戦闘終了
言葉と共に、彼女の手首よりちょっと手前のあたりから生えるように、銀色の刃が現れる。左右両方だ。
そして次の瞬間には、彼女の姿が視界から消えた。本来人の持つものではない跳躍力で飛び上がった。
そこから先は圧巻だった。空中に縦横無尽に張り巡らされた鎖を足場にして、次から次へと束本は跳ね回っていく。そしてこちらの方へと飛んできた蝙蝠を、腕の刃で片っ端から叩ききっていく。
──話には聞いていたけど、こうして実際に見ると凄まじいな。
鎖を蹴り、時には鎖に手をひっかける事によって強引に方向を変える束本の高速機動。動きが早い上に起動が不規則に鋭角的に変わるため、近距離戦闘など訓練ですら経験した事がない俺には目で追いかけるのも困難だ。ちょっとでも気が緩めれば、すぐに視界から外れてしまう。
ただそんな動きをしていても俺の方へ向かってくる蝙蝠を優先的に処理している辺り、彼女は周囲の状態は完璧に認識しているようだった。
例え魔術を使えるようになった今でも、あんな動きを相手にしたら勝てるなんて露程も思えない。多分今使用している《重圧》を彼女にかけて、ようやく目がついていけるってレベルだろうな。体は反応できないだろう。
さすがはAランクってところか。
そうやって飛び回る束本と張り巡らされた鎖の向こうの方では、空中に氷の棘らしきものがまき散らされている。燐堂先輩が氷の魔術で撃墜しているんだろう。
二人で充分といった先輩の言葉に嘘偽りはなかったな。
まがりなりにも戦場にいるというのに、何の危険も感じない中僕はただ二人の戦いを眺め続けた。
◆◇
「これで全部倒したと思うが……束本、そっちはどうだ?」
「……見える範囲にはいない」
張り巡らされた鎖を避けながら、燐堂先輩が戻って来た。それに答える返事が頭上からして、直後上から束本が降ってきて着地する。
みた感じ、二人ともダメージを負った様子はない、一安心だろう。
「キミは怪我はなかったか?」
「あ、はい。大丈夫です」
燐堂先輩が戦闘の高揚の残滓かやや紅潮した顔で聞いてきたので、頷いておく。束本のおかげで僕は怪我どころか蝙蝠に近寄られることすらなかった。「完璧に守った」とどやっという顔をしている束本がちょっと可愛い。
これで、戦闘は終了かな?
「えっと、魔術解いていいですか?」
「……いや、あのサイズだとまだどこかに潜伏している可能性がある。探知術式を使える奴がくるまで待った方が」
「僕使えます感知術式!」
用意しておいてよかった感知術式! なかったらこの格好のまま人が集まってくるのを待つ苦行に突入するところだった!
「あ、使えるのか……じゃあ頼む」
……なんで燐堂先輩残念そうな顔するんだろう? まあいいや、とっとと使おう。
「いきます。《探査》」
術式を使用する。これで僕の展開した領域内に語モノが存在すれば、反応が返ってくるはず。
結果は……なし。
「僕の展開した領域内に語モノの反応がありません。一掃できたみたいです」
「おっけ。じゃあ術式解除しよう」
束本がそう呟くと、周囲を囲んでいた鎖が消えた。ブレードはすでに消えていたので、これで束本が展開していた術式は全部消えたんだろう。身体強化は目に見えないからわからないけど。
それじゃ僕も。燐堂先輩がさっきからじっとこっちを見てるから、居心地がちょっと悪いんだよね。
「あの……僕も術式解除するから、ちょっとまた目を背けててもらえますか?」
「え、元に戻る時も? もしかして一瞬裸が見えちゃうとか?」
束本の言葉に僕は首を振る。
「ステラが言うには、見える事はないらしいけど……気分的な問題で」
「そっか。まぁ了解」
束本は特に食い下がることなく背中を向けた。いや正直束本はあまり僕の恰好ガン見しているわけじゃないから別にいいっちゃいいんだけど。先輩がわりと全身目に入るように見てるんだよね、だってさっきから微妙に目が合わない。
変な恰好だなーとか思って見られてるのかなぁ。それとも……この格好正直股間部分とか完全にレオタードでちょっとエッチだから男の子としてどうしても視線がいっちゃうんだろうか?




