戦闘開始
僕の言葉に応じて、僕を中心とした半径50mの位置に球型の領域が展開される。
目に見えた変化はないが、術式がきちんと発動したのは使用者である僕にはわかる。
「発動しました」
僕の言葉に燐堂先輩は周囲を確認し、
「変化は特にみえないが……問題ないんだな?」
「フラジールさんに検証して頂いた術式です、問題はありません」
「わかった」
僕らの中では最も信用度の高い人物の名前を出したことで、彼は納得してくれたらしい。周囲を見回すのをやめて、目の前に表示したままの映像に視線を戻す。
「これで拡散する可能性はなくなったか」
「仕掛ける?」
束本の言葉に、燐堂先輩は少し考えてから僕の方を向き、
「この結界、どれくらい持つんだ?」
どれくらい持つと思う? ステラ。
『魔力フルチャージ状態だし、追加の術式を使わなければこの程度なら数十分いけるわよ』
「数十分はいけると思います」
「長いな……だとしたら仕掛けるより増援を、いや」
恐らくは増援を待とうと言いかけたであろう先輩の言葉が途中で止まる。その理由は僕らにもすぐに解った。
燐堂先輩の監視術式の中に映し出さている、これまで微動だにしなかった吸血鬼が動きを見せたのだ。呆けたように中空を見上げていた視線を落ろし、歩き始める。──こちらへ向けて。
「行くしかなくなったな。束本、俺がオフェンスに回る、お前は伏谷の守りをメインに動け」
「了解、お任せ」
「俺はこのままアイツに向けて術を叩き込む。そしたらあいつは拡散するはずだから後は各庫撃破だ。何か確認しておくことはあるか?」
「僕から一つだけ。アイツが分散したら、動きを遅くする術式を使おうと思います」
僕の言葉に、燐堂先輩はほぉと感心した風な声を上げる。
「そんな術式も使えるのか。わかった、助かる──それじゃ、行くぞ」
先輩の言葉に、僕と束本は頷きを返す。それを確認した先輩は、交差点へ向け駆けだし、飛び出すと同時に叫んだ。
「《アイススパイク》!」
声が響くと同時、先輩の足元から地面を伝うように氷が伸びていく。そして、次の瞬間には甲高い音と、何か低い悲鳴のようなものが響き渡った。そして、直後、先輩の視線の先の方から黒い何かが宙に舞い上がる。
それを確認した瞬間、僕は次の術式を発動させる。
「《重圧》!」
この術式は、僕の展開した領域内に存在する語モノにかかる重力を増加させる術式だ。相手を押しつぶす程の力は当然ないが、動きを鈍らせることはできる。特にあのサイズならそれほど力がないはずで、充分効果が出るだろう。
実際、舞い上がった黒い存在……蝙蝠の群れは、目に見えて速度を落とした。
「《コキュートス》」
その動きの鈍った蝙蝠たちを囲うようにして、氷の塊が出現する。その塊から逃れられなかった蝙蝠たちはそのまま氷漬けになり……次の瞬間には、氷と一緒に粉々に砕け散った。
だが、その氷の塊に捉えられたのは極一部だ。巻き込まれなかった蝙蝠たちはその氷から逃げ出すように四方八方へと拡散する。
「俺は向こうへ逃げたのを追う! そっちは任せたぞ!」
言葉と共に燐堂先輩は駆けだし、姿は家々の向こう側に見えなくなった。
それと入れ替わるようにして、蝙蝠の一部がこちらに飛来してくるのが見える。その光景に僕が思わず一歩あとずさると、ポンと肩が叩かれた。
「大丈夫、那岐には私が一切近づけない。ここから動かないでね」
そう告げて束本は前に飛び出し、術式を行使する。
「《銀鎖を吐く蜘蛛》」
彼女の周囲から、銀色の鎖が4つ同時に出現したかと思うと、その4つがそれぞれバラバラに動き出し、縦横無尽に周囲を走る。そして瞬く間に周囲には銀色の鎖が張り巡らされた。まるで蜘蛛の巣のように。
続けて彼女は自分の足に触れると、続けて術を発動させた。
「《跳躍強化》《銀の刃》」




