発見される、この世界のものではない道具の中には魔力量を補うようなアイテムもあるから絶対ではないけど……ワンダリング・ツールは貴重品で当然一介の何の実績もない学生が入手できるようなものでもないし、そもそも優れたツールなら僕みたいな魔術士としては落ちこぼれが使うより、優れた魔術士が使った方が有効活用できるだろう。


例外的に使用者を選ぶようなものもあるけど……そもそも選ばれないと意味ないし、選ばれてもヤバいデメリットがあったりするからね、うん……だから考えてもしょうがないだろう。


現場に関しては大分前に諦めている。無駄な努力してそっちにリソース使うより、ほかに使いたい事もあったから。


だから攻撃魔術は僕は開発しない。少なくとも自分のはね。攻撃魔術はどうしても総魔力量がモノをいうから。すぐガス欠になる魔術士が前線に出るなんて自殺しに行くようなものだ。


その点、支援なら戦闘開始前に一気にかけて後は下がってるとかいけるから。だから僕は支援魔術だけを開発し、現場に出れるDランクまでは取得した。


まぁ支援魔術でも2~3発で燃料切れになるんだけどね!


ただまぁ、データを取得して解析とかいう仕事をするにしても現場に足を踏み入れるのにDランク以上の資格が必要になるわけで。


前線に出ないにしてもDランクを持っているかいないかで将来の選択の幅が変わってくるから、取っておくに越したことはなかたのだ。だからDランクは取得した。そっから上は無理だけども。


ちなみに、Dランクになったのはまだ最近なので今の僕は現場経験はほとんどない。そもそもDランクだと一人で現場に立ち入れないのだ(支援しかできないんだから当たり前)。


資格とってからまだほとんど語モノの出現もないしなぁ。別に戦いたいわけではないけど、将来の為の学習用の教材として、データ取得はしたいんだよね。


そんなちょっと不謹慎な事を考えながら校門をくぐり、学園の敷地外に一歩踏み出した──ちょうどそのタイミングだった。


唐突に……本当に唐突に、肩が重くなった。同時に背中に当たる感触。


二つの理由で体が固まった僕の耳元で、涼やかな声が響く。


「那岐、今日ももう帰るの?」


聞きなれた声だった。というかこの状況でそうじゃない声が聞こえたら怖いけど。


僕は嘆息して肩にかけられた手をのけると、背中の感触から身を離して振り返る。


そこには学園指定の制服の、艶やかな髪をショートカットに切りそろえた一人の少女が立っていた。払いのけられた手を下げる事もなく、ワキワキと動かしている。その動きは何?


「……束本、頼むから気配消して背後取るのやめてくれない?」

「那岐が注意力散漫なだけ」


嘘である。彼女は大抵の相手の背後を気づかれずにとれる。暗殺者か何かなのだろうか。存在感がないというよりはそういう技術を身に着けている方だとは思う。ただその技術を学園で使わないでほしい。


何度言ってもやめてくれないんだよなぁ。後こっちは直接口にしないけどそこそこ立派なものを押し付けるのもやめてほしい。僕は割と中性的な外見をしていると自分でも思うが、立派な男の子ではあるので。


ちなみに距離感近いし呼び捨てにされているが、クラスメイトでただの友人である。いや、ただの友人ではないかな。学園の中では身内を除くと一番多分親しい相手かもしれない。


元々コンタクトをとってきたのは彼女から、二年生の時からだからもう2年ちょいの付き合いになる。


ちなみに、目をつけられた理由は決して色っぽい意味ではない理由で。


僕が魔術開発者としての様々な資格を取得しているのはさっき言ったけど、将来的に開発や調整を委託したりする相手として、何人かに目をつけられているんだよね。その中でも特に熱心なのが二人──まぁそのうち一人は身内だから外すとして、残りの一人が彼女なんだよね。


彼女の名前は束本 静流。俺と同じ学園の4年生にして、同学年に在籍する生徒の中では最高ランクとなるAランクの実力者の一人だ。

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