売約済み
「……あの、燐堂先輩?」
即座に背を向けた束本と違い燐堂先輩はまだ僕の方を見ていたので、声を掛けなおす。
「あっ、すまん」
動かなかった燐堂先輩も、今度は反応してくれて背を向けた。
二人の視線がなくなったのを確認して、僕は即座にステラに伝える。
「ステラ、コネクト解除」
言葉と共に、体にフィットする感覚が消え、元の私服姿に戻った。ふう、他の人が駆けつける前に片付いて良かった。往生際が悪いと思われるだろうが、あの恰好を見られるのは出来るだけ少人数にしたい。まかり間違ってあまり接点のない人に見られた場合、僕の趣味であんな恰好と思われるのは御免だ。痴女と勘違いされるかもしれないじゃないか。
「……はい、OKです」
ステラにもサイズ縮小してもらい、それを腰のホルダーに戻しながら二人に声を掛けると、二人が向き直って来た。
「本当に一瞬で元の姿に戻っている……」
改めて元の姿になった僕の全身を確認し、思わずといった感じの呟きを燐堂先輩が口にする。
「完全に魔法少女じゃないか──」
「魔法少女?」
そのつぶやきを聞きとめた束本が首を傾げて繰り返すと、燐堂先輩が明らかにしまったという顔をした。それから燐堂先輩は目を背け、何か言い淀み、それから僕を見つめなおして何か意を決したような様子で口を開いた。
「だって、どう見たって魔法少女だろう! 魔法のステッキを持って、一瞬で専用のコスチュームの変身して! しかもこんなに可愛らしい!」
唾の飛びそうな勢いで。
「り、燐堂先輩?」
「あー、先輩そっちの人だったんだ?」
燐堂先輩の突然の豹変に驚く僕の横で、束本が言う。
「そっちの人って?」
「アニメとかで魔法少女モノってあるよね? 私達の存在で魔法がフィクションではなくノンフィクションになったから廃れ気味ではあるんだけど、根強い人気があるんだ」
ああ、うん、それは知ってる。
まぁ現実に存在するからって物語にならないわけじゃないしね。スポーツ漫画とかそうだし。
「んで、そういったアニメのキャラって戦闘時とかには変身するじゃない? その辺りを私達にも投影して夢見る人たちいるんだよね。それで実際の現実を見て夢破れる」
知っての通り、魔術士は戦闘をすることが前提になっていることもあり、魔装服など基本的には防御優先だ。僕も子供の頃に魔法少女モノ見たことあるけど、あんな妙に露出の高い恰好をすることはない。
普通は。そう普通はしない。普通はしないんだよ……
自分のさっきまでしていた恰好を思い出して心が沈む僕を後目に、何か吹っ切れたらしい燐堂先輩は熱の入った声音で語り始める。
「そう、そうなんだよ。俺は昔見た魔法少女に憧れてその戦いをサポートするためにこの道に進んだのにさ! 実際は魔法少女らしさなんかまるでなくてさ! ステッキも持ってないし、衣装も野暮ったいし、そもそも変身しないし」
まぁ普通戦闘するのにヒラヒラした衣装なんか着ないよね。
『ナギっちが着ているのは由緒正しい衣装よ! レベルもダンチ!』
何のレベルだろう……いや、普通に考えれば耐性だとは思うけど。
「だが、俺はついに見つけたようだ」
脳内でステラとやり取りをしている間にも燐堂先輩のセリフは続く。彼は僕の方に一歩足を進めて
「リアル魔法少女を」
「違います」
即答する。いや今の外見は少女だし魔術も使えるから言葉だけでいえば間違いではないんだけど、彼が言っているのがそういう事じゃないのは分かる。なので即否定をしたんだけど、
「どうだ、俺と組まないか? 自分で言うのもなんだが実力は申し分はないと思うぞ」
それは知ってるけども!
今回は一人だったけど、燐堂先輩は5年生の中心的ポジションだから人が周りにいる事が多いんだよ。そんな人と組んだりしたらようやく落ち着いてきた注目度がまた上がっちゃう。
そう思って断る言葉を口にしようとしたら、突然横から抱き寄せられた。更に僕を抱き寄せた当人──束本が口を開く。
「申し訳ありませんが那岐は売約済みです。ね?」
最後のね? はこちらに向けて発せられたものだったので、僕はこくこくと頷く。
束本は付き合いも長いし、個人行動が多い。注目度は高いが燐堂先輩ほどではないし、以前から一緒の行動が多いから今更注目を引く事もない。なので束本の方からそう言ってくれるのはありがたいのだ。……売約済みって言葉はちょっと気になるけど。
──この後燐堂先輩はだったら束本も一緒にと勧誘して来たけど、束本は少人数での動きの方が得意だという事で改めてお断りした。
一応燐堂先輩は食い下がる事なく引き下がってくれたけど……気が向いたら声をかけてくれと言ってきたから諦めてないなアレ。
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